滅亡と共に
「西の砦、金丸山。徳川の補給拠点だ。あそこを叩き潰せば連中は焦るに違いない」
日根野備中は指さしながら、主水に説明していた。
先日の弁当の件以来、主水とは話す機会が多い。
朝比奈の会議にも顔を出すようになったが、どこかまだ一線を置いているようだ。
「しかもあそこを守るのは久野衆だ。徳川の勢いに押されて表面上は従っているが」
年の頃は五十に近い。
一年ほど前、美濃斉藤家が滅亡したとき今川家に流れてきた。
「我らが武威を見せれば、今川に戻る公算が高い。そういう訳でござるな」
主水が引き取った。
「いかにも」
数か月後、この人物は近江浅井家に仕える事になる。
浅井家が滅亡した後は伊勢長島一向一揆に参加し、それが滅亡した後は織田信長に拾われ、本能寺の変まで仕える事になる。
行く先々で滅亡を目の当たりにする数奇な人生である。
それにしても、現在の今川家もまた滅亡寸前であることは、誰の目にも明らかなのに何故だろう。
主水は疑問をぶつけてみた。
「失礼でござるが何故今川家へ」
「ふむ、強い者と戦うには弱者に付くのが一番だらの。弱者を痛めつけても名が挙がらんわい。ワッハッハッハ。」
自らの依って立つ場所を守るために戦う武将が多い中、異なった価値観を持っていた。
おそらくこの人物にとって、戦場とは自分を表現する舞台、主君とはスポンサーに過ぎないのだろう。
(武芸者に近いな)
主水はそう思った。
「それにしても、ワシは今川家から是非にという事でここに来たのだが、氏真様に一度もお目に掛っておらん」
「小倉且久殿が全て取り次いでおるのでござろう」
「いかにも。朝比奈の指示に従えと、そればかりだ。気に食わん」
先日の夜戦の時も、敵の石川隊へ切り込みを掛けたらしい。
部下を数名失ったそうだが、それに対して何の音沙汰もない。
そういった事の積み重ねがこの城への不信感を募らせていたらしい。
いずれにせよ、主家への忠誠心よりも自分たちの武芸で世を生き抜いていきたい。
その感性は風魔党と相通ずるものがある。
主水とは波長が合うのだ。
「我らは北条の姫君を守護する為にここに居るのだが、何かあれば美濃衆の力をお借り頂けると幸いでござる」
「よろしかろう。北条家へも我らの武名を伝えて下されよ。ワッハッハッハ」
根は明るい人物だ。なればこそ流浪に近いこの人物に大勢の家来が付いてくるのだろう。
「今朝から急に敵陣の動きが活発になりましたな」
「うむ、そろそろ総攻撃が近いのだろうて」
そう話しているとき、城外から割れんばかりの歓声が上がった。
「何だ!?」
二人は慌てて北方が見える場所へ移動した。
ひときわ精強そうな軍団が、城の北側を通過し、天王山へ入ろうとしていた。
「徳川の本隊だな。家康が戻って来たんだ」
いよいよ本格的な攻防が始まろうとしていた。




