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宴と修羅場

 今川居館の一室、書院の間に通された。


 室内には、今朝訪ねてきた小倉且久と共に、下膨れた顔の男がいた。

 虫丸の説明通り引き眉がしてある。


「ぷっ!」

(おい香鈴っ)


 小倉がにらんだ。主水は冷や汗をかいて正座した。

 全員それに倣って一列に正座し、深々と頭を下げた。


「本日は駿河守様のお招きに預かり、我ら一同恐悦至極に存じ奉ります」

「うむうむ、良いぞ。今日は内々の宴じゃ。気を楽にいたせ」

「ははっ、では早速始めまする」


 目くばせした。


 小鼓が「ポポン」と響いた。八弥と銅馬である。夕方、頼斗から仕込まれた急拵えである。

 小鼓のテンポが徐々に早くなり、止まった。


「いよぉっ」声を返して、笹助たちが合わせる。


 頼斗の笛が始まった。


 主水はじっと観察した。


(これが東海道最強と言われた今川軍の長か……)


 目を輝かせてこちらを見ている。

 隣の小倉且久はむっつりしている。


 やがて笛の調べに乗って虫の音が聞こえ始めた。


(今日は虫丸、一段と冴えてるな)


 やがて音が止まった。一同再び頭を下げた。


「あっぱれあっぱれ! いやいや見事じゃ見事じゃ!」

 手を叩き、心より楽しんでいる様子が見て取れる。


(悪い人ではなさそうだが……)


 近年この人の為に、実に多くの者が処刑されている。

 正直、もっと残忍な人物像を、主水は思い描いていた。

 だが主水の関心事は、この人物ではなく、この人の奥方だった。


「大変恐れ入りますが、我らが姫君、奥方様は本日はいかがなさっておいででしょうか」

「それがのぉ、誘ったのだが、結構じゃと言っての。聞かんのじゃ」

「はあ……」

「ここへ逃げてくる時もそうでの。籠に乗れと言うのに聞きおらん」

「え! 籠が有った!?」

「そうじゃ。武田の馬場なにがしとやらが、折角気を利かせたのにのう」

「え……」


 主水は絶句した。その事で大騒ぎになっているのではなかったのか。


「ま、それは置いておくとして。そこのおなご」


 香鈴は自分のあごを指さした。


「そうじゃ、おぬしじゃおぬし。ちと近こう寄れ」

 上機嫌である。


 主水は香鈴を見た。目が合った。ここは頷くしかない。


「こっちへ来て酌を致せ」

 氏真は手招きした。


 香鈴はその場で両手を重ねて床に置き、その上に額を乗せた。

 そのまま動かない。「嫌だ」という意味だ。


「小娘っ、言う事が聞けんのか」

 小倉且久である。


「申し訳ございませぬ。何分、礼をわきまえぬ者にて。なにとぞご容赦を」

「よいよい、気の強いおなごは、余は大好きじゃ」

 氏真は上機嫌なままである。

 主水はホッとした。


 そのとき、ふすまがガラリと開いた。

 皆、一斉に目を向けた。


 無表情かつ怒りの顔。


 姫だ。

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