第2章 48話 死を彩るは、青き薔薇
俺たちは、食料を買いに街の市場に来た。活気がいい感じの魚屋さんの服を着た人たちが色々売りつけてくる。
「そこのお兄さん!マグロ安いよ!!」
「今朝上がったばかりのイカだよ!!」
干物系を購入。更には水と、適当にスーパーがあったのでそこでレトルト食品を購入した。
さっきまでファンタジーな感じを満喫してたのに、ここはすごい現実的というかなんというか...魚も、聞いたことのない魚がいるものかと思ってたのにな。
俺たちは車のある所に戻る為に歩いていた。その時の出来事だ。
「ここの干物はかなり美味い事で有名なんだ。日持ちはしないから、今日の夕飯にでもするか」
「そうなんスか。あ、なんだかよだれが...」
「あ、わたし、手伝います!」
そんな他愛のない会話をしていた。
その時だ、零羅と睡蓮が、急にハッと顔を曇らせ、あたりを見渡した。凄い真剣な顔をしている。
『この、匂いは...』
零羅と睡蓮が二人同時にある方向に向かって走っていった。
「え、ちょ!何があったんスか!?」
あまりに急に起こった出来事なので、俺はあたふたしながら二人を追いかけた。グレイシアたちも何事かと駆け出した。
必死に二人を追いかけ、細い路地に入った。そこで二人が止まっていた。
「はぁ、はぁ、一体何があったんスか?急に走り出して...」
俺は、二人がなぜそこに立っていたのか理解した。
「これは...シィズ!」
「はい!」
サムとシィズが二人の前に出た。
そこには一人の男が倒れていたんだ。シィズが手袋をはめて、首元に手を当てて、その後目を確認した。
「ダメです、死んでいます」
シィズが小さくサムに首を振った。サムは眉間しわを寄せ、死体を見ている。
「こいつ...アントニオ コルチカムか?」
「そう言えば、似てる。指名手配犯の...まさか!」
シィズは死体を転がせて、体全体を見ようとした。俺はこいつがどうやって死んだのか理解した。
「これは!この殺され方!」
「青薔薇!」
死体の左胸には、薔薇が咲いていた。冷たく凍った、真っ青な薔薇が死体に咲いていた。
「青薔薇?なんスか?それ」
「この世界の、裏社会では知らぬ者はいない、伝説の殺し屋。青い氷の薔薇が心臓に根を張り咲き殺す。そこから名づけられた名前だ!」
俺たちはしばらく硬直していた。そして再び、零羅が何か鼻をピクピク動かしたと思ったら、
「こっちです!」
と言ってまた走り出した。なんだ?何がどうしたんだ?
いつの間にか零羅は、手に炎神を着けて街の方へと向かった。俺も後を追いかけた。
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零羅は一人の人物の腕を掴んだ。ローブ姿で、顔はよく見えない。
「あなたですね、彼を殺したのは!」
そいつは、しばらく黙っていた、いや、黙っていた時間はそこまで長くはない、せいぜい十数秒だ。だが、俺にはやたらと長く感じていただけだ。
「よく...気付いたな。お嬢さん。どうやって気が付いた?」
男の声だ。声だけだから年齢はよく分からないが雰囲気から察するに、俺よりはかなり年上だろう。
「血の匂い、わたしは結構匂いに敏感なんです。磯の香りのするこの街の中に、人間が流した血の匂いを感じたんです。そして、そこに向かっているときにある事に気が付きました。あの死体の付近で、魔法を使った匂いがしました。その匂いを追いかけたらあなたに行き付いたのです」
後から睡蓮も駆けつけてきた。
「そうだ。僅かだが、お前からあの場所と同じ匂いがする。魔法を使った独特な匂い、そして、それ以上にお前からは、平気で人を殺せる奴の匂いがする」
匂い?魔法を使ってそんなの感じたこともなかったな。嗅覚が鋭いのか?この二人。
そして、全員が男の前に立ちはだかった。
「ふん、魔法の匂い、そして血の匂い。それを嗅ぎ分けれるのか、お前たちは...」
「血には、敏感なんですよ」
しばらく沈黙が続いた。これは、かなり長い。十分ぐらいたったか?サムが口を開いた。
「あなたは、本当に『青薔薇』なのか?だとしたら、聞かせてほしい、あなたはどっちの味方だ?」
そうか、サムが言いたい事を俺は理解した。もしかしたらこいつを味方に付けれるのかもしれない。こいつは殺し屋。依頼が無ければ別に殺す必要はない。
「ふっ...そうだ。俺が『青薔薇』だ。早速だが、質問の答えを言おうか?答えは敵だ」
「なっ!?」
「正確には全員が敵だ。今、俺が請け負っている依頼を教えてやろう『この世を乱しているものを殺せ』だ。つまり、別の世界から来た者を殺せ、そういう依頼だ。だからお前たちを殺した後は、ミカミも標的になる」
マズいな、こいつは何かヤバイ気がする。殺気が尋常じゃない。呼吸が、苦しい。全員が全く動けないのは、全員がこの気迫に押されているからだ。現に零羅も腕を掴んだまま全く動かないし、睡蓮はナイフを構えていない。
「それにだ。俺個人の理由でもお前たちを殺すつもりだ。だが、今は見逃そうか...ここでは人目に付く。殺し屋の俺にとっては不都合すぎる場所だ。それに、見たいものは見れた。今は、少しうれしい気分だ」
その言葉を発した途端、冷気が俺たちを襲った。俺は一瞬目を瞑った。目を開けると、そこには青薔薇の姿は無かった。零羅さっきの場所から後ろに飛び退いていた。怪我してなくて良かった。だけど、見たいものが見れた?何を見たんだ?
「俺は忙しい、他にもまだ仕事が残っている。だが、近いうちに必ずお前たちを殺しに行く。覚悟をしておくことだ」
どこからともなく、青薔薇の声が聞こえた。
マジかぁ...
「うぬぅ...リーダーに続き、あの青薔薇も敵か...あ~、最悪だ」
サムが肩を落として落ち込みまくっていた。
「でもまぁ、今は何とかなったんス。次に奴が来るまでに俺たちが強くなればいいんスよ。俺たちも頑張るッスから、そんな落ち込まないで下さいッスよ」
とは言っても、あいつより強くなるのか、三上と青薔薇、どっちが強いんだろうなぁ。でも、結局はどっちも強敵、青薔薇を倒せなければ三上に届くはずもない。俺は俺自身にそう言い聞かせた。
「アントニオの事は地元の警察に任せておいたから、私たちは先を急ぎましょ?」
シィズは既に警察に連絡を取っていた。相変わらず仕事が早いな。いつの間に連絡してた?そんな疑問はさておいて、とりあえずは買い物は済ませた。出発しよう。
ゲーム開始より、十一日が経過。