第1章 5話 異世界の嫌われ者
僕は、あのダストって女の子のいた場所に向かって走っていた。後ろのほうでビーンが
「おい どこ行く」と呼んでいるが気にもせずにあの子のもとに向かう。
(あの子のあの目つき。まるで小学校の頃いじめられていた僕の目つきにそっくりだ。あの助けを求めているけど、だれも信用できないあの目。伝えたいことがあるけど、それを伝えたくないと思いとどまるあの表情。まるで昔の僕じゃないか)それを急に思い出した。
(そして、だれも、助けてくれないとすべてをあきらめたとき、あの子は、多分、自殺する)僕は焦った。僕は一度自殺未遂をしている。だけどそれを止めたのは、両親の存在があったからだった。でも今 あの子に両親はいない。代わりになるものすらいない。頼みの綱は、皆無と言っていいだろう。僕には、あの子がそのうち自殺してしまうという自信があった。なぜかは、分からないけど絶対的な自信があった。
(自殺だけは、あってはだめだ!)
僕は、さっきあの子がいたところに戻った。だがそこにあの子はいなかった。当然と言えば当然だが 僕は、あたりを探した。僕は、路地の奥へ行った。路地を出ると川の堤防道路へと出た。辺りを見渡すと、あの女の子を堤防の下の道路に座っているのを見つけた。
僕は、彼女に声を掛けた。
「ねぇ 君」と声をかけた直後、彼女は、ビクッとしてこちらを向いたと思ったらいきなり、僕の左腕を一瞬で凍りつかせた。
僕は、後ろへ飛び退いた。彼女は、一瞬僕の方を見ていた。その時の顔は、凄く悲しく 怯えているように見えた。そしてすぐ僕に後ろを向けて、コートを引きずりながら走り出した。僕は、やるせない気持ちでいっぱいになった。
「待って!」
僕は、彼女を追いかけた。足の速さは流石に僕の方が早かったが、彼女は、また僕を攻撃しようとして振り向き右手を前に出し氷をだした。僕もとっさに右手を出し僕は、炎をだした。氷と炎がぶつかり、辺りに水蒸気が立ち込めた。
周りが見えない。僕は彼女を探した。すると水蒸気の中にキョロキョロする小さな影を見つけた。僕はそれに近づいた。すると向こうも気付き僕に向かってまた、右手を出した。僕は、とっさに右手で彼女の右腕を掴んだ。再び出た氷は、水蒸気を吹き飛ばした。僕は、辛うじてそれを避けた。僕の隣には、巨大な氷の山が出来ていた。僕はしゃがみこみ凍りついた左手で彼女の右手を包んだ。
「僕は、君に何かするつもりは全く無い。君を傷つけるも無い。だけど聞かせてくれないかな。君は、何を恐れているの?」
彼女は、ビクッととして僕のほうを見た。
「僕は、君を助けたい。おせっかいかもしれないけど、君のことを見ていたら、昔の僕を思い出したんだ。君は僕と同じ目をしていた。だから聞かせてくれないかな、何が怖いの?」
彼女は、じっと僕を見て
「んっ...あっ...」とかすれた声で言った。
その時僕は思い出した。彼女がしゃべれないということを そして僕は言った。
「とりあえず、歩こう」
彼女はうなずき 僕たちは、川沿いを歩いた。しばらく一緒に歩いていると、僕はあることに気づいた。
周りに、誰もいない。
「ここって、いつもこんなに人通りが少ないの?」
僕は質問すると、彼女は首を横に振った。
(だとしたら、みんなしてこの子をよけているのか?)僕は思いながら歩く。すると遠くに遊んでいる子供達がいる。すると子供たちはこちらに気づき
「うわっ!やばい ダストだ! 逃げろ」と言って 一目散に、逃げていった。さらに歩いて行っても、前から歩いてきた人たちは、手前で曲がるか引き返していった。
(何だこりゃ まるで町ぐるみのいじめじゃないか)僕は彼女に目をやると彼女は、ずっと下を向いていた。
「わかった とりあえずそこに座ろう」と言って僕は、川沿いのベンチに座った。
「なんとなくわかった気がする。よくこれで耐えてこれたね。すごいよ。僕もここまでされたことはなかったからね」
彼女に目をやってもうつむいたままだった。
「僕は、君じゃない」
唐突に僕が言うと、彼女は、顔を上げて僕のほうを見た。
「君じゃないから、君の心は、すべて理解することは出来ない。だけど、僕にわかるのは君は、僕の想像をはるかに上回るような生き方をしてきたということ。そして君は、すごく優しい性格ということだけ。君は、誰も傷つけたくないんだよね。だから、僕を攻撃した時あんな顔をしていた。敵意を出すならあんな顔は出来ないよ」
僕が言っていると彼女は、再び目線を落とした。
「でも君は、優しすぎるんじゃないかな」彼女は、ハッとして顔を上げる「人間なんて、常に誰かを傷つけながら生きている。傷つけずに生きることなんかできない。だから君も、もう少し自分の意思を、周りにぶつけてもいいと思うよ。たとえ言葉が話せなくても、文字が書けなくても、何か伝えれる方法はあるはずだから。それは意外と難しいけどね。 あっ!そういや いいこと思い出した。君、言葉は話せないけど声は出せたよね」
彼女は、コクッと頷くと首をかしげてこちらを見た。
「ある意味での、魔法を教えるよ」