第2章 62話 暴風の兄弟喧嘩 その3
「行くぞ...」
ジョニーは、目いっぱい弓を引き絞った。そしてサムも己の全開の力を短刀に込めている。周辺に凄まじいい暴風が吹き荒れた。風が凄まじすぎてしっかりと見えない。
そして、サムが先に前に出た。ジョニーはまだ動かない。ギリギリまで引き付けてから放つつもりだ。
「とどめ だぁっ!!」
サムは短刀を振り下ろした。そのタイミングで。ジョニーは矢を放った。
矢は、サムの短刀を止めている。凄まじい威力の矢だから、サムは裁ききれないんだ。にしても、空中で矢が止まっている様に見える。凄い光景だな。
「うおおおぉぉぉっ!!!」
「はぁぁぁあああっ!!!」
二人とも雄叫びを上げている。ジョニーの矢が次第にサムを押し始めた。どうなってんだ?普通矢なんて放たれたらどんどん威力は下がっていくはずなのに...あ、そうか!
俺はよくサムの手元近くをよく見た。ジョニーは更に矢に向かって風を送り込んでいる。魔法はある程度離れていても、武器に纏わせることが可能なんだ。
二人の一撃は、更に激しさを増していき、叫び声も大きくなっていく。サムも徐々に押し返す。そしてまた押し返される。それが繰り返された。それが繰り返されるたびに、周りに吹く風は、激しくなっていった。
「うおおおおおおぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
そして最終的に、ぶつかり合った風は炸裂し、俺の体を綺麗に吹き飛ばした。
「うひゃあ!」
情けない声を出して、俺は飛んでいった。
・
・
・
あいててて、一体どうなった?砂煙で何も見えなくなった。
しばらくして、砂煙が晴れた。俺の目に映ったのは、足から血を流しながらも、辛うじて立っているサムの姿と、大きく大の字で横たわる、ジョニーの姿があった。
俺は、二人の元に駆け付けた。そして、ある事に気が付いた。ジョニーは血を流していない。
「......なんで、峰打ちにした?」
「私は、お前とは違うからだ。お前は軍人、民の為に戦う使命がある。私は警察、民を守る使命がある。私にとってお前は、兄であり、軍人でもあり、そして、守るべき国民でもあるんだ。
私は、最初から誰も殺すつもりはない。私はお前と違い、目的の為には、最善の手段を選ぶ。どんな状況であろうとも、必ず救う手段を...これが、甘い考えなのは分かっている。だが、それこそが私の生き方なんだ。この生き方を、私は変えたりしない」
「ふっ...結局、何も変わらないのか。俺も俺の生き方を変えるつもりはない。目的の為には、手段は選ばない。その場で、最も正しいと感じる行動をするだけだ」
「あぁ、それでいいんだ。だから、兄さん。私が間違えていると感じるときは、お前が私を導いてくれないか?」
「弟が俺にお願い事ねぇ。何年ぶりだろうか、いいぞ。ただし、俺が間違っていると感じたら、俺を止めろ。いいか?」
「あぁ」
どちらかが正しくて、どちらかが正しくない。この世に一番正しい選択なんてないのかもしれない。この二人はまるで正反対だ。だからこそ、別々の観点で物事を見れる。真反対の正義がぶつかるとき、そこには新たな道が開かれるのかもしれない...
なんて、心の奥で詠ってみた。
「くっ...」
サムが急にその場に倒れこんだ。俺はサムの元に行った。サムの足、矢が突き刺さったまんまだ。すぐさま、シィズも駆けつけた。
「これは酷い。サム、よくこれで立ってたわねぇ」
シィズが処置の準備を始めた。
しばらくして、ジョニー体を起こした。
「いっつぅ~...とりあえず、ゲームにおいては、俺の負けだ」
そう言って、サムの一撃で粉々になった発信機を取り出した。
「ここで十一か所目だ。後は五か所。次はケーブ地区だ。ケンソウ岳の中腹の集落にリーダーはいる」
山の中腹?そういえば、もう砂漠地帯は抜けて来てるみたいだな。気温もここはそこまで高くないし、今度は寒くなって来るのかなぁ。エリザベートのセーターまた着なくっちゃ。俺は砂漠に入ってから、暑かったのであのセーターを脱いでいた。
「嘘...でしょ」
唐突にシィズが、神妙な声を上げた。
「どうしたんスか?」
「サムの足...骨が砕け散ってる...治せない」
シィズがぼやいた一言で、周囲は騒然とした。
少し間をおいて、零羅が駆け寄って来た。
「わ、わたしも手伝います!」
「私もやる!」
エルメスもだ。
三人は、サムの足元に回復の魔法を使った。エルメスの魔法、ナナ族なのか。って事はアダムスはナナ族の血統?って、そんなことはどうでもいいんだよ。大丈夫なのか?サム。
「...!くそ...ダメだ。矢を抜くことは出来たけど、完治させるにはかなり早くても一か月はかかるわ」
「そ...そんな」
みんながっくりと肩を落とした。
「済まない、無鉄砲に突っ込み過ぎた。これは私の間違いだ...」
サムは、困った表情で謝罪した。
「いや、サムは悪くないッスよ。むしろ、今はゆっくり休んだ方がいいんじゃないッスか?」
「!?...し、しかし...」
今、逆に無理すると今度はサムの命が危なくなってくる。
「サム、あなたは今まで俺たちの為に散々尽くしてくれたッス。俺たちがここまですんなりこれたのはあなたのおかげッスよ。自分の事よりも他人を優先する。サムさんらしいッス。
だけど、ここの戦いでは、あなたは自分の為に全てを出した。そして、勝った。今は、休息がいるんスよ」
サムは、しばらく黙った。自分が優先すべきことを考えているようだ。
「...いくら考えても、私がこれ以上ついていくのは不可能みたいだ。仕方ない。お言葉に甘えさせてもらうよ。悔しいが、それが最善の手段だな」
「そうッスよ。後は俺たちに任せて下さいッス。ここまで全員無事で来れたんだ。最後までやりきってやるッス!!」
俺は、そう意気込んだ。
俺たちは、サムとジョニーを馬の背中に乗せ、ゆっくりと町の病院に向かった。
そして二人仲良く隣同士のベッドに寝かせた。
「しばらくは、二人とも安静してろとの事っス。ジョニーさんも肋骨にひびが入ってたらしいッスからね」
「あ~、どうりで呼吸しにくいはずだ...」
ジョニーは、ベッドに寝そべった。
「本当に済まないな。あ、そうだ。トランシーバだが、この病院のすぐ裏にある町の家電屋に行ってみてくれ。そこの店主が新しいのを用意しているはずだ。私がさっき診察の前に電話しておいた」
ほんと、この人は何から何まで行動が早い、今俺がそれについてどうしようか考えていたら、もう既に解決済みなんだもん。怪我してもなお闘い続けるんだなこの人は。
「そしてレンタカーだが、済まない。どこも今は無いらしい。金はかかるが、タクシーを使うしかないだろう。本当に申し訳ない」
謝るのはこっちだ。今までの間でそこまでやろうとしてたのには脱帽ですよ。
「謝らなくていいッスよ!俺の方こそ、いつの間にかそこまでやってくれて感謝感謝ッス!」
「今、私がやれる事と言えばこれ位しかないからね。さてと、このゲームの終了日時までは残りもう少ない。そろそろ出たほうがいいだろう」
そうだな、そろそろ、行くか!
「そうッスね。じゃあ、行ってくるッス。全ては平和の為に!ってか?」
「はは、そうだな。全ては平和の為に だ。気を付けるんだぞ」
「はいッス」
俺はそう言って敬礼した。後ろでほぼ同時にみんなも敬礼の姿勢をとる。サムも敬礼し返した。
俺たちの旅は、一人脱落の元、再開した。