おなごの戦い
香鈴は姫の居室に居た。
「姫様、いざという時はこの香鈴が、お守りしますからね。」
「まあ香鈴、勇ましいこと。あなたもこちらへいらっしゃい。」
姫は筆を置いた。お初と小春もいる。三人で写経していたようだ。
「ああ、疲れた。」伸びをした。二人もそれに倣った。
これから間もなく、いくさが始まろうというのに、緊張感が感じられない。
「あの、姫様、怖くはないんですか。」
「ほほほ、怖がっても何もいいことありませんよ。」
「ま、そうですけど。」
「香鈴は怖いの。」
「怖くなんかありません。」
「では、その胴丸を外して。鉢巻も取って。」
「でも、あたしは姫様を守る役目が。」
「わたくしを守るのは男たちの仕事です。香鈴、あなたはおなごです。」
「・・・・・・。」
「あなたがここに居てくれるだけで心強い。ね、お初、小春。」
二人は心強そうに頷いた。
「いくさにおなごの出番はありません。ここに居て、いくさが終わるのを待つのです。それがおなごの戦いです。」
「はいっ。わかりました。」
姫はにっこり香鈴を見ている。
「あ、姫様、ここに新野って人来ませんでした。」
「来ましたよ。香鈴とは顔見知り。」
「いえいえ、そんな。顔見知りって程じゃないです。」
「伊井谷に居たそうですが、あそこは揉めに揉めているそうで。」
「そうみたいですね。」
「それでこちらに移ってきたそうです。」
「そうなんですか。」(結婚してるのかしら。)
「御屋形様にご挨拶して、それからわたくし共のところへ挨拶に来られたのです。」
「そうなんですね。」
「小春に気があるんじゃないかしら。あなたの方を何度も見てましたよ。」
(え。)
「まさか、奥方様。気のせいかと思います。」小春は顔を赤らめていった。
(小春さんたら、才可に気があるんじゃなかったっけ。)
「姫様、やっぱりあたし、じっとしてるのが苦手なんですよね。」
香鈴は挨拶して外に飛び出た。城兵が半分になった掛川城はいつもより活気がない。
敵に悟られないよう、旗を多く出し、わざと敵から見える場所を歩いたりしている。
「みんな、あたしも手伝うよ。なんかやらせて。」
部屋にもその声が聞こえてきた。姫は思った。(香鈴がうらやましい。)
徐々に周囲は緊張の度合いを増していく。




