軍議
大広間の中央に絵図面が置かれた。
掛川城を中心とした、地図だ。
朝比奈俊永は碁笥から 碁石をジャラリと掴み上げた。
「まずはここ、城に残す兵だが」
言いながら俊永は白い石を十五個、絵図面中央に置いた。
「城に残す兵を、千五百としよう」
一個の石が百人を表わすらしい。
「次に、天王山へ千五百」
城の北東、天王山の位置する箇所に白い石を十五個置いた。
大胆にも全兵力の半分を奇襲隊に充てようと言う事らしい。
「これが我らの全兵力だが」
皆、黙って聞いている。
「次に」
黒い石をじゃらりと掴み、絵図面、城の西側にばらりと転がした。
黒が徳川軍のようだ。
「できれば敵の大将を仕留めたい。が・・・・・・」
黒い碁石を一つだけ、すっと城から遠くへ移動させた。
「恐らく後方に陣取るであろう。届かん。ならば」
続けて十数個の黒石を、城の西門前に一列に並べた。
「敵の寄せ手は恐らく遠江衆だが、間違いなく西門へ殺到するはず。せめてもの事」
俊永は天王山の白石を順に北側へ移動させ、寄せ手の黒石の傍へ集めた。
「今川を見限った者どもに、我らの正義をぶつける!」
(正義、か。俺たち風魔はどちらかと言うと悪党だがな)
主水は人知れず苦笑した。
「別動隊の攻撃が始まると同時に、城内からも討って出る。ここまでで何か意見のある者は」
「俊永様、別動隊はその後どうなるのですか。天王山へ戻るのですか」
家臣の一人が尋ねた。
「話しを先へ進めよてか。よかろう」
満足げに頷いた。
「天王山へ退却し、布陣する。その後は、片方が攻められれば片方が攻撃し、を繰り返す。これがワシの考えだが、皆いかがか」
誰も何も言わない。
決定したかと思ったとき一人が声を上げた。
「敵が想定以上の兵力だった場合はどうなるのでしょうか」
新野甚五郎という、最近掛川城に来た男だ。
場の空気が明らかに変わった。
部外者が水を差しおって。
そういう空気になったことを察したのか、新野はそれきり口を閉ざした。
「あらゆる状況を想定するのは大事だが、考え過ぎては気後れするものだ。他に何かないか」
朝比奈の家臣たちの中にはざまを見ろ言わんばかりの視線を送っている者もいる。
「では最後に指揮官だが、此度はこの俊永が、」
「お待ち下され!」
一斉に視線が注がれた。福島六左衛門だった。
「若の仇を討ちとうござる。此度だけはこの六左衛門にお命じ下され! なに今度は馬をなくすようなヘマは致さん。殿、お頼み申す!」
「叔父上、いかが致す」
「泰朝どのの意向のままに」
「分かった。では指揮官は福島六左衛門。じい、そなたに任せる。皆の者、良いか」
「ははっ!」
「軍の編成はじいの思うとおりに致せ。皆の者、じいに協力せよ!」
出陣が決まると、物資の在庫確認となった。
勇ましいだけでは戦うことはできない。
元より籠城に備えて食料その他、膨大な量が蓄えられてはいる。
しかし、いざ開戦となるとまだまだ足りない気がするものだ。
新たに物資を追加調達する事が決まり、この日の会議は終わった。




