第2章 18話 最初の戦いで知る真実は、役に立たない事実
「ここでの戦いは僕たちの負けだ。我々は撤退するよ。あ、でも祭りはやるからね。軍は準備が出来次第、引き上げてね。本来は全員参加させたいけど仕方ない。住人達だけでやってくれない?後片付けは済まないけど住人たちに任せるよ。ところで、勇者さんたちは疑問に思ってるころだろうね、僕の爆弾が君たちの生命反応が消えたら爆発するって聞いたと思うけど、詳しいことを教えるよ。前に君たちに会った時に、実はこっそり体内に超小型の発信機的なのを打ち込んだんだ。大丈夫。特に体に害は無いし、これを使って位置を特定するとかは技術的にまだ無理だ。分かるのは生きているか死んだかの違いだけ、その反応が全部なくなった時、僕の爆弾が爆発するって訳、分かった?よし、じゃあこれにて説明は終わり!今日は祝う日だ。ここの祭り、楽しいんでってもいいよ。何か、分かるかもね...じゃあね!」
王は言うだけ言って放送をぶちっと切りやがった。本当に分からない、目的も意思も何もかも...何がしたいんだ?妙に爽やかだし、元気だし...祭りを楽しむ?何かが分かるのか?
「ごめん。レイは説明が地獄のように下手糞だから...とりあえず、一件落着という事でいいよ」
グレイシアは、超簡単に王の説明を分かりやすくしてくれた。つまり、気にしたら負けだという事だ。考えるだけ無駄ってなものだ。
「と...とりあえず、どうしましょう」シィズがボソッと言った。
「とりあえず、王の言い方だと、この祭りに何か残した。と捉えられる。祭りを見ていれば、何か分かるというのか...はたまた、只の冗談か...」
サムは、悩んでいた。
「うーん...」
俺も唸った。そうしたら『ぐるるるぅ...』俺の腹も唸った。そういえば、朝から何も食べず、今は昼時か...腹減るわな。俺は顔が赤くなった。
「とりあえず、何か食べましょう」シィズは、そう提案した。
「確かに...何か食べに行こう」サムもそう言った。
「では、我は撤退だな」ポンサンは当たり前のようにどこかへ消えた。
俺は、あることに気が付いた。麗沢がどこにも見当たらない。さっきから探しているがここの周辺に居ないことに気が付いた。
「サムさん。麗沢の野郎、どこに行ったか知らないっスか?」
俺が質問したら、サムがハッとして周りを見だした。
「馬鹿な、さっきまでそこに...探そう!」
「ったく、どこに行ったんだ?あのバカ」
俺たちはとりあえず、表の通りに出た。祭りの屋台などが並んでいる。住人たちは特に変わった様子がない。まるで、さっきまでの戦いが嘘のように平凡な風景だ。先ほど追いかけてきたのは、ほんの一部の人間に過ぎないという事か?というか、かなりの非常時に、よくこんなのんきに生活が出来るな。もしかして、王のあの感じはいつもの事なのか?だから住人たちは当たり前みたいな感じになっているのか?まぁいい、とりあえず麗沢だ!
俺たちは探した。見当たらない。どこに行ったんだ?
「あ、やっと見つけたでござる~」
後ろから、聞きなれた声が聞こえた。俺は振り返った。麗沢がいる。よかった無事だ。だけどなんで消えて...俺は麗沢の手元を見た。安心感が消し飛んだ。
「おい...麗沢...その手に持ってるのはなんだ?俺にはたこ焼きに見えるんだが...」
麗沢の手元。持っているのはどう考えてもたこ焼きだ。フランスみたいな町なのに、食べ物は至って日本的...じゃない、何故こいつはこんなものを持ってるんだ?
「たこ焼きでござるよ?いや~祭りと言えばこれでしょう」
「いや、それはわかる。何でお前、ってかいつの間に買ったんスか?どのタイミングで買いに行く余裕があったんスか!?」
俺は麗沢に詰め寄った。ところが麗沢からは、衝撃の言葉が待っていた。
「先輩なら大丈夫そうでござったから、それにもう昼でござる。そろそろおなかが空いたなぁと思って、買ってきたでござる。皆さんの分もあるでござるよ」ブチッ
「てんめぇぇぇぇぇぇぇっ!」
俺が、命がけで戦ってたっていうのに、こいつはたこ焼きぃ!?殴る!ぶっ飛ばす!俺は拳を振り上げるが、グレイシアに羽交い絞めにされた。
「別にいいんじゃない?無事だし。私もたこ焼き食べたい」
良くねぇぇぇぇっ!
「腹が減っては戦が出来ぬ、って言葉もありますよね、たこ焼きって食べたことないんですよ。美味しそうですね。いい香りです」
零羅ぁぁぁぁぁ、お前もかぁぁぁぁぁ!俺はジタバタ暴れている。
「お...落ち着いてサクラ君。とりあえずみんな無事で良かったじゃない。それに、ここでの戦いは終わったんだし、何か食べないと体に悪いよ?」
「はぁ はぁ。俺の覚悟って...なんか、納得いかないっス」
俺は、ふら~っとベンチに座った。みんなして同じベンチに座った。
「これ、先輩の分でござる」
麗沢が六個入りのたこ焼きを俺に渡した。もういいや、たべよ。あちっ...あ、美味しい。因みに俺は、醤油のたこ焼きが案外好きだ。これはソースとマヨネーズだが...関係ないか。
俺は食べ終えた。だが、ず~んと落ちた肩が上がる気がしない。俺だけが、張り切り過ぎてんのかな?みんなのんきすぎだろ...あんなに頑張ったのに、結局はあやふやに戦闘は終了するし、とどめを刺したのは俺じゃないし...
「あの...すこし、聞いてもいいですか」
ふと隣を見ると、零羅が隣に座って真剣な顔をしていた。
「あの、王様、三上 礼って言いましたよね。その名前って確か二年前、私たちの世界で謎の失踪を遂げた人って、同じ名前じゃなかったですか?同姓同名かもしれないですけれど...ずっと引っかかってるのです。あの人の名前...」
俺は、その言葉でハッと思いだした。
「思い出した!」
俺はガタッと立ち上がった。
「どうした!」サムが即座に反応した。
「思い出したんスよ。三上 礼、謎すぎる失踪事件で世間を賑わせていたのが、確か同じ名前ッス」
俺は、今まで気にはならない程度のモヤモヤがとれた。
「そういえば、そうでござるな。自転車のみ残して、足跡も何も残さず、まるでその場から飛んだとしか考えられない、二年前に確かにあった事件でござる」
麗沢も、たこ焼きの青のりを口の周りに少しつけて真剣に話している。
「でも、今この国を支配している人って、二十年前からいるのですよね?やっぱり人違いですかね?」
零羅がいい終える前に、麗沢が割って入った。
「もしや、時間のズレ、という可能性が微レ存でござるか?先輩、先輩がこの世界に来る前に拙者の事、ニュースになったでござるか?」
急に麗沢が俺に振った。
「そういえば、同じような事件が二件、数日前に起きたとかなんとか...」
俺は、何とか思い出してみた。
「やっぱりでござる!拙者は、先輩が来る一週間前にここに来たのでござる。聞いた話では零羅殿も拙者と同じ時間帯で来たみたいでござる...ここから考えられることは一つ!ここの世界と、拙者達の世界では時間の流れが違うのでござる!おそらく、ここの十年は向こうでは約一年ほどという感じでござるか...」
俺は馬鹿だから、麗沢が言っていることがよく分からない。
「えっと?つまり?どゆこと?」
「『精神と〇の部屋』みたいなものと思えばいいと思いますよ?ここの世界が部屋の中。元の世界が部屋の外的な感じで...あの...例え、分かりにくかったですか?」
零羅の説明で、何となくわかった。というか『ドラゴン〇ール』好きなのかな...因みに俺は好きだ。そして無印派だ、ちっちゃいころのやつが好きだ。アニメしか見てないが...
「あの、全然ついて行けないんだが...部屋?」
全く話についていっていないのが、サムだ。シィズもポカーンとしている。
「あのですね...」零羅がもっと詳しく教えた。俺も教わった。
「成程、つまりはここの世界の時間の流れは速く、君たちの世界の時間の流れは遅いっと言った感じか...」サムは、納得しているみたいだ。
「だけど...」俺はふと思ったことを口にした。
「この事って、なんかの役に立つッスかね...」周りが静まり返った。
「すみません...こんなこと知っても、これからの事に、何の役にも立たないですね...時間の無駄でした...ごめんなさい」
零羅がうつむいてしまった。周りがじっと俺の事を睨んだ。麗沢ですら、俺を哀れむ顔になった。申し訳ございません。