第2章 14話 始まりの旅は締まらない旅
「よし、まずは仲間集めからだね。一旦外に出てみようよ。そこからじゃないと始まらないからさ」
シィズの提案で、俺たちは外に出ることにした。だが、外に出た瞬間、俺は、俺たちは目を疑った。おそらくここの町にいるであろう全住人がこの警察署の裏に集まっていた。そこの中に定食屋の店主もいた。
「この場所から出ていくという事は、やる気なんだな...
まず、この国を代表して謝らせてもらいたい。何の関係もない君たちを、王の気まぐれに巻き込んでしまって済まない。だからせめて俺たちも怯えて暮らすのは止めにしようと心に誓った。俺たちも戦うと決めたんだ。この町は君達の味方だ。安心してくれ」
話を聞くと店主が、どうやらここに人を集めてくれたらしい。
「そして、これは俺の提案なんだが、最初は西ボーダーから攻めていったほうがいいんじゃないか?あそこは、物流、交通の中心だ。情報も常に入ってくる。あの地区を解放すれば大分、有利な状況になるはずだ。無論、王のルールに沿った場合の話だけどな」
店主の提案に俺は納得した。王の言うルールが本当に信用できるのか分からないが、戦いでは情報を制したほうが勝つとどっかで言ってたな。
「いや、やめたほうがいい」サムが遮った。何で?と思った。
「王はここを捨てた。ならば私たちが次に狙うとしたら、最も有用なのは西ボーダーだ。だが、そんなことは王も承知だろう。もし私が王ならば、軍をそこにより集中させる。あそこはただでさえ警備が厳重な街だ。今、ここにいる住人たちが全員で殴りこんでも、返り討ちが関の山だ。だったら、まずは仲間をより多く集める為に南へ行くべきだ。南オーシャナ地区。あそこは観光地だ。警備も緩い。私はそこから行くのが賢明と考えるが...」
サムのいう事にも納得した。さすが、リーダーを務めることはあるなと思った。ん?じゃあどっから行けばいいんだ?俺は、考えた。
「いや、西から行くべき」
サムの考えを真っ向から否定した者がいた。グレイシアだ。
「あの町は今、明日行われる祭りの準備に追われている。軍も警備から外れて準備しているはず。むしろ今しかやるときはない」
グレイシアの意見にも賛成だ。ん?どうしよう。どうすればいいんだ?どこから行けば...
「今は異常事態だぞ。祭りなんかやる暇はないはずだ」
「レイが異常事態を起こすのは、もういつもの事。それにあなたは忘れたの?明日が何の日か...」
グレイシアの言葉にサムはしばらく考え込んだ。数分考えた後、サムは何か思い出したみたいだった。
「『英雄の日』か...私としたことが...この日の存在を忘れるなんて、クソ!私もまだまだ未熟だ。目の前の事に追われ過ぎている。これじゃああの人に合わす顔がない」
サムは、なぜかすごく悔しそうにしている。
「あの...サムさん。俺、全然話について行けないんすけど...結局どういう事なんスか?『英雄の日』って?」
俺は、思い切って質問してみた。そうするとサムは思い出したように俺を見た。
「いや、済まない。君たちはこの世界の事は何も知らないんだよな。王が一度この世界を救ったのは知っているよね」サムが少し昔話を始めた。
「あ、はい」俺は聞いた。
「二十年程前、王は二人の仲間を連れて敵を倒したんだ。一人はグレイシアさん。もう一人が国境警備隊の隊長をしていたビーン・ムゥという者だ。だがビーンはその時の戦いで命を落とした。王は彼の雄姿を尊重し忘れないようにと、彼の生まれた日と、亡くなった日に祝日を作ることを当時の王に提案した。当時の王、アレックス国王は快く承諾したよ。こうしてビーンは皆に英雄と呼ばれるようになったんだ。そして明日は、彼の生誕日だ。王は、この日だけは何があっても中止するようなことはしない。現に、彼が国を乗っ取っても、この行事だけは何も変えずに残したんだ」
サムはここまで言って、再び考え込んだ。
「今の話だけ聞くと、命を弄ぶようなあいつがまるで命を大切にしているみたいに聞こえるッスね。考えられないッス。でも、分かったのは。王は、この行事だけは行うという事ッスよね。ここから行きましょうよ。それに俺はどこから行っても全然問題ないッス。だって、俺たちはどんな奴がリーダーかもわからない。味方もどれだけいるか分からない。結局どこ行っても同じッスよきっと。さっきから考えてはいるんスけど、どうにもめんどくさいッス。俺は当たって砕くッスよ」
俺は、考えるのを放棄した。結局ここで考えても仕方ない。時間の無駄だ。俺は、零羅と麗沢を見た。どっちもすでに覚悟している顔だ。よし。
「確かにそうだな。ここで時間を潰すのは無駄だ。西ボーダーに向かおう。行動しなければ何も始まらない。よく、ビーン隊長に叱られていたな」
そういう事で、俺たちは西ボーダーから行く事にした。
「なぁ、俺も行かせてくれないか。俺たちも戦うぜ!」
店主は行く気満々だ。そうしたら「俺もだ!」「私も行きます!」次々に声が上がった。
サムは、これを止めた。
「みんなが私たちの味方になってくれたのは心強い。だが、下手に大きな行動を起こせば、内戦の勃発につながりかねない。これは戦争じゃない。ゲームだ。命のかかったゲームだがな。済まないが行動するのは、私達だけにしてくれないか?君たちは、情報を集めてくれると嬉しい」
サムのこの言葉で、周りは引き下がった。
「分かった。だったらこいつを持っていきな。最近開発できたんだ。王国軍がよく使ってる、トランシーバとか言う機械だ。俺たちはここの地区から集めた情報を、専用の回線を使ってあんたたちに送る。それが俺のできる戦いだ」
少し汚れた作業着を着た男が、太いアンテナの付いた機械をサムに渡した。
「そうだ、西ボーダーに行くなら、正面から行くのはマズイ。ちょうど、三十分後に南オーシャナから来た貨物列車が出る。そこに隠れていけばいいよ」
若い青年がそう提案した。
「みんなありがとう、君達、準備はいいかい?」サムは俺たちに聞いた。
「おk」「問題ないッス」「大丈夫です!」
三人バラバラにまとまって、覚悟を決めた。
「ならば行こう、シィズ、グレイシアさん。行きますよ!」
シィズとグレイシアは、ビシッと敬礼した。
俺たちは、車に乗り込み、まず貨物列車のいるところに向かおうとした。
「あ、ちょっと待って」シィズが一旦止めた。
「どうした?」
「化粧ポーチ忘れたから取ってくる」シィズはアジトに入った。
「...行ってこい」
「あ。トイレ行ってなかった」グレイシアがアジトに戻った。
「...うん」
「変装道具あったほうがいいんじゃないでござるか?取って来るでござる。確か、台所の裏の倉庫でござったな」麗沢まで、戻った。
「...はぁ」
「大丈夫ッスかね...」俺は、ちょっと心配になってきた。
「大丈夫ですよ...多分...きっと...おそらく......」零羅を見たが目をそらされた。
しばらくして全員戻ってきた。出発した。
「ちょっと!列車もう出そうっスよ!急いで!」
俺たちは、少し動き出していた貨物に飛び乗った。麗沢がズッコケてヒヤッとしたが、何とかしがみついていた。絶対にマネしちゃいけないな。危険すぎる、というか、怖いわ。俺も飛び乗るのに一苦労した。
「シィズ...」サムがシィズに何か言いたげだ。
「なに?...」
「時間って、どうして待ってくれないのだろう」
「さぁ?」
サムはおそらく、シィズがアジトから出てくるのに時間がかかりすぎてこうなったと言いたげだが、シィズには届いてないみたいだ。
この先大丈夫かなぁ...