作戦
徳川軍は城下を去った。
しかし、また戻って来るだろう。
そして去ったきり戻らない者もいる。
明るく気さくな性格だった事もあり、城主の弟は兵たちに人気があったようだ。
「いくさで命を落とすのは武家の定めじゃ。せめて畳の上で死ねただけでもそなたらに感謝せなばなるまい」
城への滞在を嘆願してくれたあの時の老武者、福島六左衛門はそう言いった。
背中に哀愁を色濃く浮かべ、冷たい雨の中、戦場跡へ検分に出かけて行った。
風魔たちは、城域内に宛がわれた長屋の一室に集まっていた。
自分たちの救った命が失われた事に一時は悲しんだが、すぐに次の行動に移ろうとしていた。
「さてどうする」
「どうするって、まさかこのまま引き揚げる訳じゃないでしょうね、主水」
「まさか」
「俺は主水さんの指示に全て従うぜ」
才可だった。起き上がれる程度には回復していた。
「お前が言うと説得力がない」
(全くだ)と言わんばかりに皆繰り返し頷いている。
「とにかく姫にその気になってもらわねばならん。誰か説得できる者はおらんか」
皆一斉に下を向いた。無理もない。北条一族の姫なのだ。
主水は無茶を言った事にすぐ気付いた。
「まあ、数日は滞在させてもらえそうだ。飯でも食ってからもう一度考えるか」
香鈴はその言葉にひらめいた。
「そうだ、姫においしい物でも差し入れてみたらどう? 心を開くかも」
「食い物で釣る作戦か。香鈴らしいな。いいかもしれん。好物とか知っているか」
「さあ、それはちょっと」
「それだったら、姫にお付きの、二人の侍女に聞いてみたらどうかな」
笹助だった。あまりしゃべらないが、時々的を得たことを言う。
「それいいな、俺にやらせてくれ」
八弥だった。明るい男だ。仲間からの信頼も厚い。
「ちょっと待て、それは俺の仕事だ」
佐太郎だ。負けず嫌いなところがある。
「お前ら勝手に決めるな、俺にもやらせろ」
他の者も黙ってはいない。
「そうだぞ、俺だってやりたい」
皆競って立候補し始めた。
香鈴はだんだん呆れてきた。
「髪の長い方がお初さんで、小柄な丸顔が小春さんだ」
「えっ!?」
皆一斉に同じ方向を向いた。
「何で知っているんだよ、銅馬」
「姫が言ったのを聞いていなかったのか。みんな居ただろう。城主様の叔父上が来た後、二人の名を呼んで退室したんだぞ」
主水は驚いた。あの状況でそんな事まで観察していたのか。
「俺的にはお初さんなんだよな」
「俺は小春さん派だ。かわいらしいと思わないか」
「才可はどっちだ」
「お、俺は二人より香鈴さんの方が好きだ」
香鈴と反対の方向を向いて、ぼそりと言った。
「あんた偉いっ!」
香鈴は声を大にして言った。
「人を見る目があるわね。みんな見習いなさいよ!」
結局香鈴が侍女に接触することになった。




