第2章 27話 終わりを告げる予言
俺たちは、アレックスに連れられ屋敷の中に入り、応接室のような場所に案内された。エルメスと呼ばれた女性は、薙刀をしまいにどこかに行った。
「では、改めまして、私は、アレックス アダムス。この国の前 国王で、今はこの北ウィート地区の地区長をしている。よろしくね。で、君がサカガミ サクラ君で、その隣にいるのがレイサワ ダン君で、この少女が、カミワズミ レイラちゃんだね」
「はぁ...よろしくッス...」「どうも...でござる」「よろしくお願い致します」
俺は、アレックスが予想以上にフレンドリーで、敵意のかけも向けられていないこの状況に困惑していた。
「君たちが聞きたいことは分かる、なんでリーダーをやっているのか、だよね?」どうやら、俺たちの疑問にさっそく答えてくれるらしい。
俺は頷いた。
「私はずっとレイ君の指示でここに暮らしていたんだ。特に何もない、トウモロコシぐらいしか特産物はないこの地区に、だけど二週間前、急に彼がここに来てね、『あと数日のうちに、僕と同じ者達がこの世界に来るはずだ。僕はそいつら相手にゲームを仕掛けたいと思う。だから君に、この地区のリーダーの役目を任せたい。やることは、彼らがこの地区に来るのを見届けるだけでいい。ここで休ませて、送り出せ』って言ったんだ。最初は私も意味が分からなかったが、君たちが現れたと聞いて理解したんだ。私は、君たちを助ける役割の存在なんだってね。何で、君たちが来ることをレイ君は予見していたのか分からないけど、とりあえず、私は君たちの味方だよ」
俺はラッキーだと思った。思いのほか順調に旅が進んでいることに、すでに四つの地区を解放している、ここで五ヶ所目だ。
「味方って、王は、あなたが裏切ると知っていてリーダーの役目をさせたんですか?」
サムが驚き、王に詰め寄っている。
「裏切るも何も、最初からレイ君の指示で君たちの味方をするように言われてるんだ。いや、最初から私はレイ君を裏切っていたのかもしれない。二十年前から...ずっと...」
アレックスが急に重い表情になった。
「ん?どうかしたんスか?」
俺は、どうしてこんな顔をしているのか理解できなかった。
「そうだ、君たちに話しておかないといけない事がある。サム君も聞いてくれ」
アレックスは、神妙な顔をして話し始めた。
「二十年前のレイ君が予言を元に世界を解放したのは知っているよね」
「はいッス、そのことはある程度...」
「まず、その予言についてから話そう。少々長い昔話になるが、君たちには知っておいてほしい。聞いてくれ」
「今から約二十年前。レイ君が現れる一週間ほど前に、ボーダー地区にある図書館で奇妙なものが発見されたんだ。『異世界 ニホン より ゼロ 現る それは 「バケモノ」で 世界を 亡くすもの 後 異世界 ニホン より レイ 現る それは あらゆる魔法で 世界を 救う 勇者 そして 全てを始める者』と書かれた、謎の紙。私は、それの意味するものを探した。当時としては、全く理解できない文章だったからね。そして私は友人と調べまくった。そしてその友人が突き止めたんだ。この紙は、あぶることで文字が浮き出るようになっていてね。そこに新たに文字が書き足されたんだ。『終わりを』ってね。
最初は、当時世界中で恐れられていたゼロをレイと言う者が倒す。というという文章に感じていたんだが、本当の意味合いは違った。レイがゼロを討ち滅ぼし、この世界を終わりに導くという解釈に至ったんだ。だけどこの解釈に至った時にはすでに、この予言が世に出回ってしまっていたんだ。だから私は、その最後の文字は世に出さなかった。あまり世間を騒ぎ立てたくなかったからね。
そして一週間後、予言が現実になった。レイ君がこの世界に現れたんだ、私は焦った。私はその友人に早急に手を打つように言った。だけど、その友人は現れたレイ君により、逆に追い込まれた。私は彼を匿った。その後、レイ君に初めて出会ったんだ。私は、彼を見て驚いたよ。世界を滅ぼすとは程遠い、澄んだ目で私を見ていた、その目はまるで心の底から平和を望んでいるかのように純粋で、きれいな目をしていた。
そしてその後、ゼロが行動を開始した。ゼロは中央地区にバケモノを使い攻撃しかけてきた。だけど、それを阻止したのはレイ君とグレイシアちゃんだったんだ。後、ビーン君もか...
私は、理解できなくなった。レイ君はただ、平和に暮らしたいが為に戦っていた。とても世界を終わらせる存在だとは思えなかった。その後、レイ君は見事にゼロを討ちとった。それからレイ君は、この世界の平和の為に色々やってくれた。レイ君のおかげでこの国はここまで成長し、手付かずだったエイド地方も徐々に開拓されていった。そう、世界は平和になったんだ」
俺は、ざっと三上が今まで何をしてきたのか理解した。まさに英雄だ。だからこそ、なんで今の事態になったのか理解できなかった。
「これがレイ君の今までだ。ところで君たちは、今のレイ君にあったんだよね。どう感じた?」
俺は、急に話が変わったので慌てた。どう感じたか?う~んむ...
「激しい、怒り...」
俺が悩んでいたら、零羅がボソッと答えた。
「そう、二年前、彼がこの世界を征服した時から彼はああなった。まるで、世界そのものを憎んでいるかのような、異常ともいえる憎悪を私は感じた。彼はその日、図書館で妙な本を借りたらしい。その後、グレイシアちゃんと婚約し、この国を乗っ取った。私はその本に何か原因があるのではないかと踏んでその本を探した。だけど、見つからないんだ。貸出記録を確かめても、タイトルが『この異世界より真実を込めて』と言う恋愛小説と言う事しか分からないんだ」
俺は、ふと疑問に思った。そして質問した。
「本のタイトルが分かってるのなら、別の書店とかにないんスか?」
俺の質問は無意味だと知った。アレックスはこう言っていたのを忘れていた。見つからないと。
「うん、私も同じことをしたんだ。だけど、そんな本はこの世界のどこにもなかったんだ。作者も不明、この本に何かが隠されていたのは間違いないんだと思う。そしてこの前彼は『目的の為なら、世界を終わらせることも厭わない』と、そう言った。今、予言が現実になろうとしているんだ」
俺は、ある仮定に行き付いた。その本には実は、何故俺たちがこの世界に来たしまったのか書かれていたのではないか?と。だけど、それを誰にも言わなかった。そして俺はこうも考えた。その本は見つけるべきではないのかもしれないと。もし、真実を知ってしまったら、俺はあいつのようになるのではないかと思ってしまった。俺達人間ってのは、真実を知りたがる生き物だ。だけど、真実を知りすぎて身を滅ぼす事もある。俺は、心のどこかで真実を知ってはいけないと叫んでいるのを感じた。だからこそ思う。もし、俺たちが真実にたどり着いたとしたら、世界が終わる。