表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/91

四囲

「これを持って相模に戻るとしよう」


 湧谷右近は呟いた。

 手には援軍要請を求める今川氏真の書状があった。

 もっとも書いたのは小倉且久である。

 見事な文面である。

 優れた教養人なのだろうが器が小さく、欲が深い。


「遅い。徳川が来る前にこれが欲しかった」

 主水は悔しげに言った。


「右近、大事な通信だ、よろしく頼む」

「ああ、任せとけ。だがな主水、北条軍はもう進発しているかも知れんぞ」

「なぜ?

「暮れに俺は越後へ旅してきた。わずかな間に三度もだ。何しに行ったか分かるか」

「もしかして、上杉と和睦か」

「そうだ。俺はただの護衛だがな。だが使者の顔を見れば何を話したか察しは付く」

「それで」

「関東公方を受け入れたようだ」

「まさか。そのことで長い間張り合ってきた来たんじゃないか」

「そうなんだ、俺も信じられん。それだけ武田に腹を立てているのだろう。幻庵様も折れたらしい」

「すると敵が減るから、こちらへ兵を回せるわけだな」

「そういう事だ。すでに三島には兵が相当集まっていた。武田を西へ追いやってな。小田原から命令が来次第、氏政様が率いて出撃する手筈になっているとの事だ」

「そうなのか。後で本営に報せて来よう。で、どれ程の軍勢なんだ」

「聞いた話では四万を予定しているらしい」

「そ、それはすごいな」

「ところで今川からも、上杉に同盟交渉の使者が出掛けたらしいな」


 今朝、朝比奈家臣が数名越後へ向かった。

 上杉へ同盟を求める書面を手にしている。

 書面はやはり小倉且久が書いた様だ。


「遅い!」


 新野甚五郎と先刻話し合ったばかりだった。

 香鈴は横に居て耳を傾けていた。


 要するにみんな、上杉と仲良くしたいと言う事らしい。


「で、主水よ。姫はなぜ戻らんのだ」

「それが分からんのだ」

「分からん? それでは仕事にならんだろう」

「それもそうだが、俺は姫を守護し続ける。いずれにせよ、時間が掛っても相模にお連れするつもりだ」

「姫に惚れたのか」


 右近はニヤリとして言った。


「まあ、そんなところだ。」


 主水は生真面目な顔でそれに答えた。

 その夜、湧谷右近は配下を引き連れ城を離れた。



 敵は、新たに三か所の砦を、驚くほど短期間で完成させていた。

 土木建築に長けた技術者を抱えているらしい。

 機が熟すと同時に一気に攻めかかって来るのだろう。



 毎晩鉄砲を射かけ、太鼓の音を鳴らしてくる。


「嫌がらせのつもりなのだろうが、そのような事をしては自分たちも眠れないだろうに」


 主水はそう思いながら、眠りに付いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ