第2章 40話 海での休息は、新たなフラグの成立
俺は、近くの簡易的な脱衣所に入り、そこで水着に着替えた。そこで俺は睡蓮が着替えているところを見てしまった。
「睡蓮さん...すごい体してるんスね......」
俺は思わずつぶやいてしまった。と言うのも、睡蓮の肉体は腹筋はバキバキのシックスパック...いや、エイトパックだし、胸筋も綺麗に引き締まっている。それどころか、無駄な脂肪的なモノが一切見当たらない。芸術的な体をしていた。それに比べて俺は...ヒョロ...筋肉が見えねぇ。あばら骨が見えるほど無い訳ではないが...
「そ...そうか?一応ジムに行っていたからかなぁ」
睡蓮は照れ臭そうに答えた。
俺は麗沢はどんなんだろうと思って見てみようと思ったが、既に着替え終わって外に行っていた。
「じゃあ外に行きまスか」
「そうするか、たまにはのんびりするのもいいかもしれないな」
睡蓮が少し笑った。良かった、やっと笑った。今までずっと思い詰めたような顔してたからな。
外に行くと麗沢がビーチボールに空気を入れていた。
「ふん~~~~~~!!!」
一生懸命ボールに空気を入れている。
「ふぅ、肺活量が少ないとこういう時に大変でござるなぁ...」
暑いとはいっても、そこまで汗だくになる事はないんじゃないか?すごい汗だぞ?麗沢...
「あ...魔法があるのならそれを送り込めば簡単なんじゃないかい?」
睡蓮がそう提案した。あぁ...そうじゃん。一瞬俺が手伝おうかと考えた俺は、やっぱバカだった。
「麗沢...ちょいと貸してみ?」
俺はビーチボールを麗沢から取り上げ、ちょっと空気弁を拭いてから、人差し指に集中した。
『スーーーーーーー』
ものの五秒ほどでビーチボールの空気がいっぱいになった。
「うむ...大分魔法のコントロールも上手く出来るようになってきたッスね」
俺は、膨らませたボールをポーンと上にトスした。適当にやったから変な方向に飛んでってしまった。あ~、取りにいこ。
『バムン!』
ボールがバウンドした...
そこにいたのはエルメスだ...ビキニ姿で、俺を睨んでいる。
はぁ。どうしてこうもタイミングが悪いのだろう。どうして、俺が打ち上げたボールはちょうどエルメスの頭にクリーンヒットしたんだろう...
「おい...サクラ。あんた本当に私に恨み無いのかなぁ?」
そのような事、あろうはずがございません。俺は首を大きく横に振った。
「ヘぇ、全部事故だと、そう言いたいのかい?君は」
今度は大きく首を縦に振った。
「そうか、じゃあ 次に起こる事は事故だから。恨まないでね~」
エルメスはビーチボールを掴み、全力で俺に投げつけてきた。俺はそれを避けることに偶然成功した。それにしてもすごい勢いで投げるな...当たったら絶対痛い...
「ちぃっ!!避けるんじゃないよ...コノヤロー!!」
エルメスが追いかけてきた。うん...逃げろ!!
「まてぇコルァーーー!!」
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「あ~、またやってるの?あの二人。どころでサム、パラソル立てれた?」
「あぁ、ビーチベッドも用意しておいた」
「さすが!」
サムは着替えず、ビーチでパラソルを立てていた。そして俺は...
「こんにゃろ!こんにゃろ!」
エルメスに踏まれていた。サムさん!助けてよ!!
「はぁ、ようやく気が収まったわ...」
エルメスはサムたちの方に向かった。
ようやく気が済んだか...とりあえず立とうかな?でも、なんだか起き上がりにくい。どうしよう...
「あの...桜蘭さん。大丈夫でしたか?」
俺はふと顔を上げた。声をかけてきたのは零羅だった。俺は思わず零羅の着ている水着に目が行ってしまった。何でスク水?まぁ、年相応な格好なんだけど、なんでレンタルでスク水が?競泳水着ならさっき見かけたけどなぁ。
「あ~、うん、何とか大丈夫ッス」
「そうですか。なら良かったです!それにしても、水着って変わった着心地ですね。なんだか肌に吸い付きます...」
そうか、零羅は学校にも行ったことがないって言ってたっけ。水着着るの初めてなのか。というかやめなさい、水着を伸ばすのは...零羅は、水着を摘まんでぐいーっと伸ばしていた。
「待たせた?」
後ろからグレイシアの声が聞こえた。そういえば、この前エルメスがグレイシアは無駄にスタイルがいいとか言ってたな。俺は少々ドキドキしながら振り返った。だがそこには微妙に変化したグレイシアがいただけだった。裸足になっただけじゃないか?
なんで...なんで...
『何で上のコート脱いでないんだ!?』
俺と麗沢が同時にツッコんだ。麗沢もだ。あのボケキャラがツッコむとは、さては麗沢、お前も少し期待してたな?俺は麗沢に目線をやったが逸らされた。図星か。お前も男だったんだな。
「...?日焼けしたくないから。それにこのコート、防水仕様」
あ~、そうですか。いわゆるラッシュガードと言うやつの代わりになるのねそのコート。じゃなくて
「さっきから思ってたんすけど今、結構暑いッスよ?そのコート暑くないんスか?」
別にグレイシアの水着姿が見たいからじゃなくて、率直に暑そうな格好だよなと思って俺はこんな質問をしていた。
「そうでもない、昔から長袖しか着た事がないから。それに、暑いと思ったらこうすればいい」
グレイシアは自分の周囲を凍らせた。あ~~~涼し~~
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そんなこんなで、何故かみんなでビーチバレーをすることにした。提案者はシィズだ。因みにシィズの水着もエルメス同様のビキニスタイルだが、胸がない。ぺったんこだった。エルメスは割かし大きかったが、俺に記憶にあるのは痛みだけだった。
そしてこれまた何故かチーム分けをしたら、俺とエルメスがペアになった。相手はグレイシアと睡蓮だった。なんだか嫌な予感だする。睡蓮、大丈夫かなぁ。
「よし!じゃあ私が審判やるね!ネットはないけどこの引いてある線をネット代わりって事でいい?めんどくさいから先に五点入れたら勝ちでいいね。じゃあ試合開始ぃ!!」
攻撃は俺たちからだ。エルメスがサーブを打つ、エルメスの事だから絶対打つ方向はグレイシアに向けて打つはずだ。俺はそれを予見して、少しずれた。しかし...
「くらいやがれーーーー!!!」
『バッコーーーーーン!!!』
「あ...」
俺の脳に鋭い衝撃が来た。そして俺はあまりの衝撃で、その場に倒れた...なんで、こうなったし。
「ご...ゴメン!手が滑った!これはわざとじゃないから!グレイシア狙いで行ったらドジったの!ほんとゴメン!!」
あぁ、俺の予想は当たってたのに、俺はすっかり忘れてた。アレックスから聞いてたことを、エルメスはドジなところがあるんだった。それにしても、脳震盪起こすレベルのサーブって...ガクッ...俺は気を失った。
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「う...ん......」
俺は目を覚ました。目を開けたらそこにはパラソルが見える、そしてもっと、俺の目と鼻の先にエルメスの顔があった。え?何でエルメスの顔が目の前に...それに妙に頭が楽な感じが、まさか、コレって...
「膝枕ぁ!?」
俺は飛び起きようとしたが、エルメスに顔を押さえられた。というか額にタオルを置かれた。
「ほんとにさっきはゴメン。ちょっと憂さが溜まってて、今までもちょとグレイシアの事で八つ当たりしてたし...ほんとゴメン!」
えぇ!?俺が気絶してる間何があった!?なんでこんなにしおらしくなってんのぉ!?これほんとにエルメスか?
「いや、別に怒って無いッスよ!グレイシアさんとエルメスさんとの間に何があったかは分かんないッスけど、何となく俺に憂さ晴らししてるのかなぁ、とは今までも思ってたんスから!謝らないでいいッスよ。そんな顔しないで下さいッスよ!」
俺は取り合えず、取り繕って適当なことを言った。
「憂さ晴らしで当たってたの気付いてたの?」
「まぁ、何となくッスけど」
適当に答えてはいるが、まぁ、あながち俺も嘘は言ってない。エルメスは最初出会った時から、グレイシアに変な誤解をされて、なんか俺とエルメスの間はいつも変な空気になっていた。それがストレスに感じてたから俺に当たってたんだろうと俺は勝手に解釈していた。
「じゃ...じゃあ、私を許してくれるの?」
「許すも何も、最初っから怒って無いッスから。大丈夫ッスよ」
今度こそ俺は起き上がった。今はもう頭の痛みは無い。意外とピンピンしてるのに俺自身が驚いた。
「それにしても、なんで急にこんな事を?」
俺は、許す許さないの問題じゃなくて、なんでエルメスが俺の介抱をしてくれたのか気になった。
「いや~...実はあの後、グレイシアの奴に説教されて『悪いことをしたのなら謝りなさい』って。そんでもって『罪は償いなさい』って言われて、私なりの償いのつもりであんたを介抱してたんだ、サクラ。
はぁ、グレイシアの事、信用せざるを得なくなったな。あいつは敵じゃない。さっき説教されてつくづくそう感じたよ。二十五にもなって同い年の奴に説教されるとか、ほんと恥ずかしいわ~」
エルメスは大きくため息をついた。俺はあたりを見渡すと、みんな今度は海で泳いでいるのが見えた。零羅は浅瀬に座っているだけだが...
「俺はもう大丈夫ッスから、行きましょうか」
「サクラ、あんた見た目によらずタフで良かったよ。まぁあの一撃で気絶するのもどうかと思ったけど」
それはごもっともでございます。
「そうッスね、もうちょっと頑丈な体にしたいッス。じゃあ行くッスよ、エルメスさん」
「あ、それとサクラ、もう一つ言いたい事がある」
なんだろう?
「『さん』は要らない。私はエルメスでいいよ」
エルメスが俺に向けて少し笑いかけた。俺は一瞬ドキッとしてしまった。
なんだか、今度こそ本当に遊べそうだな。俺はようやく身が楽になった。