献策
大広間に入った。
掛川城に来て最初に入ったのがこの部屋だった。
あのときは死ぬかも知れなかった才可を交代で抱え、朝比奈の家来たちに囲まれ、更に槍を突き付けられていた。
改めて見ると、板張りの床は磨きあげられて黒光りしており、壁には美しい模様が描かれている。
福島六左衛門が先に着座していた。
「おお雨宮どの、来られたか。おとついの会議で貴殿も呼ぼうかと言う話しが出ての」
「は、恐縮です」
どうやら会議に参加せよということらしい。主水はほっとした。
「徳川の動きは貴殿の耳にも入っておろう。今日はその対策じゃ」
「なるほど」
主水は一番下座に座った。
「我らの考えを貴殿から北条家に、それとなしに伝えて欲しいというのもある」
(そういう事か)「今川家の考えを、でござるか?」
「まさか」
六左衛門は声を低くして言った。
(奴らは馬鹿ものじゃ)
主水はそれを聞き、少し心が軽くなったような気がした。
大広間に朝比奈家の家臣が少しずつ集まって来た。
会議まではまだ時間があるらしい。雑談し始めた。
「徳川が来たら、また濃い霧が出るかも知れぬの」
「霧か。なぜそう思うのじゃ」
「若い者たちの間で面白い話しが出回っておっての」
「ほう」
「なんでも、城の井戸から霧が沸き立って、それが徳川のところに行って、混乱させたとか」
「その話か。迷信じみておるわ」
「なに、若い頃は面白がってそのような話で盛り上がるものじゃ。我らも身に覚えがあろう」
「確かに鉄砲の音が響いたのは耳にした。奴らが混乱していたのは確かじゃが」
「雨宮殿、貴殿の来られるほんの少し前だから、存知ないであろうがの」
(いや、良く知っている。井戸の話しは知らんが)
風魔党は自分たちの手柄を主張することは無い。報酬さえ手にすれば、それで良い。
黙って頷いて聞いていた。
「雨宮殿、貴殿なら徳川が攻めてきたとき、どのように戦う」
「いや、それがし程度の考えを、朝比奈家重臣の皆さま方に申し上げるなど、とても」
「なに、まだ会議前じゃ。籠城戦で名高い北条の戦法を聞いてみたい」
「されば僭越でござるが私見を。城の北東すぐ近くに天王山がござります」
「ほう、よく見ておられるの、以前はあそこに城が有ったのじゃ」
「なるほど。あそこに兵を伏せさせておいて、背後から襲うというのはいかがでござろう」
重臣たちは顔を見合わせた。
敵をおびき寄せて背後から襲う。
風魔では昔からよくやる戦法ではある。
「ふむ、雨宮殿、いかほどの兵数をお考えか」
「いやいや、それがし思い付きで言ったまで。どうぞお聞き流し下さりませ」
大広間には更に家臣たちが次々集まって来ていた。
室内がさっきより狭く感じられる。
朝比奈泰朝が小姓を連れて上座に座った。
会議が始まった。




