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伝令者

 伊之助は物まねが上手い。

 連雀商人や傀儡子などを出鱈目に演じて仲間を爆笑させた事が何度もある。

 特徴をつかむのが上手く、何となく雰囲気が似ているのだ。

 その伊之助が香鈴の作った半弓を手にし、獣の皮を防寒用にまとうと、どこから見ても山の猟師にしか見えない。


「山道を進むんなら、四、五日かかるな」

「できるだけ早く行きますよ。主水さん。それと才可、炸裂玉くれないか」

「いいぜ、全部持ってくか」

「いや一つでいい」


 単独行である。

 行商人は賊に狙われる可能性が高いし、僧侶の衣装が手に入らなかった為、今回はこの装束となった。 山中を進むなら、万一武田の兵に追われても逃げることができる。

 物まねと同時に足の速さが自慢の伊之助だ。このような役目は適任である。


「伊之助、気を付けていくんだよ」

「香鈴さんありがとう。お前ら、小春さんに勝手にちょっかい出すなよ。俺は小春さん派筆頭なんだからな。じゃ、行くぜ」


 城門をくぐり、足早に城を出た。

(まずは大井川に出て、川沿いに上流に上がって島田の北で渡河しよう)

 伊之助の頭にはすでに順路が出来上がっている。




 山間部を抜け、大井川まではすんなりと来れた。

 伊之助が知っている大井川と何かが違う。

 対岸にいくつも砦があるのだ。明らかに武田軍だ。


 主水の配下として、この辺りは何度も通過しているが、以前は無かったはずだ。

 大井川は駿河と遠江の国境である。

 いくら猟師に扮しているとはいえ、白昼堂々と国境を越えると怪しまれるに違いない。

 伊之助は夜を待った。


(武田が砦を築いているってことは、甲州素波はいないってことだな)


 武田は素波衆を先遣偵察部隊として用いる。

 その上で「確実に進出できる。」となった時に一気に侵略を行う。

 拠点を築いて兵を駐屯させたら、もう素波は要らない。別の場所で働いている。

 しかし例外がある事も伊之助は知っている。


 伊之助は夜明け近くに大井川を渡った。

 今の時期、水量は少ない。しかし、流れは速い。

 氷の様に冷たい富士の湧水をかき分ける。

 ところどころ水深の深い場所があって、よろめきながら渡り切った。

 水から上がると体が重い。暖を取ろうとは思わない。走っている内に体が温まるだろう。


 獣の気配を感じる。

 伊之助は走りながら干飯をかじった。

 味噌を塗ってあるので塩気が効いて上手い。

 眠気が襲ってきたが、夜は寝ないことにしている。凍死するからだ。

 陽が高くなった頃仮眠し、再び走った。


 三日経った。


 仮眠から目覚めて安部川に出たとき、ぎょっとした。

 数千人規模の武田軍を発見したからだ。西へ向かっている。


(遠江に攻め込むつもりなのか)


 そうなれば徳川との挟み撃ちにあって、掛川城は一瞬で壊滅するだろう。


 伊之助はまた夜を待ち、川を渡った。


(ちっ)

 兵に見つかったようだ。山に逃げ込む。


 無事に撒いた様だ。しばらく走った。


(おかしい・・・・・・)

 侍ではない、違う者の追う気配だ。


(甲州の素波だな)

 延々と走り続けているが、じりじりと距離が縮まっているのを感じる。


 三島の山中で伊之助は振り切るのを断念した。

 相模に背を向け、十手二丁を構えた。


「お主に追いつくのは、実に大変だった。」

 山岳修行の風体の男が闇の中から現れた。


(かなりの手練れだ。強い)


 伊之助は懐に炸裂玉が有る事を思い出した。

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