第2章 51話 大渓谷で生まれた友情
「いや~笑った笑った!思いつめた時にはやはり笑うのが一番だな!にしてもサクラ君!君の先ほどの一撃、かなり効いたぞ!鎧の下に入ってた発信機もこの通りだ!」
アンリエッタはよっこらせっと、鎧の中からぺちゃんこになった発信機を取り出した。俺のさっきの一撃、あんなに強かったのか。
「お?もしかしたら先輩!これって『覚醒』したのではないでござるか!?グレイシア殿がこの前言っていたアレでござる!!先ほどの先輩の攻撃、三上殿の様でしたぞ!?」
麗沢がやたらテンションを上げて俺の方に走って来た。覚醒...マジでか?
「サクラ。ちょっと」
今度はグレイシアだ。なんだろう?
「覚醒したのならば出来るはず。とりあえず溶岩の魔法を使ってみて」
へ?溶岩?そんな魔法あったっけ?この間サムに、この世界の魔法について聞いてみた時確か、この世界に存在する魔法は七種類で、『火 水 土 風 氷 雷 光』の七種類だったよなぁ。確かそう言ってた。そんで何故か俺たちだけがその七種類全部の魔法が使えて、ここの世界の住人で使えるのはごく一部、さらに一種類の魔法しか使えなかったんだよな。確か、全ての魔法を使えたって言うニヒルアダムスの、子供たちがそれぞれ七種類の魔法を持って生まれてきて、それの末裔だとか...あれ?そうだとするとエルメスは?あの人も魔法が使えるのか?
ま...そんなことはいいか、それよりも溶岩ってどゆこと?
「えっと...こうか?」
とりあえず俺は、炎を前方に撃ち出した。威力は...まぁいつも通りだな。さっきの感覚、どういう風だっけ?
「やっぱり、覚醒には至ってない」
グレイシア。無表情だけど、残念そうに肩を落としたのは分かったぞ。にしても、やっぱり覚醒には至って無いのかぁ。俺自身もあんまり実感が無かったし、そんな気はしてたけどね。
「レイは七種類の魔法を組み合わせて色んな魔法を使ってた。それで火と土を組み合わせて溶岩を作り出したり、風と雷で嵐の様にしたり出来た。つまり、覚醒したらそういったことが出来るようになるって事」
はぁ~~~、そんな事も出来るのかよあの野郎。でも組み合わせならやろうと思えばできるんじゃ...
俺は土の魔法で地面を盛り上げ炎の魔法をそこにぶつけたが、特に何も起きなかった。やっぱできないかぁ。
「ふむ、陛下の様にはまだいかないか...だが、落ち込む必要はないぞ!サクラ君!君の一撃は確かなものだった!もっと熱くなれば、君はいつしか陛下を超えられるはずだ!」
アンリエッタ。完全に勢いが戻った。俺の肩に手を回す。あっつ!熱い!熱い!鎧が...!焼ける~!
「そうだ!サクラ君よ!皆も聞いてくれ!この先の地区、デザート地区で待っているリーダーはシャルロットだ!」
誰?と思ったが、サムがその名を聞いた途端、口を少し開けて固まってた。相当ヤバい奴なのか?
「シャルロット レッドローズ、王国軍の爆破部隊の隊長だが、なんていうか、その、どんな人物かは見れば分かると思うよ。爆弾に関しては天才的だと言った感じかな。確か最近でもなんか造ってたな」
「『破片手榴弾』だ!」
成程、次の相手は爆弾使いか...破片手榴弾って意外と現代的なものがあるんだな、この世界。
「って言うか、爆破部隊?何やってんスか?それ」
この国って確か、この世界そのものが一つの国になってるんだよなぁ。何でそんな物騒な名前の部隊が?
「あ、そういえばこの国の軍についてまだあんまり教えていなかったね。かつてはバケモノからこの国を守る為に作られた組織なんだが、今の軍の活動は主に戦闘なんてほとんどやっていないんだ。基本、災害時の応援に行くとかだね。極稀に暴動の鎮圧に出るんだけど...それでもって、爆破部隊と言うのは、主に老朽化したビルの爆破解体をしている人たちの事なんだ」
サムが丁寧に説明してくれた。それってつまり工事現場の人?
「まぁ、そんな感じで結構平和な感じなんだが、中には戦いたい一心で軍にいる連中もいる!この私もそうだ!だが、シャルロットは戦うというよりいかに美しく爆破出来るかに命を賭ける!そういう人物だ!」
はぁ~、ずいぶんとまぁ、漫画みたいなやつが出てきたもんだなぁ。一体どんな人なんだろ。シャルロットって事は女性だよな。それに爆弾...う~ん、想像がつかんな。
「では!私はこれで失礼する!君たちの健闘を祈っているぞ!!君たちならきっとこの世界を救えるはずさ!!『全ては、平和の為に!!』」
そう言って、アンリエッタは馬にまたがり、この渓谷を後にした。傷負ってたけど、タフな人だなぁ。ってかどこに行くんだろう。こんなくそ暑い中...ほんと、暑い人だったなぁ。
さてと、俺たちも行きますか。次の目的地はデザート地区、この渓谷を抜けた先にある小さな町にいるらしい、こっからは割と近いみたいだ。明日の昼前には着けるかもしれないとの事だ。でもマルッと一日はかかるのね...
ゲーム開始より、十三日が経過