第2章 26話 平和を守る、かつての支配者
次の目的地の道中で、俺は睡蓮と話をしていた。どこの出身だとか、ここに来る前は何をしていたのかとか、他愛もない事だ。睡蓮は普通に受け答えてくれた。割と気さくな人だった。この旅、少しは明るくなりそうだ。
「そういえばサムさん。次の目的地のリーダーは、前の国王さんなんですよね。場所は分かっているんですか?」睡蓮はサムに聞いている。
「あぁ、北ウィート地区にある、あの方の別荘だ。私も何故あの方がミカミ国王に従っているのか見当もつかないが...とりあえず行ってみればわかるだろう」
「どれくらいかかるんですか?」
「ん~、そうだな、明日の夕暮れには着くと思うよ」
「あ、あした!?」
俺が真っ先に反応してしまった。そういえばこの国ってどれくらい広いんだ?
「ん?あぁ、ここからだだとそのくらいだ。この国の最南端の南オーシャナまではかなり余裕を持たせても五日はかかる」
日本しか知らない俺にとっては途方もない数字だった。三週間というのは結構ギリギリじゃないか。焦る。
その後、休憩を取りながらサムとシィズがそれぞれ運転を交代し、ひたすら走り続けた。俺も運転を変わろうと思ったが。この車、マニュアル車だった。俺はオートマの免許しか持っていない。一度、グレイシアが運転を変わったが、彼女の運転はシィズよりも荒々しく、かなり猛スピードで飛ばし、かなり恐ろしかったので、結局、この二人で運転をしていた。
日が暮れてきたので、道中あったコンビニで食料を調達した。明日の昼ご飯分まで買っておいた。そして夜通し走り、朝になり、昼になった。ゲーム開始から五日目、ようやく次の目的地に着いた。
「ふんあ~~~~~...」
俺は思いっきり伸びをした。さてと、目の前にやたら大きいお屋敷がある。どうやらここが前の国王、アレックス アダムスの別荘らしい。どうやって行くべきか...向こうは敵、正々堂々と入るわけにもいかな...
『キンコーン キンコーン キンコーン...キンコーン』
グレイシアが、玄関のベルを押した。全員固まった。俺は全力でグレイシアを引っ張り逃げた。
「なぁにしてるんスか!向こうは敵!俺たちはあっちを倒しに来てるんスよ!?」
俺は、グレイシアにツッコむ。しかし、通じない。
「だから押した。何がいけない?」だめだこの人。
「いや、敵の家に『倒しに来ました~』なんて言いにくる奴がどこにいるんスか!?」
「ここにいるね」
「だぁ~!!」
この人、天然過ぎる。三上国王...こんな人が嫁だったとは、ある意味尊敬するな。してる場合か!!
他のみんなはグレイシアの珍行動のせいで物陰に隠れていた。俺とグレイシアは、近くの草むらで言い合ってた。そうしていた時だ。
「み~つ~け~た~!!」
誰かが、そう呼びながらこっちに走ってくるのが分かった。俺はふとその声の方を見た。一人の女性が薙刀をもって全速力でこっちに向かってきた。そして、その女性は薙刀をおおきく振りかぶって、グレイシアに向かって振り下ろした。グレイシアは氷で剣を作り、それを受け止めていた。この間、大体一秒ほどだった。
「久しぶり、元気にしてた?グレイシアァ...」
その女性は、グレイシアと大体同じ位の年齢の女性だった。顔立ちはきれいなのに、ものすごい形相でグレイシアに敵意を向けている。正直に言おう、今俺はこの人にビビってる。
「二年ぶりだっけ。ほんとに久しぶり、元気そうでよかった」
グレイシアは、そんな敵意に目もくれず、只懐かしそうに、その女性を見ていた。
「そうそう二年ぶり。あんたも綺麗なまんまで...って違う!!二年前はよくも~!」
ノリツッコミの要領で、その女性はグレイシアに切りかかった。だがグレイシアは何食わぬ顔で、避け続けた。
「何かしたっけ」
グレイシアは何も知らないと言った顔だ。何をどうしたらこんな憎まれるんだ?というか忘れてるのか?
「忘れたとは言わせないよ。あんたの夫に、ひどい目にあわされたんだから!!あんたも一緒になってお父様を...ってそれ忘れたのぉ!?」
なんだかテンションの高い人だなぁ。俺は、なんか大丈夫そうなので見てた。この人の攻撃に恨みはあっても殺意がそれほど感じない。ランディみたいに本気で殺そうとはしていないのを俺は感じた。
「国乗っ取ったのは覚えてるね」
「覚えてるのなら話は早い。今こそあの日の恨みをぉぉぉ...」
殺意とかはなくても、怖い。下手に仲裁に入ろうものなら、逆に俺が死ぬ。だが仲裁に入った勇敢な人がいた。
「エルメス!やめるんだ!」
止めに入ったのは、一人の老人だった。だが老人と言っても、足腰はしっかりしているし、背筋も伸びている。
「お父様...でも!」
「彼女は敵じゃない!お前も分かってるだろ」
その老人の言葉で、エルメスと呼ばれた女性は薙刀を下した。
「グレイシアちゃん、私の娘が無礼をかけた、済まない」
その老人はグレイシアに謝罪をした。
「謝らないでいい、です。だけど久しぶりですね、アレックスさん」
「あぁ久しぶりだね。あ、言い忘れてた。君がサクラ君だね。話は聞いているよ、私がアレックス アダムスだ。この北ウィート地区のリーダーをしている。以後よろしく」
俺が出会ったこの地区のリーダーは、俺の予想をはるかに超えた、やさしさにあふれた男の笑顔だった。