逆襲と危機
主水は三ノ丸の櫓から戦況を見極めていた。
敵に一撃を与えた後、再び戻って籠城。
普通そうするに違いない。
だが、日根野備中は敵をどこまでも追いかけていった。
(金丸山を襲いに行ったんだ!)
主水は直感した。
櫓の上の、朝比奈兵たちが騒ぎ始めている。
「おい、あいつら敵を追いかけて行ったまま戻ってこないぞ!」
美濃衆は逃げる遠江兵達を追いかけ、西へ突っ走っている。
強い将に率いられると、兵たちは更に力を発揮するものだ。
「よしっ、俺たちも行くぞ!」
美濃衆に勇気付けられ、朝比奈の軍も、次々まとまって城を飛び出して行った。
主水はじっと遠くを見続けている。
遠江の兵達は砦へ逃げ込んだ。
その後を美濃衆が、柵を破壊して乱入していくのが見えた。
(何てヤツらだ・・・・・・)
「おおおっ!」
遠くから喚声が聞こえてくる。
北の方角から敵の一軍が金丸山に向かい急行した。
天王山から救助の一軍が差し向けられたに違いない。
金丸山は激しい乱戦になるだろう。
(無事戻ってきてくれ、日根野殿)
そのとき背後から香鈴の声がした。
「主水ぉ、大変だよぉ!」
「どうしたぁ」
主水が振り返ると、空堀を隔てて香鈴の姿があった。
両手を口に当てて、精一杯声をあげている。
「東門が破られそうなんだよぉ!」
「なにぃ!!」
付近の朝比奈兵たちが一斉に声を上げた。
「手の空いてる人は来てぇ!!」
香鈴は斜面を駆け降りてきた。
しばらくここは大丈夫だろう。
残っていた朝比奈兵の大半が東門へ向かって走り出した。
先頭を香鈴と白い大型犬、エンマが走り、槍をもった兵達がそれに続く。
「みんな急ぐのよ! 味方があんたたちの助けを待ってるからね!!」
「おおうっ!」
朝比奈兵たちが一斉に声をあげた。
(まるで香鈴が一軍を率いているようだな)
主水は苦笑しながら櫓を降りた。
「誰か香鈴の代わりに姫の元へ。そうだ銅馬と才可、お前ら行ってくれ。虫丸と八弥はここに居て、何かあれば知らせてくれ、他の者は付いてこい」
主水は配下に指示し、東門へ向かった。
雨が降り始めている。やがて大粒の雨になり戦場を濡らし始めた。
その頃、金丸砦では、日根野軍が遠江衆を蹴散らし、砦を破壊しつくしていた。
潤沢な食糧が備蓄されている。
「者どもっ、喰えるだけ喰え!」
戦いのさ中、一部の者に米を炊き出させ、救援に来た三河勢と激突した。
高台の上なので日根野軍の有利である。
戦っては喰い、喰っては戦いしながら三河勢を撃退した。
「三河のコメは美味いのぉ! 貴様ら褒めてやるぞっ! ワッハッハッハ!!」
日根野備中は槍を抱え、高笑いしながら握り飯に喰らいついた。
傷を負った遠江兵が身を震わせて叫んだ。
「違う、それは遠江のコメだ!!」




