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平和を願いし者たちよ、この世界で闘う者たちよ!  作者: カップやきそば
第二章 この異世界より覚悟を決めて
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第2章 64話 滅亡の名を持つ花 その1

 今俺たちは、公園で休憩中だ。そして俺は、少し体を動かすため、一人であたりを散歩していた。後ろの方から、俺を呼ぶ声が聞こえた。零羅だ。


 「あ、桜蘭さん!すみませ~ん!あの、睡蓮さん見かけませんでしたか?一人でふら~っと歩いていたのを見かけたのですが、その後どこかに行ってしまったらしくて...」


 「睡蓮が?う~ん、俺は見てないなぁ」


 俺はふと、睡蓮がこの前言っていた言葉を思い出した。『意識が勝手に消えることがある』...そう言っていた。それと何か関係が?


 「そうですか...睡蓮さん。最近体調悪そうでいたから、心配ですね」


 「そうッスね。特にここ最近、やたらとぼーっとしてたッスから、確かに心配ッス。ちょっと探しに行くか。本人は大丈夫って言ってたッスけど、ムリしてたらヤバイッスもんね」


 「そうですね、行きましょう。でも、どこにいるのでしょうか?」


 俺たちは、睡蓮の行きそうな場所を考えた。まずトイレ。どうやらここにはいない。じゃあ次だ。ブランコにいるかもしれないと考え、向かってみる。ここにもいない。


 ここで俺はある事を思い出した。睡蓮、いつも休憩になると一人でどこかに行くんだよなぁ。アオシラでも、一番最後に戻ってきてたし...というか、睡蓮がいつも休憩中どこに行ってるのか、誰も知らないんじゃないか?


 俺は、何故か寒気がした。何だろう、この感覚。俺の心は探すのをやめろ、と言っている気がする。何でだ?睡蓮、何か俺たちに隠してるのか?零羅が、ここにいて、大丈夫なのか?


 「ん? なんでしょうか?この臭い...汗のような」


 汗のにおい?そんなのするか?そういえば零羅は、匂いに敏感だったな。


 「んじゃ、その臭いの方に行ってみまスか」


 「そうですね...」


 零羅が顔を曇らせた。そんなに臭うのか?それとも...


 とりあえず、零羅の言う臭いのする方へと向かった。みんなのいるところから結構離れたな。一キロ位歩いたかも。


 「さすがにこんな方にはいないんじゃないッスか?」


 「そうですね...戻りましょうか」


 俺たちは、戻ろうとした。しかし、俺は見てしまった。歩道から外れた木々の生い茂る雑木林の中に、睡蓮はいた。何か、しゃがんでいる。何をやっているんだ? 具合でも悪いのか!?


 俺は心配になり、思わず声をかけた。


 「睡蓮!!」


 すると、睡蓮はビクッと体を撥ね上げて、振り返った。


 「さ...桜蘭? なんで?ここに?」


 「なんで?って、最近睡蓮の様子が変だったから...心配で」

 

 俺が、駆け寄ろうと近づこうと思ったら、零羅が俺を止めた。


 「桜蘭さん!ちょっと待ってください。睡蓮さん...あなたは、一体何をしてるんですか?」


 俺も、一歩前に出て気が付いた。睡蓮のしゃがんでいる所に、何か倒れている。コレって...


 「睡蓮、それは...?人 ッスよね...」


 睡蓮がしゃがんでいた場所には、人間が倒れていた。どうなっているんだ?そうか。偶然、睡蓮が見つけたのか...


 俺は自分にそう言い聞かせようと思った。だが、おかしい。どうして睡蓮は、その人の首元を握っているんだろう...俺は、一番最悪な結論が頭に浮かんでしまった。


 ()()()()()()()()()()()()


 「睡蓮さん!今すぐ、その人から手をどけて下さい!」


 零羅が叫んだ。睡蓮はゆっくりと、手を放し、俺たちを睨みながら、立ち上がった。


 「見て...しまったのか...」


 見た?俺は、今、何を見ているんだ?分からない。一体全体、何が起きているんだ?俺は、思考が停止してしまった。


 「はい。ですが見たのは今の瞬間です。あなたがその倒れている人の首を絞めていた。正直に答えて下さい。その人は、何なのですか?」


 「...」


 睡蓮も黙ったままだ。目が泳いでいる。もしかしたら、この人が睡蓮を襲って睡蓮は自分を守る為にこの人を殺してしまったんだ!そうに違いない!...そうに...そうで、あってくれ。頼む。


 だが、俺に突き付けられた現実は、非情だった。


 「答えて下さい!その人は、あなたに何かしたのですか!?あなたが、殺したのですか!?」


 「やっぱり、無理だ。みんなをだまし続けるなんて...正直に言おう、俺が殺した。そしてこの人は、さっき会ったばかりの、普通の一般人だ」


 こんな言葉、聞きたくない。なんで睡蓮がこんなことを、理由があるはずだ。きっと何か、理由が。


 「何故、殺したのですか?」


 零羅が冷静に、かつ これでもかというほどの敵意を出して、睡蓮に尋ねた。


 「...なぁ、零羅...お前は自分の血を見ると、どうなるんだ?あの時、自分の意思はあるのか?あの時の気分って、どんな感じなんだ?その質問に答えたら、俺がなぜ殺したのか答えるよ」


 「......ありますよ、はっきりと。突き出した拳が相手の骨を砕く。その時の感触、その時の音、その時の相手の表情まで。普段の生活以上にわたしの記憶に刻まれています。そして、相手から流れる血を見るたびに、抑えようのない悦びが溢れてきます」


 「そうか...じゃあ、俺も答えるか。俺がこの人を殺した理由を。単純だ。俺は、誰かを殺し続けないと、生きていけない人間だからだ」


 俺は、産まれて初めて、絶望という言葉を理解した。認めたくない。なのに認めなくちゃいけないこの感覚。まさに絶望だ。そして、睡蓮の放ったこの言葉は、俺を更に絶望へと叩き落とした。


 「殺さないと生きていけない?そんな、勝手な理由で?」


 「あぁ、勝手な理由さ。だが、それが俺の真実であり、逃れられない性なんだ」


 「...では、もう一つ質問させてください。今の言葉、タナエ村を全滅させたのは、本当はあなた、と受け取るべきなのですか?」


 「そうだ。あの村にいた全員、俺が殺した。それだけじゃない、旅の途中でも、合計六人殺している。アオシラで行方不明になったと言っていた、あのニュースも、俺が殺した奴の名前だ」


 睡蓮の顔は、今まで見たことのない。どす黒い表情をしている。


 「なんで...なんでッスか?睡蓮が、どうして、こんなことを...」


 俺はもう、精神がおかしくなってきている。分からないのは零羅もだ。どうして、こんなに冷静なんだ?彼女は...


 「なんで...かぁ。桜蘭。お前は癖ってあるか?人と話したりするときに思わず耳を掻いてしまうとかいう、人それぞれが持つ、特異な行動だ。俺にもあってな。それが人殺しなんだ」


 「癖?人を...殺す事が? そんな、そんなことがあっていいはずないだろ!?」


 俺は声が裏返りながら、至極当然の事を述べた。だが、俺の脳内が混乱して、何がよくて何がよくないのか、全く分からなくなった。


 「あぁ、いいはずがない。人殺しなんて最低だからな。だが、俺は自分の意思に反して人を殺してしまうんだ。だけどさ、殺した後って、すごくスッキリした気分になるんだ。俺は、その感覚が忘れられなくなったのさ。

 そうさ。俺は、今まで殺した奴らの顔は全部覚えている。どんな顔で死んだか...はっきりとな」


 「睡蓮さん、では、あなたは一体いつから殺しをやっているのですか?」


 零羅の質問。もう聞きたくない。頼む睡蓮、答えるな。


 「最初に殺したのは、俺の両親だ。天神あまがみ蓮久はすひさに、天神あまがみ玲子れいこ あれは、俺が五歳になった時だ。父さんは俺を殺そうとした。理由は簡単。俺を育てる金がないからだ。母さんは、俺を守ろうとして親父の部屋に隠れた。だが、父さんはドアを蹴破って部屋に入った。そこからだ、俺は部屋に飾ってあった模造の日本刀を持った。そして無我夢中で親父に突き刺したのさ。だが、俺が突き刺したのは母さんだった。俺は、なんかその時異様な興奮というか、開放感を覚えたのさ、父さんはその場に立ち尽くしていた。俺は、そのまま父さんも殺した。あの時の感覚は今でも一番はっきり覚えている。全てから、解き放たれたあの感覚をね。柔らかい皮膚を貫いた後筋肉の繊維や血管がが千切れていく触感。そして硬い骨が砕けて心臓が破れる。最後にその心臓からリズムが消える感覚。人が死ぬ感覚だよ。それが俺の体に染みついたんだ。

 その後からだ、俺は人を殺さないと体中に虫唾が走るような感覚に襲われるようになったのさ。人殺しはいけない。頭では分かっているんだけどさ、気づいたらいつも殺してるんだ」


 「つまりは、二重人格って事ッスか?そのせいで睡蓮は人殺しを?」


 ほんの少しでも、僅かな可能性を俺は信じたい。


 「フッハハ...それは違うよ。言い方がまずかったね。気づいたらというより、ついやっちゃう、って感じかな?」


 睡蓮は、何にも悪びれることなく、いつもの調子で話した。いつも、俺たちと話している。あの感覚で...


 「もう、いいです。話はよく分かりました。もう聞きたくありません。つまりあなたは、私たちもいつか殺すつもりだった。という事ですよね。三上さんを倒した。その後にでも...させません。

 だったら私は、あなたを、これから倒します」


 零羅は、ゆっくりと腰を落として戦う姿勢をとった。睡蓮はゆっくり頷き、口を開いた。


 「君が俺を倒す?いいよ、だったら零羅、あんたも覚悟を決めろよ。俺は生きたい。その為なら今すぐあんたを殺すよ?」

 

 「はい。死の覚悟は常にしています。ですが、今私たちは死ぬつもりはありません。行きますよ」


 「あぁ」


 俺は、取り残されたまま。二人は戦いを始めた。


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