第2章 63話 立て続けに起こる幸運は、絶望への道
まず俺たちは、サムの言っていた町の家電屋に着いた。中に入ると、四十そこそこの男性が少しスタイリッシュな感じになったトランシーバを持って店の中で待っていた。
「おぅ、サムから話は聞いたぜ。あんたたちが例の勇者様、御一行かい。ここまで来てるって事は、しっかりと勝ち進んでるんだな。
失礼だけどさ、俺は最初、あんたたちがここまで勝ち進んでくるなんてこれっぽちも思ってなかったんだ。だから死ぬことも覚悟してたんだよ。でもな、今、この目でお前たちを見て思っちまったよ。まだ希望はあるんだな...
おっと、それはそうと、コレ。サムから言われて急遽調整しておいた。最新型だ。ボタン一つで周波数をランダムに変えながらも、同じ人物と通信が可能だ。こいつならジャックされることはない。お代はゲームの勝利で払ってくれ。頑張れよ!俺はこの後家電修理に出かけるからさ、じゃ!」
俺はトランシーバを受け取った。勢いのある人だな。出会って言いたい事だけ言って、どっかに行った。
...お礼を言いそびれたな。
そして今度はタクシーを探した。
「タクシーと言えば、どこにいるんスかねぇ?」
「普通は駅のロータリーでござるよなぁ」
「駅って、この町に列車は走ってるのか?それに、あったとしてもこの人数が乗れるタクシーなんてあるのか?」
俺たちがぼやいていた。
「あ、あそこにあるのって、タクシーの車両基地か何かじゃないですか?」
零羅が指を指した。目の前に『東部タクシー』と書かれた建物の近くにいっぱいタクシーが並んでいた。いいタイミング。俺たちはそこに向かった。更にいい事にワンボックスタイプのタクシーまでいる。超ラッキー。
「お客さんどちらまで?って、あ、君達が例の...状況的に、今は早急に交通手段がいるって感じかい?勇者様方よ。乗りな。俺たちはあんたたちに協力するよ」
更にラッキーだ。このタクシーの運転手、俺たちの味方だ。とんとん拍子で事が運んでくれてる。やったね!
「で、まずはどちらまで向かいます?」
「ケンソウ岳中腹の集落、遠いけどお願いできる?」
「かしこまりましたよ。日にちはもう少ないでしょ?乗って。あ、流石に途中で休憩はいれるよ?」
「大丈夫よ、私たちも出来る限り体力は無駄にしたくはないしね。休むときは休むわよ」
「了解!」
俺たちは、タクシーに乗り込み、町を後にした。
タクシーの中で俺は、ジョシュと連絡を取った。
「あ!やっと繋がった!そっちは大丈夫なんですか?」
俺は今までの経緯を話した。
「そうか...サムは脱落か...でも、安心した!みんな無事なんだな。で、話は変わるけど、掴んだ情報だと、次の地区のリーダーは、ちょっと遠いな。ケンソウ岳の中腹にある村で、名前はエンリコ アザミ...こいつは確か...あの人の...」
「? どうかしたんスか?」
エンリコ この人がどうかしたのか?また、一癖も二癖もあるやつなのかなぁ。
「いや、何でもない。ただ分からないだけだ。エンリコが戦う所なんて見たことないからな。なんでこいつがリーダーやってんだ?」
なんだ、知り合いか。でも、戦ったところを見たことないとなると、相手の力は未知数か...
「そういう事ッスか。ま、名前を知れただけで十分ッス」
「済まないね。力になれなくて」
「いえいえ」
俺は通信を切った。隣を見てみる。また、睡蓮がボーっと外を眺めている。本当に外を見ているのか?うーむ、むやみに話しかけると迷惑かな...
数時間、タクシーは走った。そして、いつもの感じで休憩に入る。トイレに行ったり、体を動かしたり、みんなと話したりと、とにかく休憩していた。
だが、ここが俺たちの不運の始まりだった。幸運が続くと必ず不幸が来る。そうだ、今まで俺たちは幸運だっただけだったんだ。
ゲーム終了まで、後七日。