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命の伝言

 朝日が掛川城を照らした。


 徳川軍の主力は天王山に移動し、そのまま占拠してしまった。

 更に三軍を東、西、南のに配置し、四方からの包囲態勢を作り上げた。

 城を取り巻いたまま、距離を置いている。じきに総攻撃が始まるだろう。


 味方の損害が明らかになってきた。

 死傷者が百人近かった。

 敵にはそれ以上の損害を与えたはずだが、依然戦力差は開いたままだ。


「伊之助が里に伝えてくれたのだな」


 風魔たちは『相模の家』に集まっていた。

 香鈴もいる。


「伊之助。あの伝令を務めた若者か。なんでも三島の山中で甲州素波に追いかけられたらしく里に着いた時は傷だらけだった」


 湧谷右近が言った。

 年配の風魔たちを束ねている男だ。

 いや束ねているというより、世話役と言う方が近いだろう。


「えっ! あの伊之助が?」


 香鈴たちは一斉に驚いた。


「そうだったのか。で、伊之助は無事なのか」

「へばりきっておったから置いてきたが、多分大丈夫だ。黄金丸は心配していたがな」

「甲州素波と言ったな」

「そうじゃ、投げクナイが刺さっておったらしゅうてな。あれは甲斐の連中が好む武器じゃ」


 一貫だった。

 続けて言った。


「ところで武田が今川氏真公を狙って暗殺者を送り込んだらしいが、知っておるか」


 香鈴は知っていたが、言いそびれていたのでバツが悪かった。


「暗殺者には暗殺者と言う事らしい。四代目から行けと言われての。ワシャもう引退しとるんじゃが頼まれたら断れん性格での。ハッハッハ」

「まさか、氏真公をお守りするわけでは」

「もちろんない。姫が巻き添えにならんように目を光らせるのがワシの仕事じゃ」

「では我々と一緒に」

「うむ、しばらく厄介になるぞ」

「右近は」

「俺はお前の顔を見に来ただけだ。じき帰る。お前まだ他に三十人の部下がいるだろう。みんな寂しがっていたぞ」

「そうか、みんなへ済まんと伝えてくれ」

「分かった。で、伊之助が三つの伝言を里へもたらした」

「三つ」

「そうだ。一つ目は『徳川が来る』これは分かった。二つ目は『姫は戻らん』本当にそうなのか」


 香鈴や才可、八弥たちもうなずいている。


「そうか、事情がありそうだな。おいおい聞こう。それで三つ目なんだが、これが意味が分からん。どういう事なんだ」

「伊之助は何て言ってたんだ?」

「命がけで我々に伝えた言葉だ、忘れもせん。『小春さんが危ない』とな」


(へ・・・・・・)


 香鈴をはじめ、銅馬や笹助に主水まで、皆口を開いたまましばらく唖然としていた。


 城内はまだ騒然としている。

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