第2章 25話 全滅した村の四人目
朝になり、俺たちは身支度をし、モーテルを出た。車で走っているとジョシュからまた連絡が入った。
『あー朝早くにすいません。昨日もう一つ、南ウィート地区の情報もつかんだんです。レオナルド アキレア、厄介な奴です。バク市にいるらしいですね。あのゲス』
何やら話を聞いていると、このレオナルドとか言う人物、王国軍内どころか国中でも、かなり卑怯で有名な奴らしい。女子供を盾にしたりとか、とにかく勝つ為に手段を選ばない奴らしい。王もこの性格に頭を悩ませていたと、グレイシアが教えてくれた。
「もうすぐ着くな。ん?」
サムが身を乗り出して外を見ていたのでなんだ?と思い俺も外を見た。
「なんか、すごい煙りッスね向こうのほう」
田園が無限に続く風景の奥に、真っ黒な煙が大量に出ているのが見えた。
「あそこのあたりに確かタナエ村があったはずだが...」
俺たちはそこに向かった。そして到着した。
タナエ村、確かにここにそう書いてある。しかし、あるのは焼け焦げた家、草。人影が見えない。まだ少し燻ぶっている場所がある。
「これって、どういう事ッスか?エミリアンの仕業って事ッスか?」
俺は、そうは言ったがとてもそうは思えなかった。ここの近くにランディから感じたような殺気は全く感じない。何もない。
「こんなことは、考えたくないんだが、誰かがこの町を襲った。それは、もしかしたら私たちの為に...各地区を解放することで、次の情報が得られるというのなら、ここにエミリアンがいるという情報を聞きつけて、誰かが先に攻撃をした。それに、さっき、南ウィート地区の情報が入ったという事は、もしかしたら...」
サムの予想が一番ありえそうだと思った。誰も死にたくはない。だったら自分にできる戦いをする。そう考える人たちがいてもいいはずだ。そういった思想が過激化して、この事態を招いている。
「でもなんで、ここまでするんスかね。ここには普通に生活してた人もいたんスよね」
俺は、あちこち探しまわった。
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「あ!すいません!ここに人がいます!」
零羅の呼ぶ声に俺は走った。そこに一人の男が倒れていた。まだ若い、俺よりも若いくらいだ、その男の腹にナイフが突き刺さっていた。
「う゛...」まだ意識はあるみたいだ。
「大丈夫ッスか!?何があったんスか!?」俺は、その男に尋ねた。
「分からない...俺はここがどこかも分かっていないんだ。俺は、あてもなく彷徨っていたら、ここにたどり着いた。そこで俺はここの村長に世話になっていた。だけど、昨日何者かにここが襲われた。俺は戦ったさ。だけど俺以外、全員やられた。死体はすぐそこの山に捨てられている。済まないが、俺をこのままにしてくれ。誰も守れなかった俺が生きてる資格なんてない。このままあいつらの元に...」
「ダメよ!」シィズが救急箱をを持って走ってきた。
「誰も救えなかったんじゃない。あなたは救われているのよ。あなたは生きている。命を粗末にしないで!このナイフ、急所は外れている。抜くからね、男なら、気絶しないでよ!」
シィズは問答無用でナイフを引き抜いた。男の腹から血があふれ出す。グレイシアは気を利かせて零羅を遠くに連れて行っていた。シィズは早急に止血した。
「あなた、名前は?」
シィズがそう聞いた。そして男は答えた。
「天上...天上 睡蓮...だ」
俺は、こんなところで四人目を見つけてしまった。
「アマガミ?まさか、お前の出身は、ニホンか?」サムが尋ねた。
「ん?そうだが...それがどうかしたのか...?」
どうやらこの睡蓮という男、ここがどこなのかまだ何もわかっていないらしい。
「もし、あなたが二ホンから来た人なのなら...もしかして」
シィズは、傷口から布をどけた。
「やっぱり」
俺も、まさかとは思っていた。だが、やはり予想が当たった。彼の傷は、すでに治りかけていた。この様子に睡蓮も驚いていた。
「なっ...!どうなっているんだ?これは、痛みが無くなっていく。これが村長の言っていた魔法?これは、あなたが?」
「いえ...今のはあなた自身が治したのよ」
睡蓮は全身を確かめている。やはり驚きが隠せないでいる様だ。
「一体全体どうなっているんだ?君たちは誰だ?昨日襲った奴らではないみたいだけど...」
俺たちは、知っている事情を話した。俺たちの事、ここが別の世界であること、今は王のゲームの最中で、リーダーを倒すために旅をしている事、全てだ。
「んで、次の目的地がここだったんで、来てみたらこうだったんスよ。一体ここで何があったんスか?」
「そうか、そういう事だったのか...どうりで見たことのない景色しかないわけだ。察しの通りだが、ここは昨日襲われたんだ。俺は盗賊の類と思っていたんだが、奴ら、『リーダーはどこだ!』と叫んでいたが、そういう事か、そのゲームでのこの地区にいるリーダーがここにいた。だからここは襲われたのか...なぁ、そのリーダーってエミリアンとか言う奴だったか?」
睡蓮は俺たちにそう聞いた。
「そうだ、エミリアン ムゥ、知っているのか?」質問にはサムが答えた。
「そう、そいつだ。あいつが俺を助けてくれたんだ。腹にナイフは刺さったが、あいつは俺をかばって死んだ」
睡蓮のこの言葉で、あの朝の連絡の意味がようやく理解できた。俺たちの予想通り、昨日何者かがここを襲撃し、リーダーごと皆殺しにした。だが、この睡蓮だけは生き残ることができた。
「なぁ、俺、思うんだ。こうなったのって、直接じゃなくともその三上ってやつの仕業なんだろ?だから俺、決めた。俺を一緒に連れて行ってくれないか?村長の敵、エミリアンの敵を討つ為に、君たちの旅に協力したいんだ」
俺たちに、新しく仲間が出来た。
「こっちとしてもお願いしたいわ。四人目、ミカミ国王も予想しなかった存在。よろしくね睡蓮くん」
「くんだなんて...俺、三十六歳ですよ?」
俺たちは、しばらく目が点になった。どう見ても二十歳が良いとこだろ。三十六?嘘だろ。
何はともあれ、俺たちはここに用が無くなってしまった。俺たちは睡蓮の言っていた死体を埋葬した山に向かった。木で作られた十字架が沢山並んでいた。その中に完全に壊れたあの発信機も見えた。やはり、リーダーのエミリアンはここで死んだみたいだ。
「これは、あなたが?」零羅が睡蓮に聞いている。
「あぁ、せめて埋めてあげようと思ってな。襲ってきた奴らも、ここに...」
零羅は困ったような表情のまま、まっすぐ前を見て、頭を下げた。何か思う事があったのか、ずっと頭を下げ続けていた。何かに謝るように、ずっと。俺も頭を下げた。下げずにはいられなかった。
俺たちは車に乗り込み、出発した。睡蓮も一緒に...