戦利品
風魔たちは朽ちた廃寺にいた。
どこかからフクロウが鳴く声が聞こえる。
「馬と鉄砲が三つずつ、刀は五振り、捕虜が二人、うまくいったな」
「馬はどうする、掛川まで持って行くと高く売れるぜ。あそこはうまいものが沢山あるし、行きてえな」
戦利品を手にし、男たちがニヤついている。
「いや、今回は小田原城に持っていく」
「え、黄金丸さん本当に。北条の殿さまはケチだぜ」
「ああ、小太郎のおやじの意向でな。北条は、武田と本格的に戦うつもりらしくて馬を集めているそうだ。それに、掛川に行くには駿河を通らなねばならん。今、駿河は危険だからな」
「馬を三頭も曳いて行ったら目立って危険というわけか」
「そういう事だ」
「で、黄金丸よ、捕虜はどうする。いつものアレか」
古株らしき男がにやけながら尋ねた。
「そうだ。いいか、一人は徹底的に痛めつけろ。死んでも構わん」
何人かの男の顔に残忍な喜色が浮かび上がった。
「もう一人にはそれをじっくり見せろ。そして軽く痛めつけた後、逃がしてやれ」
冷たい表情で黄金丸は続けた。
「甲斐に戻ったら今日の事を伝えてくれるだろう。風魔の恐ろしさを一人ひとりに染み込ませてやるのだ。二度と相模に来たくないと思うようにな」
香鈴はいつものアレが好きではない。というよりも軽蔑している。
(馬鹿じゃないの)と、この時ばかりはいつも仲間を不満に思う。
こんな事で敵が来なくなるとは思えないからだ。
そんな思いで欝々としながら、水の入った竹筒を持ち、離れの小屋に入った。
二人とも梁から吊るされている。
頭から水をかけてやると、二人とも意識を取り戻した。
一人はおびえ切った表情をしている。多分この男が殺される方だろう。
もう一人は頬のこけた男だ。憔悴し切った様子で、うつろな目で香鈴を見つめ続けた。
「あんたたちは今から殺されるんだよ」
「お願いだっ、殺さないでくれ! 俺は無理やりいくさに駆り出されたんだ! 仕方なく戦わされたんだ! 頼むから助けてくれ!」
男は悲痛な声で哀願した。
それに背を向け、香鈴は小屋を出た。
外にでると、古株の男が数名を引き連れて小屋に来ていた。
手には六角棒と荒縄が握られている。
「香鈴、お前もやってみるか」
「いいっ」
扉が閉まった。
しばらくすると、苦痛の声が上がり始め、夜の闇に延々と響いた。
「ぎゃあっ!」
断末魔の叫び声。
静寂と共に古参の男が戻った。
「頬のそげた方の男いるだろ、奴は叫び声一つ上げないんでな。面白くないから、もう一人の方を痛めつけたよ」
「で、どうなった」
「死んだよ。もう一人は地べたに転がしてある」
「そうか。では香鈴、見てきてくれ。気を失っているようなら綱を緩めて、意識があるならお前の一存で逃がしに来たという事にすればいい。夜が明けるまでにここを出るぞ」
「うん、わかった」
黄金丸の指示で、香鈴は立ち上がった。