本意
姫は無言で入ってきた。
ビリリとした怒りが部屋に満ち溢れた。
続いてお初が入ってきた。顔面蒼白である。
更に小春が続く。困惑し切った表情だ。
風魔たちは只事でない様子に固唾を飲んだ。
「御屋形様」
「おお、奧ではないか。よう来たな。気になって来たか。ちゃんと敷物を用意しておいたぞ。」
姫はそう言う氏真の真ん前に座り、言った。
「お初から全て聞きました」
氏真の顔色が変わった。
小倉且久はこっそりと退室した。
「申し訳ございません! 私が悪いのです!!」
お初がその場に泣き崩れた。
小春が労わるようにその背中に手を置く。
無表情のまま姫は、問い詰めるように氏真に尋ねた。
「お初のお腹の子は、御屋形様の子で間違いありませんね」
ええっ!!
風魔たちは腰を浮かさんばかりに驚いた。
「いや、あの、その、ふむ、ほんの出来心での。悪かったと思っておる」
風魔たちは一斉にジロリ、上目使いで氏真を見た。
その視線は冷たい。
姫は風魔たちに視線を向けた。
「あなたたちに誤解のないように言っておかねばなりません」
一斉に、ゴクリ、唾を飲んだ。
「確かに籠はありました」
(さっきの話し、聞いていたんだわ)
「一体どういう事でございますか?」
「いいですか、みな命がけで戦っているのですよ。そんな中、一人だけのうのうと籠に乗れますでしょうか。小春たちも皆歩いたのに、わたくしだけ籠に揺られる訳には参りません」
「では姫様、裸足で歩いたというのは」
「小春の足の裏が擦りむけて血が出ていたから、わたくしの履物をはかせたのです。ええ、無理やりはかせたのです。小春が逃げ遅れて死んでしまったら、わたくし生きる価値がないと思えたのです」
小春は涙ぐんでいる。
(香鈴、全然わがままではないじゃないか)
(……)
矛先がそれたと知り氏真は、「急に腹が痛くなってきた。すぐ戻るからの」と言って、風魔顔負けの素早さで部屋を出た。
姫の顔が優しく変わった。
「お初」
お初は泣き伏せっている。
「お初の身はわたくしが守り通します。無事に出産した後も、変わらずわたくしに仕えてたもれ」
姫はお初を抱きしめた。
「奥方様っ」
安心したのか、お初は崩れるように倒れかかった。
ダッと飛び出し、香鈴はその体を支えた。
小春もそれに加わった。
香鈴は、わがままな姫だと決めつけていた自分自身を、恥ずかしく思った。
そして、赤面している自分に気が付いた。
急に背後で引きつった声が上がった。
「なんていい姫様なんだろう!」
振り返ると、主水を含めた九人の風魔が号泣していた。




