第2章 20話 休息は、花見と花火と騒ぎとヒント
西ボーダー地区、貨物ターミナルのある町。俺たちは、ここで行われる祭りを見て回っている。というか、ほぼ観光している。案内はシィズがしている。
「あれがビーン・ムゥの銅像ね」
シィズが指さした方向に、三メートルほどの、西洋甲冑を着た男の銅像がある。この人を祭るのが、今日の祭りらしい。
「死人を祭るのに、ずいぶんと賑やかッスね。もしかしてこの国では、葬式は派手に!みたいな風習があるんスか?」
俺は、さっきから疑問だったので質問した。
「あぁそれ、最初はレイがこの祭りを提案したのは聞いたっけ?」答えたのはグレイシアだ。
「はい、そのことは一応...」
「初めは、世界を解放した彼への鎮魂の願いを込めての祭りをするはずだったんだけど、アレックス前国王が、『ビーンは前に「もし俺が死んだら、華やかで賑やかな葬式にしてくれ」と言っていた』とか言って、レイと一緒に企画を進めて行ったらどんちゃん騒ぎの祭りになっていった。あの銅像もアレックスの案。流石にレイもちょっと引いてた」
グレイシアは、この祭りの経緯を簡単にまとめた。
「そういえば、グレイシアさん。あなたはかつてビーンさんと一緒にこの世界の開放作戦に向かったのよね。彼ってどんな人物だったの?私はまだ幼くて物心ついた時には彼は既に英雄と言われていたから、結局どんな人か分からないのよね。サムもすごい人としか言わないし」
今度はシィズがグレイシアに質問している。
「一言で言うならちゃらんぽらん。あの人は、基本抜けてておっちょこちょい。少しレイに似てるのかな?だけど、戦いになると目の色変えて戦う人だった」
「へ~、そうなんだ。そういえばサムも抜けてる人とか言ってたな~。ありがとう」
どうやら、シィズは納得したみたいだ。
俺も話を聞きながら、町を見て回っている。
「なぁ!」
急に後ろから声をかけられた。振り返るとそこには、居酒屋のマスターみたいな店主がいた。俺を撃とうとした人だ。
「あんたに言いたい事があんだ」店主は、どうやら俺に用があるらしい。
「まず、あんたに謝りに来た。さっきは本当に済まなかった!いきなり銃ぶっぱなしちまって!」
店主は、いきなり俺に頭を下げた。
「え...!そんな!謝ることないッスよ」
俺は、いきなりでびっくりした。
「俺は、俺が憎い。人間ってのは何かを守るために生きてんだ。俺は、それを失うのが怖かったんだ。だから、どんな手を使ってでも守りたいと思った。だから、人の道からそれるような事をしちまった。だけど、あんたの言葉で目が覚めた。人間の正義が、支配による恐怖なんかに負ける訳がないんだ!ってな。だけど、人間ってのは色んな奴がいる。つまり、これから旅をして行き付く奴らは決して、あんたの味方にはならないかもしれないっていう事だ。俺は、それをあんたに言いたかった。俺が言えるのはそれだけだ。頼む。勝てよ」
「分かってるッス。勝ってやるッス!」俺は、再び意気込んだ。
「感謝する、お詫びの品ってほどの物じゃないが、人数分持ってきたんだ。よかったら飲んでくれ」
店主は、人数分のコーラを取り出した。真っ先に麗沢が、反応した。
「そ...それは、コーラでござるか!ずっと探してたのに見つからなかったから、てっきりこの世界には無いのだと思ってたでござる。でも、この様子だとまだ貴重な物なのでは?」
麗沢は、テンション上がりっぱなしだ。そんなにコーラが好きなのか。
「確かに、今はまだ貴重だ。だから君たちにあげるんだ。この世界に乾杯ってな。あ!それからもう一つ」店主は、ごそごそと何かを取り出した。そしてそれを俺に手渡した。ずっしりと重い。これは、さっき俺に向けて撃たれた、リボルバー拳銃だ。
「聞いた話、インダストリベルト地区には、ランディってのがいてそいつがリーダーらしい。あいつは遠距離の武器を使うらしいから、こっちは至近距離で行こうって話だ。至近距離まで詰めれれば勝てるはずだ。だけど、どうやって詰めたもんかねぇ」店主は悩んでいる。
「まぁ、なる様にするッス。俺、考えるの嫌いッスから」俺は銃を受け取った。
「なんだかあんた、全く根拠無い自信はどこから来るんだ?だけど、あんたになら任せれる気がするのは気のせいじゃないみたいだ。信じるぞ。じゃあな」
店主は、歩いてどこかへ消えた。俺は銃をしまった。
「何か分かるかもって、コレの事じゃないよな...」
俺はボソッと呟いたが、誰も聞いてはいないみたいだ。俺たちは、みんなでコーラを飲んだ。零羅は、炭酸飲料を飲んだことが無いらしくすごい表情をしていた。麗沢は息継ぎせず一気に飲み干した。彼曰く『貴重なものほど、取っておくのはもったいない』との事らしい。俺も飲んだ。コーラは嫌いじゃないが好きでもなかったけど、なんかいつもよりおいしい気がした...「げぷ...」
夕方、俺たちは祭りの本番が始まるというので、広場に向かった。変装はもうしていない。そのせいか、ちょくちょく視線が気になる。だが、視線の原因が俺達じゃない事を知ったのは直後の出来事だった。
「あ!あの!」何やら、中学生ぐらいの少年が三人ほどこっちに走ってきた。
「グレイシア ダスト アダムス様ですよね!」
一人が尋ねた。グレイシアになんで用が...あ、そうかこの人、元だけど王の妻、ファーストレディーってやつなのか?...この世界じゃ、めちゃ有名人じゃん...なんか緊張してきた。
「そうだけど、様はいらな...」
少年たちは話を半分ほど聞いて、テンションマックスだ。グレイシアの話はほとんど聞いていないっぽい。
「あ、あの!いきなりですみませんがサイン下さい!」
今気づいた。グレイシアは今まで、国民からどう思われていたのか、どうやら三上と違って、人気らしい。グレイシアがちょっと困惑している。
「え...と...どうするの?」
何故か、俺に『どうしたらいいか分からないから、何とかして』みたいな表情を向けられた。俺も分からないよ。
「え~、サインすればいいんじゃないっスか?」
俺は適当に答えた。どうやら納得したらしい。サインに答えだした。というかなんでみんな助けてくれないんだ。少年たちは喜んでくれている。
「グレイシア様!俺を踏んでください!」
何かとんでもない事を言い出す少年もいた。
「......」
グレイシアは止まっている。そりゃそうだ。いきなり道端で踏んでくださいなんて言われて動揺しないわけが...
『ゲシ!』
「こうでいいの?」
「できれば、もっと蔑んだ感じで!」
「こんな感じ?」
「そうです!」
いつの間にか、少年が地面にうつ伏せになってグレイシアが少年の背中を踏みつけている。
「ちょ!何やってんスか!?」俺は思わず叫んだ。
「喜んでるみたいだからいいかな?と思って、昔から人が喜ぶ事は率先してやれって言われて...何か駄目だった?それに私も少し楽しい...」
グレイシアさん...前から少し変わってると思っていたけど...この人天然だ。そしてサディストだ。そしてこの少年は、この歳で何に目覚めてんだ。世も末だな?...世は今、末だったわ。
気付いたら、大勢の人だかりが出来ていた。そして今気づいた。シィズと麗沢と零羅はどこに行ったかと思ったら、ベンチに座ってかき氷を食べている。俺は取り残されたわけか...
「俺も踏んでください!」「罵ってください!」いつの間にかマゾの巣窟になっていた。
「ここはSMクラブか!というか、きれいに列を作るな!」
俺のツッコミは、全く機能しなかった。
『ここは公共の場ですよ!?何やってるんですか?あなたたちは...解散してください!』
メガホンから聞こえた声で、ようやく沈静化した。誰かと思ったらサムだった。
「何やってるんです、変な祭りを開催しないで下さい。ここには子供だっているんですよ?」
グレイシアはサムに説教を受けているが、表情から察するにグレイシアは、何のことか分かってないみたいだ。頭に?が見える。
「SMクラブみたいになってたじゃないですか。それより、もうすぐ本番始まります。私も先ほど手伝いを頼まれまして、手伝っていたんです。今、王国軍は撤退したので、現在人手不足らしいんです。あなたたちは楽しんでください。私は手伝いに回ります。もしかしたら意外なところから情報が手に入るかもしれないですしね。では。それとグレイシアさん。今度は変なことはしないで下さいね」
サムは、またどこかへ行った。
「分かった?」グレイシアは疑問形で答えた。
「あの、少し聞いてもいいですか?」
今度は零羅が険しい表情をしている。何か考え事をしているみたいだ。もしかして、さっきのやり取りで意外なところからヒントがあったりする...
「『えすえむくらぶ』ってどういう意味なんですか?SとMの倶楽部って意味なのですか?Sとは何なのかよく分からないのですが、磁石の極性じゃないですよね。あれはSとNですし...」
零羅がすごい真剣に考えている。
「Sというのは、さでぃす...ぶぃっ!」
俺は、即座に麗沢の口を塞いだ。危ない。
「いや、それ特に関係ないから、役に立たないから聞いても意味無いっスよ?」
なんとしてでも、話を逸らさなければ。
「そうなのですか。分かりました」やった。やり過ごせる。
「私もよく分からない。私がS極?あの人達がM極?M極って、何?」
グレイシアさん。すみません、頼むから黙ってください。
その後、この祭りを見て回った。やはり死人を祭るというより、只のどんちゃん騒ぎだ。みんな酒を飲んで、騒いで。ビーンという男は、こんな感じが似合う人だったのだろうか、広場の近くにある川は桜が満開だった。もうお花見だな。この知らない世界で知り合った人たちと花見。違和感はないな。楽しい。夜になり花火が上がった。夏祭りも同時開催か!
たまや~。とは言っても夜は少し寒いな。
その後、俺たちはホテルに戻った。サムは少ししてから帰ってきた。そして俺は、シャワーをさっと浴びて、ベッドに入った。あぁ、疲れが出ていく。今思えば、今日は色んな事が置きすぎたな。でも終わり良ければ総て良しか。明日から頑張るか。そう考えたのを最後に俺の意識はふわ~っ飛んでいった。