第2章 17話 第一の解放作戦 その3
今、目の前に俺の戦うべき敵が現れた。この地区のリーダー、ポンサン・ミィ。まずはどう動くべきか、俺は喧嘩もほとんどしたことがない。ましてや命をかけた戦いなんて以ての外だ。まずは、構えろ、動きを見ろ。逃げ腰になるな、奴と直線になれ。ほころびを探すんだ。そこを撃て。
「中々にいい視線だ、少年。王の話ではまだ、へなちょこと聞いていたんだが、どうやら吹っ切れたらしいな。だが、我を睨んでも、隙を見せるつもりはないぞ?我に勝ちたければ動くがいい」
確かにそうかもしれない。本来は攻撃に移すべきだ。だが、俺は動けない。初めて味わう感覚だ。あいつは余裕の笑みを浮かべて隙をもろに出しているように見える。だが俺には、その奥にある、視線、殺気、ありとあらゆる敵意が見える。俺には隙が見えない。今下手に動けば、確実にやられる。これが、戦いというものなのか?変な名前しているのに、恐ろしい奴だ。こんな奴らとこの先戦い続けるのか、でも、やると決めた。逃げないぞ。
「一応言っておこうか、君たちが勝つ条件は別に我らを殺す必要はない。我らの持つ発信機を破壊する。それだけでいいんだぞ?これは、王が君たちは殺人はしたくないだろうという配慮だ。因みに我の発信機は、胸ポケットに入っている」
これは、そこを狙えと言っているのだろう。罠だな。確かに見ると、右胸のポケットに小さな四角い物が見える。ん?しまった!俺は罠にかかったんだ!
「今だ!」
俺があいつの胸ポケットに意識が向いた瞬間、あいつは動き出した。地面に拳を叩きつけている。何をする気だ?だが、させるか!
俺は、引き金を引いた。電撃があいつに向けて発射された。だが、あいつの目の前の地面が急に盛り上がり土の壁を作った。その直後だ俺の足元の地面が割れた。俺は横に飛び退いた。見ると、俺の立っていた場所にぽっかり穴が空いていた。
「我は土の魔法を扱う。本来、土の魔法の使い道は、地盤を固めたりと言った使い道をする地味なものだ、だが、我ほどになると、地盤を自由自在にできる。つまり、地の利は常に我の味方だ。そして、戦いは地の利を得たほうが勝つ!我の持論だ!」
あいつは、目の前に壁のように盛り上げた土を叩いた。その直後、土の壁が砕け、弾丸のように俺に向かって飛んできた。俺は、そうだあいつと同じことをすれば...地面に向けて撃った。思った通りだ。撃った場所の地面が壁のようにせり上がった。俺は思いっきり横に飛んだ。そこからあいつに向かって、電撃を放った。
「くっ!」あいつは辛うじて避けた。
「ふぅ。いい動きだな少年。間髪なしか。楽しくなってきたな!」
あいつはまた攻撃を仕掛けてきた。楽しいか?しんどいだけだ。戦いを楽しいだなんて、分からん。
しばらく、攻防が続いた。あちこち地面がえぐれ壁もボロボロだ。修理費、だれが払うのだろう。俺はそんなことは考えもせず、戦いに集中した。俺の息が上がってきた。あいつはまだ余裕がある。このままじゃヤバいな。
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「っオラァ!」
俺は電撃を放つ。だが、威力の低下が顕著になっている。現にあいつは素手で受け止めた。
「残念だな。どうやらここまでのようだな。この程度の攻撃しか君は出来なくなってしまったのか。つまらん。これじゃ子供も倒せないぞ。さて、いい加減とどめと行こうか、少年!」
あいつは俺の前に立った。そして拳を振り上げた。その時だった、俺は今まで馬鹿だった事に気が付いた。そう考えると、ポンサンも馬鹿か...
『ゴン!』
鈍い音が目の前から聞こえた。急にポンサンが倒れた。前に倒れた衝撃で胸ポケットから、『バキッ』と何かが潰れた音がした。ポンサンの立っていた奥に、その子は立っていた。
「あ...あの、チャンスかな~と思いまして...」
零羅が、何やらデカイ重そうな鉄骨を抱えていた。やったのはお前か、というか結構えげつないことをするなこの子。
「二対一とは...卑怯な...」
ポンサンは額から血を流している。意識はあるから大丈夫だろうけど、俺は少し周りを見渡した。何故かグレイシアが無表情のまま親指を上に向けて。それを前に突き出し俺に、いや、俺たちに向けていた。
「いい演技だった。サクラ。おかげでうまく後ろを取れた。ポンサン、一対一にこだわるとこがあったから」まさか...
「君が戦ってる間に後ろを取る算段をしてた。君はうまい事ポンサンの意識を君自身に向けるようにしてくれた。後は一番隠れた位置にいたレイラに鉄骨を持たせた。すべて上手くいった。ありがとう、でも、よく視界に入らないように動けたね」
あんたが首謀者かい。子供に何てことさせてんだ。てか、ん?
「どういう事ッスか?視界に入らないように動くって」どういう意味だ?分からん。
「君の動き、ちょうどポンサンの視界にレイラが入らない動きをしてた。私はそこを狙えっていう指示だと思った...え?違うの?」
「い...いや、そうッスよ?伝わってくれてよかったッス。ナイスっす。ははは」
作って笑う事しかできない。特に意識してなかったのに、周りに回ってこの結果になった。拍子抜けというか、なんというか。だけど、勝利ってことでいいんだよな?これで勝ちでいいんだよな?俺は、この意外な勝ち方に納得できないというか、安心したというかあやふやな気分になった。
「あの...彼、本当に大丈夫なんですか?」零羅がポンサンを指さしている。
「あぁ、大丈夫には大丈夫だ。まだ戦える力はあるっ!。だが、我の負けだ。発信機が壊れた。ここでの戦闘は出来ない」
ポンサンがよいしょと、立ち上がった。
「くそ、また我の駄目な癖が出てしまったか。少年、あの戦いの中でよく我の目をかいくぐり、人を動かすとはな。そしてレイラ、とか言ったな。物音を立てず我の後ろを取るとは、中々やる。もしかしたら、君達なら、陛下の野望を止めれるのかもしれない」
だからそれは勘違いの偶然だ。と言いたいが、俺は持ち上げられていると思うと、別にいいやと思った。というか、王の野望?
「王の野望?何かあの人はやろうとしているの?」
俺が質問するよりも早く、グレイシアが質問した。
「うむ、このゲーム、時間制限付きだろう?そして、時間を超えれば、陛下は全員を殺すと言っていた」俺は、うんうんと聞いた。
「普通に考えれば、たった一人で全ての人間を殺すのは無理がある。だが、その方法があるらしいのだ」俺たちはいつの間にか真剣に聞いていた。
「爆弾だ。とてつもない威力の爆弾を爆破すると言っていた。この世界にはない技術の爆弾。君たちに聞きたい。君たちの世界にはあるのか?『ゲンシバクダン』と呼ばれるものが。王はそれを世界中で起爆するらしい」
俺は、いや零羅も原子爆弾という言葉で、目を見開いた。馬鹿な、そんなことをしようとしているのかあいつは。
「馬鹿な!原子爆弾なんてそんな!?俺は馬鹿ッスけど、それがどんなものかは知ってるっス!王の奴、自分もろともこの世界そのものをぶっ壊すつもりなんスか!?」
王は、何がしたい?死にたいのなら自分で勝手に死ねよ。何で世界中を巻き込むような事を...
「君たちの反応からして、存在するのだな。一体どういうものなんだ?」
ポンサンは、俺たちに聞いてきた。どういうものって言われても...
「原子爆弾は、簡単に言えば一発で、町が一つ吹き飛んじゃう代物なんです。しかも、爆破した時に大量の放射線が出て、そこには生き物が住めなくなる死の世界になる。これを使えば確かに人類が滅亡してしまいます」
零羅が簡単に説明してくれた。
「なるほどな、そんなものが君たちの世界にはあるのか、これは、確かに世界の運命を決めるゲームだな...」
まずいな、もしそれが本当ならとんでもない事だぞ、俺たちの世界の技術が世界を滅ぼすなんて笑い話にもならない。早急にこのゲームをクリアしないと...!
そういえば、麗沢はどうしたんだ?いなくね?どこに行ったんだ?
そうこうしていたら、町内放送が入った。
「西ボーダーの開放、おめでとう」声の主は、三上 礼だ。