第2章 57話 砂漠のバラ その3
「じゃ、こいつをどう封じるぅ?」
シャルロットが小型のダイナマイトを一斉に投げた。
ここは俺に任せろ。全部凍らせればいい。俺は冷気をダイナマイトに向かって撃った。本当なら、グレイシアみたいに一気に凍らせれれば楽なんだけどなぁ。一本一本凍らせ、落としていく。今の俺の魔法はそれぐらいの威力しかない。
「お見事でござる!」
褒めてもなんもやんねぇぞ。
「いいねぇ。ご褒美に爆弾を止めるヒントその一、粘土爆弾は匂いを付けてあるの。ヒントその二、粘土爆弾の時限装置は針を止めるだけでいいんだよぉ?つまり、凍らせればよしって事ね」
「桜蘭!麗沢君!一旦別れるぞ!それぞれで爆弾を探すんだ!匂い付きで尚且つ針で動いている。ならば全員別れるのが賢明だ!そして今の発言、凍らせれば爆弾は止まる!」
そうだな、俺は目で探せる。そしてシャルロットは一人。やれる!行くぞ
「いい判断!それが一番いいよね!手伝っちゃお!『スイッチ式爆弾!』点火!」
シャルロットが爆弾のスイッチを入れた。小さな爆発と共に天井が崩れてきた。
ちっ!俺は崩れる天井を避けた、見事に三人バラバラに分かれた。シャルロットは麗沢のいる場所か...うん、今やるべきことを冷静に考えよう。完全に俺たちを分ける。シャルロットの狙いは、麗沢一人だけという事か。俺たちが爆弾の解除をしても麗沢が解除できなければ意味がない。そして麗沢を狙った理由は、あいつは耳がいい。恐らく俺と睡蓮よりも爆弾の発見が早い。だからシャルロットは最初に麗沢を狙ったのか...我ながら冴えてるな。じゃあ俺のすることは、麗沢を信じて、早急に爆弾を探す事だ。
俺はあたりを探す、まず一つ目を見つけた。意外と小さいな。四角い粘土に腕時計のような物が巻いてある。俺はそれを凍らせて止めた。
「睡蓮!そっちは見つけたッスか!?」
「あぁ!今二ヵ所目を発見した。あ!それとこれは俺の計算だが俺と君の所で恐らく三ヶ所づつ。合計六ケ所に爆弾があるはずだ。建物を崩す位置を考えると君の所には三ヶ所だ!」
「了解ッス!麗沢は大丈夫ッスか!?」
「一つ発見したでござるが、シャルロット殿が立ちはだかって進めないでござる」
そうか、見つけてはいるんだな。じゃあ俺は後二ヶ所か。早く見つけて合流しよう。この戦い先に麗沢にたどり着ければ勝てる可能性がかなり上がる。
.........見つかんねぇ!どこだよ!考えられるとしたら柱付近にあるはずなのに、どこにも無い!ばくだーん、でてこーい。
「見つけた!桜蘭!最後の一つを見つけた!そっちは!」
「ダメッス!どこ探してもないッス!!」
どうやったら見つけられる、めっちゃ目を凝らしているのに...
「桜蘭、慌てなくていい。こういう場合は相手の思想になって考えるんだ。ここにはシャルロットもいる。普通に爆破しただけでは彼女自身まで巻き込む事になる。どこをどう爆破すれば彼女に被害が出ず、俺たちのみ殺せるのか、よく考えるんだ。そして見て、読み取るんだ」
そうか...柱を吹き飛ばせばいいって訳じゃないんだ。しまったな、とんだ早とちりだ。見るのは爆弾じゃない。シャルロットの思想を見るんだ。さっき天井を崩した、少し傾いている。あそこから、俺たちにのみ被害を出すには...壁だ。ここの壁を吹き飛ばせば多分綺麗に俺たちに落ちてくるはずだ!!
あった!壁の隅と隅に一個づつ!俺は素早く見つけた爆弾を凍らせた。後は麗沢だ。瓦礫をどかさなくちゃ!俺は、風の弾を撃ち瓦礫を除去していく。たまには手でよっこらせと大きい瓦礫をどかしていった。
「麗沢!無事か!」
「麗沢君!」
二人同時に麗沢の元にたどり着いた。
「ふぅ 接近戦はやっぱやりにくいね。案外君が強くてまいっちゃうよぉ」
「それはこっちのセリフでござる。接近戦ならばこちらに有利と踏んでいたのでござるが、その素早い身のこなしに無駄のない爆弾の攻撃、正直感服したでござる」
シャルロットは無傷だが、麗沢はあちこち怪我をしているみたいだ。服も結構汚れている。
「でも、こっちは三人になった。この状況はシャルロット、お前の負けだ」
「そうッスよ、爆弾の場所ももうなんとなく分かってるッス。観念するッス、シャルロット」
俺はシャルロットに発信機を渡すように言った。だが彼女は、首を縦には振らなかった。
「う~ん、負けるにはまだ早いかな?だって、もう時間だもん!」
しまった!俺は睡蓮が発見していた爆弾を解除しに走った。だが、最後の一個は爆発してしまった。
「崩れゆく天井!君たちはどう防ぐ!? 私は、こう!『ダイナマイト』!」
シャルロットは自分の真上にダイナマイトを一斉にバラまいた。爆風で瓦礫を吹っ飛ばして自分に落ちてこないようにしてるのか。そしてあの余裕、全て計算してやってるのか。
「桜蘭!手伝ってくれ!」
感心している場合じゃない。睡蓮がやろうとしてることは分かった。土の魔法で防ぐ気だ。二人なら、絶対防げるはずだ!
「ふぅおおおぉぉぉぉぉ!」
麗沢はフライパンに風を纏わせはじめている。自分に落ちてくる分を吹っ飛ばす気だ。今までのあいつを見てれば、自分に降りかかる分は何とかなるだろう。これを乗り切れば、今度こそ勝てる!
「行くぞおおおぉぉぉ!!」
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屋根は崩れ去った。俺と睡蓮はひょっこり屋根から顔を出した。無事防げたみたいだ。遠くでサムがこっちを見ている。
「おぉ、危なかったでござる」
麗沢も無事か...勝った。後はシャルロットだ。どこに...いた。
「おー、みんな無傷かぁ」
「さぁて、今度こそお前の負けだなシャルロット?」
シャルロットはしばらく考えたが、俺たちが完全に取り囲んでいるこの状況、どうやら諦めたらしい。これで...
「あーあ、全員は倒せなかったかぁ。ま、いいか」
今なんて言った?『全員は』? 周囲に風が吹いた。
「はっ!?麗沢君!避けろ!!」
「遅いよ!『粘土爆弾』点火!」
「ぶぅん!」
麗沢の足元が大爆発を起こした。あたりに轟音が響き煙が上がった。そうか、ダイナマイトを上に放り投げたのも、天井を崩したのも、俺たちから足元の注意を逸らさせるためだったのか。だからやたらと上からの攻撃をしていたのか。俺は、冷静に分析していた。
「君の事は忘れないよ、レイサワちゃん」
シャルロットは満足そうに煙に背を向けた。
「れいさ...!」
睡蓮は固まった。
「一人脱落ぅ!でも、これ以上は無理だから、私の負けだね」
負けを宣言した割には、ずいぶんと勝ち誇った顔をしているな。
「本当に負けたと思うッスか?」
俺はシャルロットに質問した。お前は確かに凄いよ。今まで戦った奴の中で一番苦戦した。でも、条件は整った。俺の予想通りだ。勝ちだ。
「どゆこと?」
「この世の中、全部計算で出せる程、簡単には出来てないって事ッス」
シャルロットは俺が何を言いたいのか理解できない。ま、ムリもない、この現象は俺にも到底理解できない。
「今までの展開、かなり憂鬱で、シリアスだったと思わないッスか?」
「だから...どゆことなの?」
「今の爆弾、破片手榴弾にするべきだったッスね。それがあんたの負けの原因ッス」
シャルロットはすぐさま後ろを振り返った。そして口をポカンと開けて固まった。
「いや~、危なかったでござるなぁ」
煙の中から、麗沢のいつものふざけた声が聞こえてきた。
「...!?うそぉ、いったいどうやって?もろに喰らったはず...な、のに?...
ぶふぉっ!クスクス...ちょ、まっ...」
シャルロットが麗沢の姿を確認した瞬間、噴き出した。
「こ...これ...が、麗沢のwww奥の手wwwッスwwwwww」
駄目だ。草生えるわコレ。睡蓮も顔を下に向けて口を手で押さえている。
そこにいたのは、頭が凄まじい芸術的なボンバーヘッドになっただけの麗沢がいた。これ見よがしに親指立てている。
「残念でござったな、シャルロット殿。だがソレでは拙者は倒せぬ。我が麗沢家、最大の奥義『ギャグ補正』の前にはな!キリィッ!!」
「ふぇっ!?この作品ってシリアスメインの作品じゃないのぉ!?いくら何でもなしっしょそれぇ!ってかどうやったらそんなん出来んのぉ?ってその髪型!プクク...ごめっ」
残念だったな。この第二章はほんのりとギャグもあるんだよ。
「ふぅ、ここは俺が説明するッス。麗沢は、目に見えないギャグ補正ゲージというものを持っている。それを溜めるには、鬱、シリアスな状況を続ける事なんス。それが最大まで溜まった時それは発動する。一度発動すれば、麗沢は不滅の存在になるのさ!!どんな攻撃もギャグ補正で乗り切る、それが麗沢の真の力!!」
そぅ、これは俺が高校の時、麗沢と大喧嘩した時だった。珍しく麗沢も本気でブチ切れていた。喧嘩の理由は些細な、アニメと原作の展開の違いについてだ。俺はどうして原作通りに作らないか、そのことで麗沢と喧嘩していた。その口喧嘩は下校しながらも続いた。一歩も引き下がれない。その時だった。俺の目の前で麗沢がトラックに跳ね飛ばされた。俺たちは喧嘩に集中するあまり、いつの間にか道路に出ていたんだ。 その時だ。麗沢は十メートル以上吹っ飛ばされていた。だが、麗沢の負った怪我は『眼鏡にひびが入った』それだけだった。俺は大丈夫かと尋ねた。そして麗沢は言った。
『交通ルールは守ろうね!』と、俺は大爆笑。トラックの運転士もまた大爆笑、俺たちは警察に連絡せずその場を後にしたのだった。
その後俺は、麗沢から、この一応奥義の事を聞かされた。最初は冗談かと思っていたが、その時の目は本気で言っていた。
「そんな阿保なぁ」
シャルロットが目を真ん丸にしている。今がチャンスだ。行け、麗沢。
「そしてぇ!これで決めるでござる!前先輩が、アンリエッタ殿にぶつけた技のオマージュというかもろパクリ!名付けて『風の一撃』!!」
シャルロットは完全に出遅れた。再び真面目なテンションに戻って放った一撃。あのフライパンに風の魔法を纏わせ、一気に振る。
「しまっ!!」
風はシャルロットにクリーンヒット。シャルロットの体は吹き飛ばされた。
「きゃああああぁぁぁっ!!」
そして、あ、俺に向かって飛んできた。えっとキャッチしろってか!?先に言えよ!!頷くな!心の準備がまだ、ってぎゃぁ!
俺は吹き飛ばされてきたシャルロットを受け止めはしたが、飛んでくる人間をキャッチするのは至難の業だ。思いっきりしりもちをついた。
「あいたたたたぁ。って、ありゃりゃぁ、やられちゃったみたいだね。
いや~参ったよぉ、私が誰も倒せないなんてねぇ、降参降参!」
あの...降参を宣言する前に俺を椅子にするのやめてくれません?ぐぇぇ...