第2章 30話 最強の力を持つ者は、最恐の仲間 その1
朝になり、目が覚めた。俺は身支度を整える。そして昨日のセーターを取り出した。そういえば俺のばぁちゃんもよくこういうの編んでくれたな。手袋とか、靴下とか、それに編み方も少し似てる。俺は懐かしみながら、セーターをインナーの様に着た。今までの服が少し薄着だったみたいだな。ちょうどいい感じの暖かさだ。
俺は廊下に出て、玄関付近に向かった。既にみんな準備が出来ているみたいだ。アレックスもいる。
「よし!みんな揃ったね行くよ!」
シィズが先導して、車に向かった。
「どうかみんな気を付けてくれ。この先のリーダーは軍のトップクラスの実力者とかから構成されているはずだ。そして、元 国王として言っておく。みんな、死ぬな!このゲーム、裏がある気がする。だが、その裏を知るためにはまずこのゲームをクリアする事が最優先だろう。このゲームの先に何が待つのか、それは今は分からない!だが、これだけは分かる。レイ君を倒すことはこの世界を平和にする事に繋がるという事だ!すべては 平和の為に!」
アレックスは敬礼のポーズを取った。普段は物腰の柔らかいアレックスだったが、この時はまるで別人に感じた。流石は元国王だ。俺も敬礼をした。
さぁ出発だ。俺は車に乗り込もうとした。
「ま~ち~な~さ~い~!!」
遠くから声が聞こえた。この声、確かエルメスだな。
「うわっ!!」
【ゴン!!】
急に俺の頭に何かがクリーンヒットした。俺はあまりに急なことでなすすべなく声も上げることなく車の中に倒れこんだ。重い。
「あ~、大丈夫でござるか?」
麗沢が声をかけてきた。
「俺は問題なしだ」
俺は大丈夫だ、問題ない。
どうにかして動こうにも何かが上に乗っかって動けない。何が乗ってるんだ?くそ重たいな。
「ふぅ、せーのっ!うぉりぃや!」
俺は勢いをつけて起き上がった。
「んごっ!」
「あ...」
どうしてこうなったんだろうな~。今、勢いよく飛び起きたせいで乗っかってたのが後ろに飛んだのが悪かったのかなぁ。
俺が飛ばしたのは、エルメスだった。エルメスは、今のダブルパンチ、さすがに痛かったみたいだ。また、微妙に涙目になって俺をすんげー睨んでる。俺は考える。どうすればいいのかな?
「おまえ~...今のわざとだろ...」
怒りのこもった声。
「サクラ君...」
ふと、横から声が聞こえた。アレックスだ。
「逃げたほうがいい」
その言葉で、俺は状況を理解した。俺は、
全力で逃げた。
「あ!待ちやがれ~~~!」
逃げたが意味はなかった。すぐに掴まれ地面に倒された。
「コノヤロー!今の絶対わざとだ!あんた私に恨みでもあんのか!?それに私をどかすだけにどんだけ力んでんだ!重たいってか!?私は重たいってか!?」
いたたたたた!痛い!俺は心の中で叫んでいる。
「ちょ! ごめ てか 誰か 助けて!!」
俺は絶望した。他のみんなは車に荷物を積んでいた。だが、一人、意見を言う奴がいた。
「エルメス...楽しそう。私も混ぜて」
いや待て、グレイシア。お前は俺を助けないの?俺の絶望はピークだよ?
「たのしいなー」
結局、グレイシアも参加した。俺は二人のサンドバッグになった。グレイシアは俺を蹴りながらエルメスに質問した。
「で、何の用だったの?(ゲシ!)」
「私も連れて行けって事!(ゴス!)」
「そう、別に構わないよ(ガシ!)」
「じゃあ、よろしくね!(ゴン!)」
お前ら、昨日あんなにいがみ合ってたくせに...実は仲いいだろ。と言うか...
「人を蹴りながら会話すんなーーー!!」
いい加減頭来た。俺特に何もしてない!
「あぁそう、じゃ最後に一発」
そう言って二人同時に強烈な一撃を食らった。このドSコンビが...
「あの、サクラさん。大丈夫ですか?」
声をかけてくれたのは、零羅だ。あと心配そうにアレックスと睡蓮が俺を眺めていた。
「す...済まない。エルメスは、ああなると止められないんだ。元から少々ドジと言うかなんというかでね。それはそうと娘を頼む。エルメス、君達についていくといって聞かないんだ」
あ、そういう事ですか。
「いや...助けようと思ったんだが、下手に手を出せば俺が殺されそうでな。済まない」
睡蓮は俺に手を差し伸べてくれた。ありがとう、まぁ自分の身を守ろうとするのは人間の本能だ。責めはしない。
「あの...魔法で怪我が治るって聞いたんですけど...やってみます」
零羅は俺の体に手を当てた。零羅の手元が少し光り。見る見るうちに俺の怪我が治った。自分で治すより十倍くらい早い。零羅さん。あなたは天使ですか?
俺は再び車に乗り込んだ。
「じゃあ、改めてよろしくね!!」
エルメスは俺の耳元で大声で自己紹介した。絶対わざとだ。耳が痛い。
「準備はいい?行くよ!」
シィズは車を発進させた。
アレックスは手を振って俺たちを見送った。
ふと、見ると屋敷の中庭が見えた。そこからエリザベートがまた編み物をしていた。しかし、彼女は一旦手を止め俺の方を見た。そして、ゆっくりと俺に笑いかけた。なんだか元気がもらえた。さっきまでの事が忘れれそうだ。ありがとうございました。エリザベート様。