異端児
香鈴は姫の使いで城主の母の元に来ていた。
侍女懐妊のお祝いを頂いたので、その礼状を届けに来たのだ。
殺気立ったさ中にあっても女性らしい気配りを忘れてはいない。
公家の出身らしく教養深い母でもある。
香鈴の知らない話しを色々と聞かせてくれた。
「あ、そうだ、ご母堂さま。あたしそろそろ帰んなきゃ」
もっとここに居たいような気がしたが、姫の身辺警備が担当なので、そろそろ遠慮する事にした。
昼食時である。
城の女性たちが弁当を運んできた。
戦中である。大多数の兵卒は交代で自炊するが、高級将校以上には弁当が配られる。
といっても中身は質素なものだ。
「お殿様はこちらで召し上がるとの事で、お持ちしました。お小姓方の分もございます」
そこへ城主、朝比奈泰朝が戻って来た。
「ご苦労」
顔色は明るい。死傷者を出したものの、敵の大軍相手に一歩も譲らないところを見せつけ、意気が上がっているようだ。
女性たちは頭を下げた。
「どうだ、連中たちへも持って行ってくれたか」
「そ、それが、相変わらずでして」
「そうか、いらんと申すか。無理強いはいかんが一致団結せねばならんのでな。我らにも心を開いて欲しいのだが」
(連中って誰なんだろう)
香鈴は考えたが思いつかない。
「お主、相模の香鈴だな」
城主は香鈴に目をやった。好意的な光を感じる。
「母者がお主をいたく気に入っての」
「え、そうなんですか?」
香鈴は城主の母に目を向けた。
にっこりうなずいている。
香鈴は頬を赤らめた。
「そうだ、香鈴、お主一緒に持って行ってくれんか」
「え、どこへ?」
「美濃衆のところだ。お佳代、済まんが香鈴と一緒にもう一度行って来てくれんか」
「ええっ・・・・・・! は、はい、分かりました」
露骨に嫌そうである。
二人は並んで足場の悪い坂を下りて行った。
「あの、お佳代さん、あたしたち何処へ行くんですか」
「二ノ丸です」
「二ノ丸の誰のところに行くんですか」
「日根野っていう人の所です」
「日根野ってどんな人なんですか」
「ここでは異端児です。そして最ッ低な人です」
それっきりお佳代は黙り込んでしまった。
狭い通路を通り門兵に挨拶して二ノ丸に出た。
「あそこがそうです」
お佳代が指差した所に、急拵えの陣屋があった。
明らかに周囲と雰囲気が違う。
他を寄せ付けない、際立った武の匂いがする。
お佳代は恐る恐る中に入った。
香鈴もそれに続いた。
中は暗い。
「また来たのか。我々は朝比奈の家来ではない。帰れ!」
中から響きの強い男の声が聞こえた。




