第2章 46話 愛する者の為に死を覚悟する二人 その1
俺たちの乗った車は順調に、次の目的地に向かっていた。
「ジョシュからの連絡で、オーシャナ地区のリーダーが分かった。ベアトリーチェ ブルーベルだ」
サムの言葉で、二人が反応した。エルメスとグレイシアだ。
『リーちゃんが?』
リーちゃん?あだ名か?
話をエルメスに聞いたところ、ベアトリーチェは、エルメスとグレイシアが大学時代の後輩だった人物らしい。
「はぁ...あいつが相手ねぇ...これは荒れるかも...」
エルメスが大きくため息をついた。
「荒れるって、そのベアトリーチェさんと何かあったんスか?」
「いや、あいつ、レイのストーカーなのよねぇ」
はい?ストーカー?三上の?俺はもうちょっと詳しく話を聞くことにした。
「レイのやつ、見た目結構子供っぽいだろ?それに身長も小学六年生位しかないし...あいつ、この国を征服する前は家電の修理をやりつつ、それでいて、バケモノの研究の第一人者でもあったんだ。だから、私たちが通ってた大学の研究室にもよく来てて、なんだかんだ人気があったんだよ」
ふむふむ、家電修理って、今のあいつを見ると想像できない仕事だな。
「リーちゃんは、そこでレイに一目惚れしてね、それ以来、ず~っとレイの後ろをつけてたんだよねぇ。だけど、空気読めないグレイシアが先越してレイに告白しちゃったんだよ ねぇぇ」
エルメスがじーっとグレイシアを睨んだ。当のグレイシアはというと...
「え?リーちゃんもレイの事が好きだったの?」
あ、これは荒れるわ。ふと、エルメスを見ると、「ね」と俺にアイコンタクトを送ってきた。俺は頷く事しか出来なかった。
次の戦いは、俺たちの出る幕じゃないかもしれないな。さっき体動かした意味がない。
そうしているうちに俺たちは、ベアトリーチェの待つ街についた。割と大きい街だ。見たところ、海産物が特産品と言った感じか?漁船も港付近にいっぱい停泊してある。車は街の中を進んでいき、適当な駐車スペースにとめた。
「ふぅ...ようやく着いた!」
俺は体を伸ばした、磯の香りが少し来る。俺は築地にちょっと行った時の事を思い出した。あそこもこんな匂いしてたなぁ。魚の匂いというか海鮮の香り。
さて、ん?何か視線を感じる。俺は後ろを振り返った。どうやら、早速のお出ましか。
「やあ!グレイシア先輩!久しぶりですね!」
爽やかにグレイシアにあいさつしたのは、でっかい盾を携えた女性だった。
「あ、リーちゃん。久しぶり」
グレイシアは普通に返事を返した。今のところ、ヤバい感じにはなっていないが、ベアトリーチェから、なんというか、ドロッとした何かを感じる。殺気に似ているような、そうでないような。
「ねぇ先輩、レイ様と別れたんだって?」
「別れたというか、レイを裏切った?正しい言葉が分からないね」
「そう、そんなことはどうでもいい。あたし、あんたが結婚する時に言ったわよねぇ。レイ様を悲しませたらただじゃ置かないって、さ...」
あ、ヤベ、そろそろ後ろに下がってようかな。俺はススス~っと後ろに下がった。
「何でレイ様こんな奴と結婚したのよぉぉぉ~!!あたしの方が絶対に幸せに出来たのにぃ!!」
うわっビックリした。急にでかい声出さないでよ。体が跳ね上がったじゃないか。
「殺す、殺してやるぅ…レイ様、見ていてください。あなたはこんなあたしをリーダーにして下さった。復讐のチャンスを下さった。今、こいつを滅ぼして、あなたの元に行きますわ!」
こ、怖ええぇぇぇ!!病んでるよこの人、ヤンデレってやつだよ。下手すりゃ三上も殺すって言いかねないよこの人。俺は更に後ろに逃げた。だが、グレイシアは前に出た。
「全く人の話を聞かない...相変わらずだね」
ベアトリーチェは、盾の尖った部分をグレイシアに突き刺そうとした。だが、グレイシアは氷の剣を作り出し受け止めた。そういえばベアトリーチェが騒いでたせいでよく聞こえなかったが、グレイシアが何か言いたそうにしてたな。途中で諦めた感じだったけど。
「へぇ、あなただけが前に出たのねぇ。つまり私と殺りあうって気があるって事ね!いいわ!勝負と行きましょ!命を懸けて!」
「...」
ん?今、グレイシアなんて言った?それより、グレイシアが戦うのかぁ、もうちょっと下がった方がいいかな?
同じ人を愛した者同士の闘いが始まった。