第2章 19話 作戦完了。掴み得た束の間の休息
俺たちは、しばらく話し合った。
「そういえばサムさん、トランシーバー持ってたッスよね。あれで何か情報とか聞けなかったスか?」
俺は、そういえばと思って聞いた。
「ん?言ってなかったっけ。この機械、この地区に入った途端使えなくなったんだ。おそらく妨害電波的なもののせいだろう。現に今も...あれ?」
サムはトランシーバのダイヤルをいじった。通信が入った。
『あ、繋がった。サムさん?無事ですか?俺です。定食屋のジョシュ カンナです。周波数間違ってました?急に通信がおかしくなってどうしたのかと思いましたよ』
なぜか通信が出来るようになっている。
「あ~、聞こえている。原因は不明だが通信は回復したようだ。そして、我々は無事だ。一応リーダーも倒している」サムが返答した。
『え!?もうですか!?せっかく、西ボーダーのリーダーが誰か分かって通信してたのに...というか、インダストリベルト地区のリーダーも分かったんです。もしかして、もう知ってます?』
「いや、さすがに知らないぞ」
『ランディ ブーゲンベリア。狙撃の達人です。なんでも『すないぱーらいふる』とか言う、銃身が妙に長い銃を使うらしいですよ。居場所はインダストリベルト地区、エンデン町の変電所です』
妙に詳しく次の敵を知ることができた。
「ランディ?そうかありがとう。助かったよ、エンデン町だな。了解した」サムが通信を切った。
「ランディ、あいつか...それにスナイパーライフル...」
サムは何か浮かない顔をしている。
「どうかしたんスか?ランディって?」
俺は、とりあえず分からないから聞いてみた。誰なんだ?
「ランディは、私の元 後輩だ。あいつは拳銃の扱いが異常に上手くて、その中でも遠距離の射的を得意としているんだ。驚いたのは百メートル以上離れた空き缶に、銃にサイトもつけずに打ち抜いたんだ。しかも六個、全弾命中させてね。そんなやつがスナイパーライフルを持ってる。知ってるかい?スナイパーライフルっていう物」
サムは、もしかしたらスナイパーライフルの存在を知らないのでは?といった感じで俺たちに聞いた。
「スナイパーライフルは主に遠距離の物体を撃つことを想定した武器であり、始まりは...」
また横から麗沢の、うんちくが始まった。
麗沢が、銃弾の口径について語っている時だった。サムのもとに再び通信が入ってきた。
『あ~聞こえる?僕だけど...』
僕は度肝を抜かれた。三上 礼、国王から通信が入った。
「ミカミ国王?何故この周波数が...!」サムは受け答えた。
『いや、これはね。君たちまだ西ボーダーに居るんでしょ?ここの電波塔経由で君たちのトランシーバにちょいと特殊な電波で送っているんだ。君たちがこの地区からいなかったら多分出来ていない。あ、そうじゃなくて、トランシーバを持ってるってことは、君たちはそれの情報を元にポンサンを倒したってことだね。まずはおめでとう』
なんか、国王から褒められた。うれしい。じゃない!今の言い方まるでトランシーバーが俺たちの手に渡るように仕向けられたみたいな言い方じゃないか?
「何がおめでとうですか。あなたは一歩追い込まれたんですよ?それに、ポンサンさんに行きついたのはほぼ偶然です。トランシーバ、この地区では、まともに機能しませんでしたよ。ノイズまみれで、耳が痛くなるような音も出てくる。あなたが何かしてたんじゃないですか?」
サムは、少し攻め入る様に話している。
『え?僕は何にもしてないけど...ノイズ?なんでだろ...というか、さすがに虱潰しで全部の地区を三週間で回るのはまず不可能だから、一地区開放したら、その周辺のリーダーとその場所の情報がボーダー地区に漏れるようにしておいたんだけど...それやりたいが為に、トランシーバをあの作業員にあたかも開発させたように見せかけてたのにな...それで今、インダストリベルト地区のランディの場所がボーダーに行ってその情報が君たちの元に行ったはずだけど...まさか来てない?』
何故か、三上が俺たちを心配するようなことを言っている。
「...いや、その情報は来たが、それよりもあなたはいったい何がしたいんです?三週間という短い期間も疑問ですし、第一あなたのゲーム、あなたに不利すぎじゃないですか。一体何のために...」
ここで王が割って入った。
『ただ楽しみたい。それだけだよ。それにこのゲーム。ハンデを付けるくらいじゃないと僕の所に来ることすらできない。ラスボス戦の無いゲームなんてつまらないでしょ?だから君たちには不可能ではなく、でも中々に難しいくらいの難易度でこのゲームをやってもらっているんだよ。因みにインダストリベルト地区を攻略すればまた、情報が入るはずだからね。あ、そうだ。一日ぐらいはこの町でゆっくりしていったら?祭りで英気を養っていくと良いよ。一応今回だけ、ここの駅前のホテルは開けてあるから、受付に「王からの招待者」って言えば通してもらえるからね、じゃっ頑張って攻略していってね』
王は、言いたい事だけ言って通信を切った。
「本当に分からない...」ボソッとサムが言って電源を切った。
「そういえば、質問良いでござるか?このトランシーバ、通信はどれほどの範囲可能なのでござるか?」急に麗沢が困った顔で質問した。
「ん?周波数が合えば、全国どこでも通信が可能だが?何か気になることでも?」
サムはよく分からないと言った顔をしている。俺もだ。電話が全国で使えなくてどうする。
「成程...このトランシーバ、これはトランシーバというより携帯電話に近い物なのでござるな。さっきの話を聞く限りでは三上殿の通信は電波塔を経由している。携帯と同じでござるな。しかし、あのボーダー地区からここまでは、直接、電波を送っているのでござるな?そんなことが可能なのでござるか?」
「あ、そうか。言ってなかったね。ボーダーには電波局と言われる場所があって、電波塔を経由しなくても通信が出来る設備があるんだ。ジョシュはそこから通信しているはずだよ」サムの答えに麗沢は
「なるほど~、ではノイズとは何なのでござろうか...それにしても、ここの通信技術、拙者達の世界の技術を追い抜いている...でござる」
俺には訳の分からない事を呟いている。
「つまり、今日はここの町で休めってことでいいんスかね?」
俺は、唯一分かったことを提案してみた。
「確かに、急がば回れって言葉もあるし、疲れたまま次の地区に行っても危ないわ。エンデン町はかなり遠いし、今日はここで休んだ方がいいんじゃない?駅前のホテル使ってもいいらしいし」
シィズが俺の意見に賛同した。
「そうだな、ここで時間を無駄にするよりかはいいかもしれない。少々癪だが、今は王の言っていたホテルに向かおうか」
サムも賛同した。他も特に否定する者はいなかった。ただ麗沢が、独り言をぶつくさ言っていたので、しっかり人の話を聞いていたのか分からないが...
俺たちは、駅前のホテルへと足を進めた。因みにたこ焼きのトレーは途中のゴミ箱にちゃんと捨てた。後、変装は無駄だと分かったので、それらも捨てた。
俺たちはとりあえずホテルに着いた。王に言われた通りに行ったら、最上階のスイートルームなるものに案内された。広いしきれいな部屋だ。後はどうしようか悩んで話し合ったら、なんだかんだ、祭りを見て回ろうという話になった。この町の事が分かるし、王の言っていたことも気になったからだ。だが一番の理由は、サムの気遣いで今は面倒なことを忘れたほうがいいから、遊んで来い。との事だった。
サムは、もうちょっとトランシーバのノイズの原因を探るとかで部屋に残り、サムを残して俺たちは祭りの会場に向かった。