第2章 59話 主を求める者たち
建物の裏で、俺たちはシャルロットたちと話し合っていた。
「二つの仕事を一緒にやるって結構大変じゃないッスか?」
「そうでもないよぉ、アリアちゃんとイーちゃんが結構面倒見てくれてるから私は結構好き放題やらせてもらってるの」
「わたくしはいい迷惑です。ですが、シャルロットは工事現場の安全確保などに一役買ってくれております。そこには感謝ですね」
「えへへ~」
アリアは結構おしとやかなタイプの人だ。だけど、堂々としているといった印象だ。
「そ、そうですね。シャルロットちゃんの仕事ぶりはわたしもすごく尊敬してます...そうだ、み、みなさんは仕事は何をなされていたのですか?」
シャンデラはどちらかと言えば引っ込み思案的な子だ。けど、割と積極的でもある感じだ。
「俺はまだ学生ッスね。あ、そうだ睡蓮、そういえば睡蓮の仕事って何やってたんスか?そういや聞いたこと無いっスけど...あれ?睡蓮?」
睡蓮を見たら、何故かぼ~っと遠くを見つめていた。まさに心ここにあらずを表したかのような表情だ。
「睡蓮?」
俺が睡蓮の顔で手を振るとようやく気付いたみたいだ。
「んあ? あ、済まないね。ボーっとしてた。で、何の話だっけ」
全く聞いてなかったのか、何か思い悩むことでもあったのかなぁ。俺はもう一度睡蓮に説明した。
「ん?俺の職業?普通にIT関係のサラリーマンだよ」
へぇ~、てっきりスポーツクラブのインストラクターか何かと思っていたけどなぁ。
そんな会話をしていたら、イーサンが戻って来た。少し困った感じだ。どうしたんだろう。
「一応馬は用意できたのですが、そのうちの一頭はどうにも暴れ馬で誰も背中に乗せようとしないのです。他を当たってみたのですが、どうやら用意できる馬はその馬を含む八頭だけでございまして、とにかく、来てもらえますか?」
イーサン、俺たちの為にほんとありがとうございます。
「あ、アリアさんたちは、先に楽屋に行っててくれますか」
「あ、はーい、じゃ、私はこれでじゃね!」
シャルロットとはここで別れた。だが別れ際シャルロットは俺の耳元でささやいた。
「君なら、きっと倒せるよ。自信を持って」
今までのシャルロットとは、まるで違った声だ。凄く真面目な...シャルロットはポンと俺の肩に手を置いて建物に入っていった。俺は不思議に思いながら、イーサンについていった。
そして、馬小屋の前に着いた。目の前には八頭の馬がいる。その中で一番左の奴が何か気になった。なんだか俺を見ている気がする。
「今は落ち着いているのですが、この一番左の馬が少々厄介でして、名前は『ランサーデッドホーク』と言います」
ランサーデッドホーク?かっけぇ名前。いかにも暴れ馬って感じだ。こいつを乗りこなす事が出来たらかっこいいだろうなぁ。俺はのんきにそんなことを考えていた。
そうしたら、今まで落ち着いていたランサーデッドホークはいきなり暴れ出し、柵を破壊し俺に突進してきた。
「うわぁ!!」 俺はビックリしてこけて、しりもちをついた。ヤベ、蹴飛ばされる!!
そう考えて構え、目を瞑っていたが、衝撃は何も来ない。何秒立った?全然吹っ飛ばされないぞ?俺は恐る恐る目を開けた。目の前に馬の顔がある。じーっと俺の顔を見つけている。ランサーデッドホーク。こいつは俺に何かを言いたげな感じだ。まるで、(乗ってみろ)って言ってる気がする。
「の...乗れって事っスか?」
俺はランサーデッドホークに聞いてみた。そうしたらランサーデッドホークは高い声で嘶き、頭を起用に使って俺を空に跳ね上げた。
「うをああぁぁぁ!!」
また俺は目を瞑った。ケモノ臭いにおいが鼻を刺す。少し硬いが、暖かくさらっとした触感を俺は感じた。今見事に俺は馬の背中の鞍の部分に綺麗に乗っている。
「へ?」
「なっ...」
「まさか、今まで誰も乗せたことが無いのに...」
イーサンは口を開けて俺を見ている。
そして俺は今度、(捕まってろ)と言われた気がした。だから馬の首元にしがみついた。その途端。ランサーは走り出した。
「うおわああああぁぁぁぁぁ!!!ちょ、まっ!」
ランサーは街の中を猛スピードで駆け抜ける。俺は必死にしがみつく。振り落とされるうううぅぅぅぅ。
(振り落とされんなよ?あんたは俺の主。俺を乗りこなせ)これは...ランサーの声なのか?主?どういう事だ? だけど、どちらにせよ、俺はこいつを乗りこなさなきゃいけない。こいつはきっと、自分が自由に走りたいから走っているんだ。俺を乗せたのは、俺を試すため。じゃあ、こいつの、ランサーの意思に答えてやらないとな!
俺は、体制を立て直した。そして心の中で命じた。(みんなの所に戻れ)と、そうするとランサーは急激にその場で止まり、グルっと方向転換した。そして、前足を上げ、大きく嘶き、再び走り出した。
(いいぞ、そのままだ。みんなが見えてきた。俺たちを止める準備をしているみたいだ。ちょっと驚かせようか?みんなの目の前に止まってくれる?)
(ふん!俺には命令口調で構わないぜ!本来ならお前みたいなやつは嫌いなんだが、今の気分は妙に清々しい。何故だか分からんが、お前だけからは違うものを感じた。探していた、俺たちをまとめれる『力』の片鱗をなをな。俺は、お前の成長を見届けたくなった!)
ランサーはスピードを緩めず走った。そしてみんなが止めようと構えた途端。ランサーは急ブレーキをかけて目の前で止まった。俺は衝撃で落ちたが見事に着地に成功した。
「だ...大丈夫?サクラ君」
サムは、心配そうに俺に声をかけてくれた。
「も!申し訳ありません!」
イーサンはすぐさま謝罪した。
「いや!全然大丈夫ッスよ!多分、ランサーの奴、俺を乗せたかったみたいなんス!俺、こいつに乗っていくッス!な!」
俺もなんか気分がいい、爽快だ。俺はランサーのたてがみを撫でた。ランサーは全く暴れることもなく、むしろ落ち着いた感じだ。そして、コクッと頷いた。
「あの暴れ馬がこんなに懐いているなんて、サクラさん。あなたは、一体何をなされたのですか?牧場育ちではないのでしょう?」
「いや~、実はよく分からないんス。こいつがまるで俺を選んでくれたみたいな感じみたいな?」
いや~、動物と意思が通じるってたのしー!
そうして俺たちの旅は再開する。荷物をまとめ、みんな馬に乗った。零羅はすんなり飛び乗った。彼女曰く、乗せてくれた感じらしい。そして麗沢はというと...
「ふぉ、ふぉん!」
足が上がらなく、中々乗れないでいた。睡蓮が押して何とか乗った。その睡蓮自身は昔、牧場によく遊びに行ったとかで、簡単に乗りこなしていた。
そんな事で俺はというと...
「せ~の、あら?うお!」
片足すらまともに掛けれないでいた。見かねたランサーはあきれた様子で姿勢を低くしてくれて。ようやく乗れた。後のみんなは慣れたものだった。
「ではみんさん、お気を付けください。全ては平和の為に、健闘を祈ります。あ、そうだ、この戦いが終わられましたら、うちのグループのライブにご招待しましょうか」
「あぁ、出来たら頼む。一度彼女たちのコンサートに行ってみたかったんだ」
サムが笑いながら答えた。
「そうですか、シャンデラさんのサイン取っておきますね」
「そ...それは......いいのか?」
今度は恥ずかしそうに答えた。
「構いませんよ。シャンデラさんもファンが多いのはうれしいと言って見えましたので。だから、絶対全員無事で勝利してください」
サム、シャンデラのファンだったのか...意外だ。
全員無事でのゲームの勝利。これは俺たちが勝手につけた縛り内容だ。なかなかに難易度が高くなるが、絶対に成し遂げて見せるさ。
俺たちは次の地区、アグリカル地区に向けて走り出した。
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その日の夜の出来事。シャルロットは予定通り大盛況のもとライブを終えた。今、彼女は舞台の裏に一人でいる。そして、独り言をつぶやいた。
「ミカミン、彼らなら大丈夫です。きっとあなたの望みをかなえてくれます。確実にみんな強くなってきてる。念のためを思ってあなたに埋めた爆弾。やっぱり使われることはなさそうです、ですから、安心してください。彼らは、必ずあなたを超えてくれますよ」
シャルロットは優しく笑っていた。
「さてと、こっちの方の仕事は終わりました、そろそろお暇といきましょうか。みんなには悪いけど。さぁ、ステージの準備をしなくちゃね!」
シャルロットはその後、何の音沙汰もなく突如として行方をくらませた。アイドルの突然の失踪。この事件を桜蘭たちが知るのは大分先の事になるのだった。
「必ず、守るから...!」