接触
城中に新しい建物がある。
今川氏真の為に作られた新造居館である。
そのそばに香鈴は立っていた。ある人物を待っていたのだ。
来た。
「小春様」
「あの、どなたでしょうか」
「小田原からの使いで参りました、香鈴と申します」
「あ、あなたは雨宮主水様のご一行の」
同じ相模出身の女性の為であろう、気の置けない様子を見せた。
侍女の仕事は多岐にわたる。城主夫人の威厳を保つため、様々な事に細心の注意が求められる。衣服の手入れ、化粧道具、家内行事の段取りなど。今は掛川城へ居候の身である為、家臣の目にさらされる機会が一段と多い。それだけに以前より更に気を配る機会が増えた。
そんな中、歳の近い香鈴の来訪は喜ばしいことだった。
「なにかお手伝いする事が有ればと、訪ねてまいりました」
「それは有難うございます、香鈴様。ですが人手は足りておりますので」
「ではこれを姫様にお渡しください」
香鈴は滑石を取り出した。温石とも呼ばれ、一度熱すると冷めにくい。囲炉裏で熱するなどしてから布で包んで、寝床に入れるなどして使う。
「これは貴重な物を。この寒い時期、きっと姫も喜ばれます」
「小春様の分とお初様の分もありますよ」
「え、私たちにも!」
香鈴は袱紗に包んで小春に渡した。
「何かお礼をしなくては」
「いいのよ、いいのよ。気になさらないで」
小春は何か聞きたい事が有るようだった。
「じゃ、また来ますね」
香鈴は笑顔で立ち去ろうとした。
「ちょっとお待ちください」
(よしよし、きたきた)
「あの、香鈴さん、その……」
(ん?)
小春の目が潤んでいる。
「あの、敵を爆発物で退治して味方を助けてくれた、あのお方はご無事でしょうか」
「あ、才可の事ですね。あいつは頑丈だから、簡単には死にませんよ」
「才可様というのですね。ご無事なのですね。よかった」
小春の目には涙が溢れていた。
そして軽く頭を下げると足早やに去って行った。
「と、言う事があったのよ、主水!」
「一歩前進だな。さすが香鈴だ。こいつらに任せたら小春さん、逃げ出したかも知れん」
「姫の好物は聞けなかったけどね」
全員揃って座っている。
「ところで才可」
八弥だった。責めるような声だ。
「そうだぞ才可、抜け駆けか」
佐太郎だった。
「抜け駆けはずるいと思うな、才可」
「笹助まで。いいか、おれは何もしてねえ!」
姫から香鈴に呼び出しがあったのはその日の夜である。




