突破
「なあ、鉄砲奉行やられちまったな」
天王山の木々の間から星空が見える。
孤立した三百人は不安な夜を迎えていた。
「ああ、いい人だったのにな。なあ相模衆、あんたらまで巻添いになっちまって。俺たちどうなるんだろう」
「東は包囲が薄い」
笹助はぼそりと言った。
「え?」
「逃げるなら東からだ」
その時、「ドン」という音が響いた。
と同時に南の空に赤い火が尾を引いて上がった。
「パーン」と言う音と共に明るい炎が上空で四方に飛び散った。
「才可だ!」
笹助と八弥は顔を見合わせた。
あんな事が出来るのは才可しかいない。
「なんだ今のは!?」
「城の方からだぞ!!」
天王山は騒然となった。
おそらく敵も騒然としているに違いない。
「と、言う事は・・・・・・」
「味方だ! 味方の救援の合図だ!!」
二人は大声で叫んだ。確かに東の眼下に無数の松明が見える。
「みんなぁ、降りてこぉい」
遠くから声が聞こえた。
「よし、みんな降りるぞ!」
誰かが声を上げた。我先にと一斉に山を降り始めた。
笹助は斜面を駆け降りながら西を見た。
無数のかがり火が近づいてくる。徳川軍だ。
天王山に取り残されていた者たちは次々と平地に出た。
「お主ら早く城へ戻れ! 東門が開いておるぞッ」
福島六左衛門だった。言いながら部隊を率いて敵へ突撃して行った。
(死ぬつもりだ)
笹助の目にはそう映った。
「八弥、一発ぶちかましてから行こう」
「どうしたんだ笹助。でもいいぜ」
二人とも夜目が効く。六左衛門の部隊の後ろを追いかけた。
その時、「ドン!」と二発目の火が上がった。
「パーン」と音を上げ、上空で炎が四方へ飛び散った。
一瞬敵の姿が照らし出された。
明らかに動揺している。
見知らぬ新兵器だとでも思っているようだ。
「掛れぇ!!」
六左衛門の怒声が響いた。
星明りの下、激しい乱戦が始まった。
二人は敵の側面へそっと近付いた。
甲冑を着て馬に乗った者がいる。敵の指揮官に違いない。
「笹助、あれにしようぜ」
「そうだな」
二人は茂みに身を潜め、狙いを定めた。
(今だ!)
「ドオン!」
二つの銃声がほぼ同時に響いた。
甲冑武者は馬から転げ落ちた。
「よし、逃げよう!」
鉄砲を持ったまま急いで走った。
城門が見えてきた。同時に二人は強い視線を感じた。
複数の者が俺たちを見ている。
誰なんだ。
気が付くと、知らぬ間に囲まれていた。
同じように夜目が効く連中のようだ。
「待て」
二人の前に甲冑武者が立ち塞がった。
普通の侍と違って気配を感じさせない。
「貴様ら、忍びの者だな」
にじり寄って来た。
「若いな。気の毒だが、死んでもらう」
甲冑武者は刀を抜いた。




