第1章 6話 異世界の魔法(うた)
「あ~あ~ ゲホンゲホン」
僕は、咳払いして「ランララララ」と歌いだした。
昔、日本ではやったアメリカの歌だ。彼女は、余計に首をかしげて僕を見ている。なんて言っているのかわからないからだろう。この曲は、全部英語の曲だ。だから僕は、この曲を歌っている。そして歌い続ける。そうしていると彼女も少し乗っているように見えた。僕は歌い終えた。
そして
「なんて言ってたか、分かったかい?」
僕が急に質問をすると彼女は、ブンブンと首を横に振った。
「でも、何かを感じることができたんじゃないかな?」
そう言うと彼女は、コクコクと今度は、大きく首を縦に振った。
「この曲は、簡単に言うと、例え下手糞であっても、自分やみんなの幸せのために歌おう、的な曲なんだ」
彼女は、ポカンとしている。
「この曲、小さいころ親の車でよくかかってた曲なんだ。僕も、最初はなんて言ってるのかわからなかったけど、耳にすんなり入ってきてすごく心が和らいだんだ。君はどう思った?少しは、落ち着けたかい?」
彼女は、小さくうなずいた。
「じゃあ 君も歌ってみる?」
すると、彼女は無理だと言わんばかりに首を横に大きく振った。
「なにも、全部歌えって言ってるわけじゃないよ。ラララのところだけ、声を出せばいいからね。歌えてなくてもいいから。声を出すことが大切だと思うよ」
そう言うと、彼女はまた小さくうなずいた。
「じゃ いくよ僕のあとに続けて歌えばいいから」
と言って僕は、また歌いだした。「ランララララ」僕が歌うと
「あ~、あっあぁ~」とぎこちなく声を出している。
「うん。それでいいから続けてみて」
僕たちは、最初のフレーズを何度も繰り返し歌った。数分すると彼女はの声は、大分歌になっていた。僕は彼女に合わせて歌詞の部分を歌った。彼女は、驚いてこっちを見てきた。
「君は、そののまま歌ってて」
僕が言うと彼女もうなづいて、歌い続けた。僕も彼女とともに歌い続けた。あまり上手くない二人の歌だったが、形にはなっていた。
僕たちは、歌い終わった。
「こんな単純な歌だけど、意外といい気分になるでしょ」
僕が言うと、彼女は、大きく何度もうなづいた。
「これが魔法。目には見えない心の魔法。歌ってのは、言葉を通じあわせなくても、伝えることのできる不思議な力があるんだ。心を伝えるってね。僕は、これに助けられて今、生きている。だから、これこそ本当の魔法だと僕は思うんだ。誰かを傷つけるんじゃない。誰かを助けるためでもない。誰かに伝える為に歌はあるんだと思う」
僕が言い終わると、彼女は、口を開けて何か言おうとしていた。そして掠れた声で
「わ...たし」と言った。
「凄いじゃないか もう喋れてる」僕は、心底驚いた。
だが、そのあと聞かされた言葉は、僕の予想をはるかにどころか、予想すらできない言葉を聞かされることになった。
「こ...ろ.され...る」