狂兵
西門から徳川軍を遠ざけた頃、東門では厳しい攻防が続いていた。
攻城隊は多数のハシゴを用意して城壁を乗り越えようとしていた。
槍で敵を寄せ付けまいとするのだが、城外から矢を無数に討ちかけてくるので、思うように守備ができない。遠くから弓で応酬する事しかできない状態だ。
城壁を乗り越えようとする敵を弓で射落とす。
しかし敵は倒しても倒しても続々と城壁に沸いて出てくる。
一人の兵が壁の内側へ飛び降りた。
門に向かって駆け寄る。
矢が集中し、たちまちハリネズミの様になって倒れた。
その隙に新手が次々と城内に飛び降りた。
一斉に城門に向かう。
再び矢が集中した。
次々倒れていくが、一人が城門のカンヌキに縋りついた。
無数の矢がその背中に吸い込まれる。
男は血を吐きながら倒れた。
カンヌキは外されていた。
「おおっ!」
喚声と同時に城門が開かれ、敵が一気になだれ込んできた。
激しい勢いである。
弓を持った味方の兵は一気に浮足立った。
「弓衆、下がれっ!」
弓兵の替わりに槍を持った将兵が立ち向かった。
東門から三ノ丸に通じる通路である。
弓衆は両脇の土塁へ駆け上った。
ここを突破されればすぐ三ノ丸である。
食糧をはじめとする物資の保管場所の一つがある。
朝比奈衆は必死の応戦を試みるが、敵の勢いに押されている。
敵は倒れても倒れても次々攻め寄せてくる。
矢を受けたまま土塁を駆けのぼり、朝比奈の弓兵に組み付く者までいる。
「おうおう、狂った様な戦い方じゃのう。三河兵じゃな」
一貫は本丸の崖際からそれを見ていた。
傘をさしている。
眼下を香鈴が走って来た。
後ろに朝比奈の兵たちが続く。
「おーい香鈴ちゃん、こっちへ来なさい。」
「あ、一貫のおじいちゃん。」
立ち止まって、朝比奈兵に顔を向けた。
「じゃ、みんな。生きて戻るのよ!」
香鈴は崖を迂回して登った。
そのまま登れるが、朝比奈兵が見ている。
忍びの習性を抑えた。
「一貫のおじいちゃん、一体どうなるのかしら」
ずぶ濡れだが、息一つ切らしていない。
「なに、どうという事は無い。このいくさはもう負けが決まっておるでな」
一貫は周囲を見回しながら言った。
「後はどううまく負けるかじゃよ」
「うまく負ける?」
「そう、大将の決断次第じゃよ」
「皆下がれっ、二ノ丸に撤退せよ!」
朝比奈俊永が叫んだ。
西門の守兵が応援に駆け付けた時、すでに手遅れだった。
三ノ丸は敵に占拠されてしまっていた。
風魔党も駆けつけたが、既になす術がなかった。
『相模の家』は破壊され、食糧は堀に投げ捨てられた。
「おいおい、俺たちの住処が無くなっちまったぜ」
冷たい豪雨が続いている。




