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 朝比奈泰朝が口を開いた。


「今日はいつもより多くの者に来てもらっておる。まず北条からの客人の事だが」


(俺たちの事か)


「我らに交じって、実によく働いてもらっておる。まさか相模へ追い返そうという者はおるまいな」


 主水はそれを聞いて、思わず頭を下げた。

 これまでの働きが認められたようだ。


「相模の客人よ、いくさが始まるが、いかが致す」


 朝比奈泰朝は主水に問いかけた。


「われらは、姫をお守りしとうござる。願わくば、もう暫し滞在のご許可を」

「皆の者、良いか」


「ははっ」

 家臣たちは一斉に頭を下げた。


 主水は更に一段と、深く頭を下げた。


「では物見の報告を聞こう。皆の前で説明いたせ」

「はっ、報告いたします。浜松城に遠江州が続々集結しており、三河衆と合わせてその数およそ五千」


 会議室にざわめきが起こった。

 報告が続く。


「徴発されている村衆からの人づての話しによりますと、出撃は三日後。」


(三日後か)


 今から伊之助を走らせても状況報告にしかならない。


「こちらから先制攻撃いたしましょう」

 誰かが声を上げた。


「それはいかん」

 違う誰かが言った。


「野戦をするには兵力差が有りすぎる」

 皆、口々に意見を述べ始めた。


(雨宮どの、さっきの話し、述べても良いか?)

 さっき雑談していた一人だった。確か松下彦八郎という名だ。

 主水は頷いた。


「お恐れながら・・・・・・」

 彦八郎は城主に向き直って声を上げたが、皆の議論でかき消される。


「皆の者、静かにいたせ」

 朝比奈俊永だった。座が静まった。


「彦八郎、続けよ」

「はっ。皆ご存知の天王山でござるが」

「古城跡か」

「はい。あそこに兵を埋伏させて、城攻めに夢中になっている徳川の背後を襲うというのはいかがでござりましょうか」

「奇襲戦法だな。桶狭間を我らがやるという訳か」

「彦八どの、上手くいくとは限りませぬぞ」

「左様、失敗したら損害が大きい」

「いや、しかし上手くいけば大将首を獲れるかも知れぬな」

「なに、状況が悪ければ、城に逃げ込めばよい事よ」


 賛否両論が飛び交った。

 今川家筆頭家老の家として正攻法を重んじてきた為だろう。

 朝比奈家の皆には奇抜な作戦に思えた。


「叔父上、いかが致す」

 城主の朝比奈泰朝は横の叔父に意見を求めた。


「うむ、良いのではあるまいか」

 歴戦の叔父の言葉に、城主は自信を持った。


「では、それについて詳細を詰める。やるという前提で意見を述べよ」

 福島六左衛門は腕を組み目を閉じて、黙って聞いている。


「どうだ、誰か意見を申せ」

 皆考えてはいるが、いざ、やるとなれば意見が出ない。俊永が口を開いた。


「意見が無いのならワシから提案いたそう。このまま軍議に入ってもよろしいか」

「頼む」


 城主は頷いた。

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