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夜明けの略奪

 香鈴は背中の靭から矢を取り出した。

 先端には油を浸み込ませた綿布が巻き付けられている。

 それに松明の火を移した。


 笹助と八弥は火縄に火を着け、射撃の態勢に入った。


 他の者は綱をグルグル振り回し始めた。綱の先端には油壷が結び付けられている。


 主水は全員の準備が完了したのを確認すると、話し声のする方向へ松明を投げた。

 それを追うように五つの油壷が飛び、霧の中へ消えた。


 カシャーン! カシャーン!


 壺が割れる音が響いた。


 香鈴は音の方向へ火矢を放った。

(もう一本)


「曲者だっ」怒声が上がった。


 二本目の矢を放った。白一面だった目の前が赤く滲む。

(やった大成功!)


「おのれ、捕まえて八つ裂きにしてくれる。曲者っ、出てこい!」


 八弥は声のする方向へ鉄砲を放った。


「ドオンッ!」


 射撃音が響き渡った。掛川城にも聞こえたはずだ。

 間を置いて、今度は笹助が二発目を放った。

 霧の向こうが明らかに狼狽している。

 九人の白い風魔は一斉に移動した。


「この辺だ。確かに撃ったのはこの辺からに違いない。出てこい曲者!」


 霧をかき分け、甲冑の武者が怒声をあげながら見えぬ相手を探した。

 すると目の前に白い影がすっと浮かび上がった。香鈴である。


「貴様かっ。よくも。死ねっ!」

 槍を突き出して来た。


 香鈴は霧の中にスッと姿を消した。が、すぐにまた別の方向から現れた。そしてまた消えた。

 甲冑の侍は香鈴を追いかけた。


 追いかけては消え、消えては追いかけを繰り返すうち、侍は部隊から遠く離れてしまった。


 香鈴がまた甲冑武者の前に現れた。


「曲者はあんたたちの方よ!」

「なんだと貴様っ」


 次の瞬間、侍の背後に笹助が現れた。鉄砲を振りかぶっている。ガン! 兜の上から叩きつけた。侍はがくり膝を付く。と同時に霧の中から他の風魔が一斉に現れ、大小の刀と甲冑をはぎ取って、さっと霧の中へ消えて行った。入れ替わりに主水が現れた。小太刀を抜いている。


 血しぶきが上がったように見えたが、霧が立ち込め良く見えなかった。



 どこかで誰かの念仏の声が聞こえた。



(おい見てくれこの刀! かなりの業物だぜ)

(高く売れそうだな。香鈴さん、次の獲物頼んますぜ)

(見てみて、あの侍。なんか偉そうで、ムカつく)

(よし、あれにしようぜ)


 次の獲物の周囲を白い風魔たちが静かに囲んだ。狙われた侍は気付いていない。香鈴は侍の目の前に廻り込んだ。しばらく追いかけっこが続いた後、ガン! 再び音がした。今度は身ぐるみ全て剥がされ、褌一枚にされていた。霧がすぐにそれを隠した。


 誰かがまた、念仏を唱えた。



(いやぁ、大収穫、大収穫!)

 主水の配下たちは皆若い。まるで競技を楽しんでいるかの様だ。


 風魔たちは、武器や防具を『買う』という発想がない。

 それらは戦場で奪うものなのだ。それぞれ戦利品を手にしていた。


(お前たち、霧が晴れる前に身を隠すぞ)主水だった。縛り上げられた足軽風の男を連れている。捕虜らしい。


 徳川の陣では同士討ちが始まっているようだ。


 霧はまだ晴れない。

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