流れ者
暗い室内には屈強な男がひしめいていた。
朝比奈の男たちとは雰囲気がまるで違う。
中心には壮年の、威圧感にあふれた男がいた。
「我らは今川氏真様たっての願いで力をお貸ししているのだ。朝比奈の家来になるつもりはない。帰れ!」
若い家来が立ち上がり、お佳代の持つ弁当を払いのけた。
木箱が壊れ、中身が土間に飛び出した。
「ああっ、お佳代さん!」
お佳代は青い顔をしている。
「ちょっとあんたたち、何するのさ!」
香鈴はお佳代の前に割って入り、甲高い声を上げた。
「なんだお前」
「このお弁当はね、朝比奈のお殿様がね、敵を退治するのにあんたたちと仲良くしなきゃって作らせた物なんだよ。家来になれとか、何勘違いしてるのさ!」
「面白い女だな。おい、黙らせてやれ」
壮年の男の横に居る二人の家来が座ったまま刀に手をやった。
ツバから小刀を抜き、香鈴とお佳代に向かって投げた。
二本の凶器が二人の顔をかすめる。
「カン!」と音を立てて背後の壁に突き刺さる・・・・・・はずだが音が立たない。
小刀は香鈴の左右の人差し指と中指の間に挟まっていた。
「おお!」
男たちは感心の溜息を上げた。
「あんたたち危ないじゃないのさっ、当たるとケガするじゃないの!」
複数の男が立ち上がり抜刀した。
お佳代も覚悟し、戦国の女らしく懐刀を抜いた。
香鈴は小太刀二刀を抜いて構えた。
その時だった。
「ワーハッハッハ。お前ら刀を納めろ。愉快なおなご共じゃ」
壮年の男は二人の前にずいと進むと、「すまん」威圧感そのままに頭を下げた。
「見たかお前たち、この城の連中は軟弱者ばかりだと思っていたが、おなご共の方が強いわ」
香鈴は呆然としながら小刀を返した。
「お主、誰の配下だ。長はどこにいる。」
「雨宮主水。三ノ丸の『相模の家』にいます・・・・・・」
「相模衆か、道理でな。おい誰か迎えに行ってこい。それと酒だ!」
(え、お酒!?)
この非常時に酒など飲んでいいのだろうか。
お佳代は無理やり座らされた。
香鈴も仕方なく並んで座った。
二人に盃が手渡される。
「困ります。私は城中の仕事が・・・・・・」
お佳代は困惑しきっている。
「なに、気にするでない、このお方は美濃六人衆の一人、日根野備中守様だぞ」
「そうだぞ。遠慮するな。飲んだらお前の殿さまと仲良くしてやろうと仰せだ。」
「ほ、本当ですね、お弁当の方も・・・・・・?」
「勿論だ。毎回残さず全部食ってやる。ワッハッハッハ。」
お佳代は意を決して飲んだ。
「おお、お佳代どの、いい飲みっぷりだ。それによく見れば美人ではないか。」
男たちは囃し立てた。
「あ、あら、そうかしら?」
目元が赤い。
主水が訪ねてきたとき、座がすっかり盛り上がっていた。
香鈴は日根野備中率いる美濃衆とすっかり打ち解けていた。




