第2章 23話 置き去りの狙撃手 その3
俺は、何故こいつが俺たちに敵対しているのか、少しだけ見えた気がした。
「あの方が、全ての上に立っているからだ。あの方がやる事には、全てに意味があるからだ。あの方がこの世界を壊すつもりなら、僕は喜んでそれに従う。お前たちも無駄なあがきなんかするなよ。下の者が上に従うのは生物としての常識だろ?だから...」
「違うッスね」
俺は、横槍を入れた。こいつは、そんな大層な理由で戦ってる訳じゃない。もっと単純な人間だからこその理由で今まで戦ってきたはずだ。
「お前は只、自分を見てくれる人がほしいだけッス。生物の常識?笑わせんな。そんな強くないだろ。俺もお前も。お前は只、自分のいる場所が見つけられなくて、置き去りにされてるだけッス」
俺が話したら、俺を睨んできた。だが、俺を攻撃しようとはしてこなかった。
「違う!僕は置き去りになんてされてない!他の奴らが僕に追いついていないだけだ!誰も、僕の実力に勝てないと言って奴らは、僕から逃げたんだ!誰も僕に勝てないから、みんな僕の前から消えたんだ」
「違うのはお前だ。そうだよ。みんな俺たちの前から消えるんス。でも、それは誰のせいだ?俺たちがそこに立ち止まったから、みんな消えたんじゃないのか?俺たちは、道を間違えただけだ。だから行き止まりにたどり着いてしまった。俺、何となくお前の気持ちわからなくもないんス。自分が他より優れているのに、誰も見てはくれない。そう感じてるんスよね?」
俺が問うと、ランディは目を見開いて俺を見た。
「お前に比べたら屁でもない事だし、普通自慢話かって言われるんスけどね。でも、俺は真剣に苦しんでたんス。俺、昔っからハーフって理由だけで結構、周りにちやほやされたりしてたんス。でも、いつの間にかそれが妬みに変わっていったんス。そこで俺は思ったんスよ。なんでみんな俺の事を見てくれないのかって、なんでみんな俺の表面しか見てくれないんだろうって。そして俺は、友達なんかいらないと考えるようになったんス。結局俺の外見しか見ない奴らしかいない。女の子に告白されても、結局外見だけ。だから俺にはずっと友達と呼べる奴がいなかったんス。小学校も中学も高校もずっと、繰り返すような人生を送ってきたんス。だけど、高校三年生になったとき、俺は今までのすべてを変える奴に出会ったんス。あいつは、表面なんて見ない。中身を確かめてからしか、表紙絵を見ないような奴だ。麗沢。あいつは初対面のやつ相手に、いきなり『友達いないのでござるな』と言って、いきなり俺の心を踏みにじってきた。そしたらその後『この本を薦めるでござる。読むのが苦手ならあらすじ語るでござるよ?』とか言って、勝手にその本のあらすじを語りだしたんス。俺は思わず話を最後まで聞いちまった。ありきたりな、ミステリー小説のあらすじをな。俺はなんでこんなにもこいつの話に入り込んだんだろうと思ったんス。そしてようやく理解できた。俺は、ようやく見つけれたんス。俺の中身を見てくれる奴に、俺は幸運だった。あいつに会えなかったら、俺はお前みたいに、全て誰かのせいにして一人で生きる道を選んでいたかもしれないッス。これはちょっと上から目線な言い方になるけど、逃げるな。お前は先になんて行ってない。別の場所に、置いてけぼりになっていただけだ」
俺は話し終えた。こんな話、麗沢に聞かれたら恥ずかしいな。ランディはじっと俺の話を聞いてくれた。
「あぁ、確かにそうかもしれない。僕は、確かに置いて行かれた哀れな奴かもしれない。だけど、それがどうしてってんだ。何故、僕が陛下に忠誠を誓ったか分かるか?本当の理由は、お前たちが疎ましいからだ。陛下は言っていた。『人間は下を見る生き物だ。下を作らなければ意味を見いだせない愚かな奴ら』だと。僕はその言葉に心を撃たれた。僕はこの能力、人々の平和の為に使おうとしていた。だから警察を目指したんだ。だけど、警察になって初めて気づいた。周りの連中は只、給料がいいからとか、拳銃を扱えれるとか、そんな理由で警察になってる奴らばかりだった。みんな、自分の事しか考えたないんだ。そんなことしか考えてないくせに、成績は一番を取りたがる。僕が射撃の訓練でいい成績を収めていたとしても、そのことを良しとしない連中がいた。僕の評価は捻じ曲げられたのさ。そんな連中が生きる、支配するこの世は必要か?だから僕は警察を辞め、陛下に忠誠を尽くすことにしたんだ。僕は、道を間違えたんじゃない。あえて道を踏み外したのさ。僕は置き去りにされたわけじゃない。ここが僕の居場所なんだ。陛下はこの場所に意味を与えてくれた。僕は、この世界の為に、世界を壊す。それが、僕が生きる理由。忠を尽くす理由だ!」
『バギッ!』
俺は、全力でランディを殴った。いい加減頭に来た。
「それが逃げてるって言ってるんス!お前は、いつまで他人のせいにして生きていくつもりッスか?人間ってのは、下を見ればどこへでも下を見ることは出来るんス。お前は下ばかり見てきただけだ。考えてみろ!お前はなんで警察になった?平和の為って言ってたじゃないっスか。お前にとっての平和ってのは何なんスか!?それはこの世界の破滅なんスか!」
俺は叫んだ。こいつの言っていることは間違いじゃない。確かにそう感じる。でも、人間がずる賢いのは今に始まったことじゃないだろう。だけど俺たちの見るべきは、人間の醜さじゃない。その中にある純粋さ、美しさだろ。真に見るべきは下じゃない。それよりもはるかに大きく見えないほどにある上だろ。俺はそう考えていた。そして、ふと王の顔が俺の脳内を横切った。ランディは思いつめた顔をしていた。
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「俺にとっての平和...笑顔、だ...僕はみんなの笑顔を守りたかった。だから僕は警察になって守ろうとした。じっちゃんの笑顔。かぁちゃんの笑顔を...僕にとっての平和はそれだ...」
「俺はお前を知らない。だけど、お前は俺の目の前で悩んでる。苦しんでる。それを助けたい思うのは、俺がおかしいんスか?いくらお前が普通より優れたやつだとしても、俺たちは人間ッス。悩み苦しむ。お前はそれを受け止めてくれる奴がいなかっただけじゃないスか。いや、見つけようと思えばいつでも見つけられたんス。だから...」
俺は話し続けようとした。しかし
「もういい!」ランディは叫んだ。
「もういいんだ。お前は僕を超えた。いや、みんな僕を最初から超えていたんだな。そして考えてた。見ていないのは僕の方だ。僕こそ、表面しか見ていなかったんだ。僕は認めたくなかっただけだ。今までの僕を否定されるのが、否定されたがってたくせにな。僕の負けだ。僕にそう気づかせてくれた、君の勝ちだ」
ランディは遂に敗北を認めた。
「発信機はここだ。これを壊せば君たちの勝ちだ...」
ランディは、どこかからかあの発信機を取り出した。
「ランディ!」
どこかからかランディを呼ぶ声がした、俺は振り返った。サムだ。シィズも麗沢もいる。サムは足を引きずっている。
「麗沢、怪我はどうした?」俺は、麗沢がピンピンしてたので、聞いてみた。
「お?拙者も驚いたでござるが、なんか治ったでござる。この通り」
麗沢は、腕をブンブン振っている。
「私も驚いたんだけど、治療しようとしたら、その時すでに彼の傷口はもう塞がってたの。ご丁寧に銃弾が抜けてね。ミカミ国王もそうだけど、あなたたちはどうにも、異常なほどの回復力があるみたい」
俺は、安心したというか、驚きのほうが強かった。でも、納得できた。俺にも似たような事が起きたからだ。この世界に来た時、俺は血まみれだった。なのにしばらくしたら、完全に治っていた。血まみれの服も気付いたらそのうち血痕すらなくなっていたからだ。
「途中から話は聞いてた。ランディ、君の悩み、気づいてあげることが出来なくて本当に済まない。許してくれとは言わないが、みんなの為に、また力を貸してくれないか?物事は成績なんかで判断できないことが沢山ある。私には、いや、この世界に君は必要なんだ」
「サム先輩...僕は警察に戻る気はもうないですよ。僕は、アダムス連合王国軍、狙撃手ランディ ブーゲンベリアとしてこれからも生きていくつもりです。だけど、今度は陛下の為じゃない、みんなの為に戦います」
ランディはそう言うと、背負っていたライフルを手に持ち、スコープ、消音機を外した。そして、手に持っていた、発信機を空高く投げ飛ばした。
『ズバガーン!』
空に向かって一発の銃弾が放たれた。その銃弾は発信機を見事に捉え、貫き破壊した。俺はこんな時に思うべきではないことを口にしてしまった。
「え?弾薬、残ってたんスか?それの装弾数って六発じゃ...」
「え?あ、あぁ、その通りだ。いや、僕も今思い出したんだ。最初の先輩を狙った一発のあと、新たに装填していたことをね。だから、このライフルの中にはあと一発だけ残ってたんだ。やっぱり僕もまだまだだ。銃弾をコントロールできても残弾数を忘れるような奴だ。まだ、へなちょこだな...これで、ここでの戦闘は終了だ。君達の開放するべき地区は、残り十三地区だ。頑張れよ」
そう言うとランディは立ち上がった。少しよろめいたが大丈夫そうだ。
「先輩、この度は本当に、すいませんでした!」ランディは謝った。全力で謝った。
「いや、謝らなくていい。それにお前は手加減してくれたじゃないか。もし君が本気だったら、足じゃなくて私の脳天を撃ちぬかれていたさ。君の実力はあんなものじゃない、かつて一緒に組んだものとして、見抜けないとでも思ったか?君は百発百中、全て急所に当てれる使い手だ。君は心のどこかで手加減してしまったんだ」
サムの言葉に、ランディは目を丸くしていた。
「見てくれている人は、意外と近くにいるもんスよ」
俺は、呟くように言って、立ち上がった。
「見る?何を」
「あ、そこは聞いてなかったんスね。いや、こっちの話ッス」
「そうか」そうしたら、サムのトランシーバに連絡が入った。
『あ、サムさん?ジョシュです。情報を掴んだんですよ。今度は二つもです。ライス地区、タナエ村。エミリアン ムゥ、素手で戦うやつらしいですね。それでもう一つが北ウィート地区で...え?馬鹿な』
ジョシュはそのまま黙ってしまった。
「どうしたんだ?何かあったのか?」サムが、聞き返しているが返事がない。
『アレックス アダムス...』
ボソッと言われたその言葉で、ここにいた全員が氷ついた。俺もその名前を知っている。この国の前の王、三上にすべて奪われた人物。
「な...何かの間違いじゃないのか!?何故あの方が、王の味方に!?」サムの表情は強張っている。
「ランディ!お前はこの事、知っていたのか?」
「いや、僕も他の地区のリーダーについては何も聞いていないんです。まさか、あの方が陛下に付くなんて...」
ランディもこの事は知らされていないらしい。驚いた表情をしている。
「これがどういう事か、分からないけど、とりあえず行けば何か分かるんじゃない?事実はそこにあるんだから」シィズがここはまとめてくれた。
「そ...そうだな、まずここから近いのはライス地区の方だ。まず、そこの攻略からしよう」
俺たちの目的地は決まった。