転換
「みんなの意見を聞きたい」
十人の風魔と白い犬が一匹、円になって座っている。
朝の光がまぶしい。
「俺は姫の為に働きたい。そう思っている。みんなはどうだ」
「待ってましたよ、その言葉」
「さすがは主水さん」
「異議ないっす」
「みんな、いいんだな。さっさと仕事を済ませて里に帰るつもりだったが、しばらく腰を据えようと思う。そこでだ」
「はい」
「近々徳川がまた攻めてくるはずだが、姫の身を守ること。これが第一」
「もちろんです、主水さん」
昨夜の一件で主水以下、皆姫に心服してしまっていた。
「うむ。第二に、日々集まってくる情報を姫にお伝えすること」
「第一は分かりますが、第二はなぜですか」
「賢いお方だと分かった。多分最善の判断をされるだろう。その為だ」
「あたしが連絡役ね。ちょっとエンマ、じっとして」
「そうだ。よろしく頼んだぞ」
「第三に、これを小太郎のおやじに伝える。誰か使いを頼む」
「俺かな」
伊之助である。この中で一番足が速い。
「早速今から行きましょうか」
「まあ、慌てるな。第四がある。徳川来襲に備えて援軍が要るはずだ。援軍要請の手紙を氏真様に書いてもらう。それを持って行ってくれ」
「それが無いと援軍寄越してくれないんですか」
「そうだ。それが大義名分というものだ」
「書いてくれるでしょうか」
「直接という訳に行かん。小倉様へ相談するつもりだ」
皆むっつり顔と引き眉を思い出した。
「心配するな。それは俺がやる」
「こらエンマ、舐めないの」
掛川城では犬を飼っている。朝比奈家の犬だ。体の大きい白い雌犬である。普段はおとなしいが、見知らぬ者には牙をむく。以前にも間者らしき不審な人物を噛み殺したらしい。
城内ではエンマと呼ばれているが、恐れて近づく人は少ない。
風魔の者たちにはすぐに心を許した。特に香鈴に対しては非常になついている。
賢い犬で、城内の者たちの顔を覚えているらしい。城の皆に対してはおとなしいのだが唯一例外がいるらしい。今川氏真である。
姿を見かけると、なぜか唸り声をあげて威嚇するらしい。
「この間も散々追いかけ回して、今もお尻に嚙み跡が残っているらしいですよ」
銅馬が城兵から聞いた話しだ。
遠く、風が潮のにおいを運んでくる。
主水はふいに舎利奈を思い出した。
期限の三日はとうに過ぎていた。




