第2章 55話 砂漠のバラ その1
さて、シャルロットが俺を倒したと思っているのなら、今は別に行動している奴らの方へ向かっているはず。
「とりあえず、ざっと見たところ、ここの通りに爆弾は無さそうッスね。あるとしたら、建物の中ぐらいか...」
見ると、外には爆弾は設置されていない。建物の中には壁に貼り付けた小包の様なものが見える。見るからして怪しいから多分あれは爆弾だ。
「にしても、さっきの爆破。綺麗に屋根だけ落ちるように爆弾をセットしていたんだな。他の建物に瓦礫が一切飛び散っていなかった。シャルロット、一見馬鹿っぽい感じだが、相当計算能力は高いみたいだね」
そういえば、俺が吹っ飛ばした天井以外は綺麗に、まるで二階建て家をそのまま一階にストーンと落とした感じだった。あ、爆破部隊の主な仕事は建物の爆破解体だったっけ。プロ意識ってやつなのかなぁ。
しばらく歩くと、遠くで爆音がした。あっちの方は、確かグレイシアと零羅だ。俺たちはまず確認を取ろうと、トランシーバを取り出した。だが、
「あ...どおりで、桜蘭 どうやらこのトランシーバ、壊れてしまったらしい。ほら、ダイヤルをどこに回しても全く音も出ない。さっきの爆発で壊れてたみたいだね。だからあの後、誰からも連絡が無いのか...だとしたら、さっきの爆発...」
マジでか。でも仕方ないよな。このゲームは死と隣り合わせだ。ん?確か作戦じゃ誰かと通信が切れたら即刻撤退するって話してなかったっけか?じゃあ、今の爆発は?
「あの爆発、アレも罠か?それとも...ええい仕方ない!桜蘭!このままいくぞ!」
睡蓮も考えるのが、面倒くさくなってきたみたいだ。俺たちは走り出した。
やはり、通りに爆弾はない。俺たちは走り続けた。そして。
「ぎゃん!」
曲がり角で何かと思いっきり顔をぶつけた。
「いったたたぁ...」
あれ?この声は...まさか、ぶつかったのって。
「ねぇ、どうして私たちってこうなるのかなぁ。これは何が原因?私?桜蘭?それとも神様?」
やっぱりエルメスだ。
「無事だったか。心配したよ。急に通信が出来なくなったからね。いやぁ無事でなによ...」
サムも一緒だ。だが、俺を見てエルメスとサムはカチコチに固まった。
「ちょっと、サクラ君?顔中赤黒いけど、それって...」
あ、そういやさっきの怪我、まだ顔全然拭いていないな。乾いてきて顔に張り付く...水場ないかなぁ。
「血っスね。さっきちょっとやっちまったッスもう治ってるッスけどね」
俺はさっきの出来事を正直に答えた。まんまと罠にはまってこうなったと。
「サクラ...お前は、無茶しすぎだぁっ!!」
エルメスに思いっきりビンタされた。そして凄い形相で俺の胸ぐらをつかんだ。
「突っ走るのもいい加減にしてよ!このゲーム、私は誰も失わせないって決めたんだよ!それがレイにとって一番の敗北になるんだ!私は、みんなを守る為にこの旅に付き合ってるんだ。いいかサクラ、無茶は絶対にするな!全員でこのゲームをクリアするんだ!自分が犠牲になってもいいなんて絶対考えるなよ!?」
す...すみませんでした。俺は犠牲になってもいいとは考えていないが、少々突っ走りすぎているのも事実だ。それにしても、このゲームで誰も失わせないってのが、エルメスの覚悟なのか。立派だなぁ。
「それに、...」
ん?なんか言ったか?エルメスが何かぼやいたような気がしたが、その直後にまた爆発音が聞こえた。
「また、グレイシアさんたちの方だ。どうする?」
「行くしか、ないな」
俺たちは、全員で爆発のしたところに向かった。作戦はもう無意味になったな。
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さて、と 爆発のあったのはここだ。また綺麗に建物が崩壊している。そして、道路に真っ黒な焦げ跡がある。グレイシアたちは、どこだ?通信も途切れて応答はない。
「道路に焦げ跡...桜蘭、ここまでずっと通りには爆弾は無かったよね」
「はいっス」
睡蓮の質問、確かに、あったのは建物の中に点在しているは見かけた。あ、まさか。
「という事は、ここで別の爆弾を使ったみたいだな。匂いがあまりしない。粘土爆弾を使ったのか?それともまた別の...」
この焦げ跡、かなり新しい感じだ。近くにシャルロットがいるはずなんだが、また見当たらない。全く、かくれんぼじゃないんだから。何か動くもの、ないかなぁ。
ん?あぁ。あの瓦礫が少し崩れただけか...でも、なんだ?不自然な気がした。俺はその瓦礫の近くによった。
「せーの...」
この声、零羅か...?ん?今 せーのって、まさか、グレイシアと二人で...これを吹っ飛ばす気か?あの二人なら簡単だよな。という事は、俺のここの位置...
「やべぇっ!みんな!ちょっと伏せて!!」
俺が地面に伏せた。状況を理解できないまま、みんなも伏せたその直後だった。
瓦礫が一気に吹き飛んだ。というか、そこにあった建物がきれいさっぱり無くなった。代わりに巨大な氷の柱がそこに建設された。
そしてその氷の中から二人は出てきた。
「あれ?みなさん。どうして...」
零羅がきょとんと俺たちを見ている。
「ごめん。やられた。トランシーバも壊れちゃった。でも大丈夫、私たちは無傷だから。崩れた時に氷で屋根を作った。だから誰もやられてない。以上が自己弁護」
はぁ、ま、無事ならいいんだけど。エルメスがツッコむより先に先制したのか。エルメスが「お、おう」みたいな反応している。
「でも、この二人の足止めするってだけでも、シャルロット、やっぱりかなりのやり手ッスね。んで今ここにいないとすると...」
俺は、急激に冷や汗が出てきた。次に行くのは麗沢の所しかない。シィズが付いているとはいえ、あのバカ、何しでかすか分からない。迷惑かけてないだろうな。
だが、俺は心のどこかで麗沢なら勝てるかもと考えていた。あいつにはとっておきの秘策がある。俺はそれに賭けてみることにした。そうだ、今ならやれる筈だ。俺しか知らない、誰も破る事の出来ない究極奥義が奴にはある。