第2章 44話 完成せし、勇者たちの武器 その3
「まずはこっちに来てくれ、さっき調整が完了したばかりなんじゃよ」
俺たちは、裏口から外に出た。外には案山子の様な人形がいっぱいあった。その案山子には『練習台』とでっかく張り紙がされていた。
「こいつじゃ...」
チュニアは若干分厚いスーツケースの様な箱を持ち出してきて、零羅の前に置いた。
「開けてみんさい」
零羅は、恐る恐るケースを開けた。
「こ...これは!」
俺も中身を見た。中に入っていたのは赤と黒でまるで炎の化身をイメージしたかのようなデザインの籠手、というかガントレットと、すね当て、というかグリーブが入っていた。
ゴッツ!!めちゃくちゃゴツイこれ!
「こいつの名は『炎神』儂がセブンスイーグルを元に考案した武器の一つじゃ。その籠手に魔法を蓄積させて一撃の元、ため込んだ魔法を一気に放出させる。魔法を溜めれば溜めるほどに威力が増していくんじゃ。威力の程はこの案山子で試してみぃ」
零羅は黙ったまま、炎神を腕と足に付けた。小さな女の子にゴツイ装備が付いてる。すげぇ違和感。
そして零羅は練習台と書かれた案山子の前に立った。
「いきます...!」
零羅は思いっきり右の拳を後ろに引いた。
『ギュイイイイィィィィィィィ!!』
耳鳴りがする鋭い音があたりに響いた。籠手が若干輝いている。零羅は思いっきり拳に魔法をため込んでいるんだ。そして...
「はぁっ!!」
零羅が右手拳を前に突き出した。
『ズバァァァァン!!』
すさまじい音と爆風が俺を襲った。俺は目を瞑ってしまった。
俺が目を開けると、予想しなかった光景が目の前に飛び込んできた。
まず殴られた案山子がどこにも無い。あの一撃で破片も残さず消し飛んだんだ。それよりも、俺が一番驚いているのは、零羅の前方数メートルが消し飛び、クレーターが出来ていた。
「これが、『炎神』の力...」
零羅は自分自身を見つめている。予想以上の威力に零羅自身も訳が分からなくなっているのだろう。
「ちょ!こんな危険な物を零羅に渡すの!?」
シィズが至極もっともな意見を言った。確かに、俺もそれには同感だ。危険すぎる。だけど...
「危険だからこそじゃよ」
「え?」
チュニアは語り始めた。
「サムからレイラちゃんの事は聞いておる。もう一つの人格についてもな、レイラちゃん。お前さんはこの武器をどう思う?」
零羅は少し困惑していたが、表情を引き締め答えた。
「危険な力、そう感じました。ですがこれは私に必要な力。そうとも感じました。わたしがわたし自身を乗り越える為に、わたしはこの武器を使いこなさなければいけない。この力を制御しなければいけない。そう感じてます」
零羅はこの武器を受け入れたみたいだ。
「そうじゃ、『使い方はあなた次第』 儂が武器の購入者に絶対言う言葉じゃ。その武器の威力はもっと凄まじい力を発揮出来る代物なんじゃ。威力だけなら儂が作ったどの武器よりも強い。じゃが」
『最大の攻撃は最大の守りになる』
チュニアと零羅が口をそろえた。チュニアは零羅の言葉に満足した笑みをした。
「『強さ』というのは、攻撃だけじゃありません。守る力も同じ、『強さ』です。理解しました。わたしにはコレが必要です。みんなを、守る為の力が...」
零羅は拳を強く握りしめた。覚悟を決め、まっすぐ前を見ている。
「その通りじゃ。じゃが、気を付けるんじゃぞ?目の前の力に固執してはいかん。力は自分一人で創り出すものではないという事を理解しておきなさい。
そして最後に言っておくぞい。みんな、それぞれの力を信じ、これからの闘いを勝ち抜いてくれ。お前さんたちが、この世界に忍び寄る魔の手から世界を救うんじゃ。『全ては平和の為に』じゃ!!」
チュニアは少し曲がった腰を伸ばし、かかとを揃え、左手を握りピンと伸ばし、右手を伸ばして敬礼のポーズをとった。
俺たちもつられて同じポーズをとった。正しい敬礼の仕方はよく分からないが、チュニアへの感謝と俺自身への覚悟を出し、精一杯の敬礼をした。
俺たちの旅はまだまだ続く、これからの戦いはこれまでみたいにラッキーで済まなくなってくるだろう。何故かは分からないが、そう感じる。今までが順調すぎたんだ。この先どんな敵が待ち受けているのか分からないが、俺は勝ち進んでいくだけだ!!
俺たちは気持ちを新たに、南オーシャナを後にした。次の目的地はオーシャナ地区だ。
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「うぐっ!!」
一人の男が細い路地で倒れた。倒れた男の前にはもう一人立っていた。ローブを着て、フードを深くかぶり、顔はよく見えない。そいつは、男を見下ろしていた。
「お...お前、は!?」
男は、そいつを掴もうとしたがその手前で力尽き、死んだ。だが男が死ぬ瞬間、自分を殺した存在を理解した。男は、何故か嬉しさを覚えていた。自分を殺した存在が、余りに大きな存在だったことにだ。
「『青...薔薇』 あなた...に、殺される...なんて...」
男が嬉しさを覚えた理由、それは『青薔薇』と呼ばれる目の前に立つ彼が、この世界の裏社会では知らない者のいない殺し屋だったからだ。男は殺される直前まで逃げていた。それはしょうもない、強盗を働き、人を一人殺したからだ。彼は自分の罪の重さに苛まれながらも生き続けようと、醜く一週間以上逃げ続けていた。だが、男は心のどこかで死にたいと、誰かに裁いてほしいと願っていたのだ。そして今、男は裁いてもらえたのだ。自分なんて目にも止まらないような、はるか高みにいる存在に、自分は今、殺された。
男は満足だった。ホームレスが、ファンだったアイドルから自分宛てにラブレターをもらった。そんな気分で死ねたのだから。男にとっては十分すぎる幸福だった。
だが青薔薇は、無関心だった。至極当たり前の事だが。彼にとってはこんなことは日常だった。頼まれれば依頼をこなす。それが青薔薇だ。それだけが青薔薇なのだ。
「次の依頼の場所は、『オーシャナ地区』か...」
青薔薇は、一枚の写真を出したそこにいたのは...
「待っていろ...『レイチェル』」
隠し撮りの様に撮られた、今、三上を倒す為に闘う、勇者たちの写真だった。
青薔薇は、ニヤリと笑った。次の仕事は青薔薇にとって最も重要な仕事だったのだ。そして、青薔薇は覚悟を決めたのだ。『絶対に取り戻す』と...
青薔薇は、男に見向きもせずただ真っ直ぐ、歩いていき、街の灯りの中に溶けて行った。
その後、地元の住民に男は発見された。そして住民は理解した。誰が殺したのかを、死んだ男の左胸から血はほとんど流れていなかった。咲いていたのだ。左胸に、真っ青な薔薇が『青く輝く氷の薔薇』が、男の死を彩り、周囲を凍らせていた。
今、別の覚悟を持った新たな敵が動き出した。