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雨の談合

 城下を流れる逆川はたちまち水量を増した。

 すでに水面が堤防に近い。

 

 徳川軍は三ノ丸を占拠したまま厳重に警戒していた。

 他の敵は砦に籠ったまま身動きひとつしない。


 風魔党は二ノ丸の兵士詰所で冷たい雨をしのいでいた。

 多くの朝比奈兵でひしめき合っている。

 負傷兵も混じっていた。皆、意気消沈している。

 鉄壁と思っていた城に敵の侵入を許したからだ。


「主水さん遅いっすね」

「そうだな、本営に行ったきりだ」

「ちょっと俺みてくるよ」


 頼斗が出掛けた。香鈴と並んで耳がいい人物である。

 矢除けの盾を傘代わりにして本営に行くと、同じように様子を見に来ていた朝比奈の兵達がいた。


「お、相模衆か」

「どんな様子だい」

「かなり雰囲気が悪いみたいだ」


 頼斗は中の話し声に耳を傾けた。

 怒声が聞こえるが、激しい雨音で非常に聞き取りづらい。


 辛うじて聞こえた。

『我々が敵の砦をひとつ叩き潰したというのに貴殿らは何をしているのか!』

 と言うような事を言っている。


(ああ、主水さんが言ってた、日根野備中と言う人だな)


 怒声の応酬が始まった。

『朝比奈の兵達を自分たちの兵の如くに勝手に采配するとは何事か』

『そうだ!』

 激しく揉めているらしい。


「頼斗か、ご苦労さん。」

 背後で声がした。振り返ると一貫だった。

 傘の中に香鈴もいる。

 その後ろに小春と姫が同じ傘の下にいた。

 さらに小倉且久と新野甚五郎が同行していた。


 六人が本営の中に入って行くと怒声が収まった。

 かなり時間がたった頃、「おう!」という男たちの声が響いた。

 ぞろぞろと朝比奈の家臣たちが出てきた。

 主水も出てきた。


「頼斗か。姫が危ういところをまとめてくれた」

「え、姫が?」

「日根野殿の手柄を北条が賞する。それを掛け合うから、と言ってようやく収まったんだ」

「え、でも日根野さんて、北条とかの強い人嫌いなんじゃ」

「あの方にとっては自分の武勇が鳴り響く。これだけで満足なんだよ」

「ふーん」

「ま、武将というのは見かけによらず、繊細って事だ」

「・・・・・・ですか」

「それより頼斗、俺は姫を見送って来る。お前は仲間の所に戻って、絶対城外に出ないよう伝えてくれ」

「城外に? 誰も出ないと思うけど・・・・・・、はい、分かりました」


 新野甚五郎が出てきた。


「雨宮殿、早速行って参る。それがし言い出しっぺなのでな」

「うむ。拙者も同行いたす。しばし待たれよ」


 日根野備中も出てきた。


「雨宮殿、お主の主人は大した者じゃ。おなごにしておくのが惜しいわい。ワッハッハッハ」



 城内ではなぜか農工具が集められ始められた。


 依然、強い雨が降り続いている。

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