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逢魔の刻

 遥か西の山に太陽が沈んで行く。


 天王山の男たちは木々の間からそれを見守っていた。

 赤い輝きが徐々に小さくなり、消えた。


「者ども、行くぞぉっ!」

 福島六左衛門が大音声で吼えた。


「おおおっ!」

 赤く陰った天王山に、雄叫びが響き渡った。

 八弥と笹助も全力で叫ぶ。


 六左衛門を先頭に、一気に平地へ飛び出た。

 羽を休めていた鳥たちが、一斉に飛び立った。


 城へ攻め寄せていた敵は虚を突かれ、浮足立った。


「鉄砲隊急げ!」

 笹助達は先頭集団にいる。

 戦闘に先立って撃つ手筈になっていたのだが、味方の騎馬武者が怒涛の勢いで突進して行く。

 出撃を日没まで待たされ、指揮官たちも相当イライラしていたのだ。


(川が決壊した時の様だな)

 八弥も笹助も優れた体格の持ち主だが重い鉄砲を持っていては追いつけない。


「もうよい、ここで打て!」


 えっ?

 笹助達はとにかくその場で腰を屈めて射撃の態勢に入った。


「なにしとるっ! 早う撃たんかぁ!」

 一斉射撃するのではなかったのか。そう思いながら引鉄を引いた。


「ドオンッ!!」

 火を噴いてぶちかました。

 散発的に銃声が続く。

 味方に当たらないよう銃口を上に向けての射撃だった。

 両横を朝比奈の将兵が次々駆け抜けていく。


(こうなったら作戦もなにもないな)


「鉄砲隊下がれぇ!」

 言われるがまま味方と反対方向へ走った。

 最後尾に来て一息着いた。

 城門からも味方が討って出ているようだ。


「お前らよくやった! すぐに次の弾込めをしろ」

 奉行に指示され、八弥は鉄棒を外し、銃口に入れようとした。


(あれ、思うように入らない?)

 八弥は手が震えていることに気付いた。


(俺は怖がっているのか?)

 笹助を見ると同じ様子だ。

 他の鉄砲兵も弾込めに手こずっている。


 周囲を見回した。

 遠くまで良く見えるが視野が狭まっている。

 そこでようやく気が昂っている事に気付いた。


(よし、俺は怖がっていない!)

 徳川本陣から一軍が解き放たれ、こちらへ向かってくるのが見えた事に気付いた。


(ここまでは充分距離がある)

 八弥は苦労しながらも、落ち着いて弾込めを終えた。


(よし!)

 顔を上げた。さっき見た敵の一軍が、もう目の前まで迫っている。


「うおっ、早い!」

 先頭は鹿の角を兜の両側に着けた大男だ。


(また、こいつかっ!)

 八弥は思わず身を屈めた。

 そのすぐ近くを敵が一気に通り過ぎていく。


「ああっ!」

 近くで誰かが叫んだ。


 見ると鉄砲奉行の首が無くなっている。


 ドサッ。


 八弥の目の前に奉行の首が落ちてきた。

 そして二回ほど転がり、止まった。


 腹の底から熱い何かが噴き上がって来る感覚に、八弥は襲われた。


「うおぉぉーッ!!」


 ぶっ殺してやる! 敵に向かって駆けだした。


 しかし、がくんと上半身だけが前に折れ曲がった。

 誰かが着物の腰のあたりを掴んでいる。


「八弥落ち着け! お前は才可かっ!」

 笹助だった。


「敵の新手が次々来ている。俺たちは天王山へ戻るんだ!」

 見ると、味方は半分に断ち割られていた。


「急げ! もうみんな戻ってるぞ!」

 八弥は笹助に引きずられるように天王山へ逃げ込んだ。


 先に三百ほどの朝比奈兵が逃げ込んでいた。

 城の周囲は、遠江衆がそのまま取り囲んでいる。


 徳川本隊が天王山を囲み始めた。

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