第2章 12話 世界の運命を賭けた、最悪のゲーム
しばらく俺は、練習をつづけた。途中で麗沢とも手合わせした。
「行くでござるよ~、せんぱい~」
麗沢が突っ込んでくる。巨体な割には異様に早い。どうやっているのか分からないが、そんな事よりも俺は、麗沢の動きに意識を集中させた。どんどん近づいてくる。炎を纏い、まっすぐ。まだだ。ここは攻撃する場所じゃない。麗沢が振りかぶった。まだだ。麗沢が、足元の石につまずいた。ここだ。俺は力強く一歩前に出て銃を腰に構えた。ちょうど麗沢の腹のあたりに銃口が来た。俺は後、引き金を引くだけだ。ここだ。俺は風の弾丸を撃った。麗沢の体がポーンと上に飛んだ。
「ぅおっふ」
麗沢がきれいに着地した。俺は風をクッションのようにして撃ち出していた。コツがつかめてきた気がする。今だに俺の魔法に威力は、麗沢の使う魔法に比べると、かなり弱い。だが、ゼロ距離なら効果が出せる。なんとなく理解してきたかな。
「せんぱい~。凄いでござるよ~。まさか拙者の『脂肪燃焼 火斬羅』を破るとは...でも先輩、いつのまに『後の先』なんて戦い方をやるようになったのでござる?先輩はさっきまで、先に攻撃を仕掛ける戦いをしてたではないでござるか。先程、グレイシア殿と戦っていたでござるが、そこで何かあったのでござるか?」
麗沢が聞いてきた。何故かすごくまともな質問だ。いつの間にこいつは戦い方にこんなに詳しくなったんだ?と言うか、『ごのせん』ってなんだ?
「ちょっとな、俺に向いた戦い方はどうやらこれらしい。と言うか、『ごのせん』って何なんスか?」
俺は麗沢に聞いた。何かの極意的な何かか?でもなんで麗沢がそんなことを知っているんだ?
「おっ?『後の先』でござるか?剣術における極意の一つみたいなものでござる。相手の動きを読み取り、そこにできた隙に攻撃を仕掛ける戦い方の事でござる。まぁ、返し技の究極系みたいな感じでござるな。これは、漫画で読んで知ったことでござるがね」
なんだ、いつもの二次元の知識か。焦った。
俺たちは、しばらく練習をつづけた。
「おーい。さすがにそろそろおなかが空かない?一応ご飯できたよ~」
シィズだ。気付いたら、腹の虫が鳴っていた。心が落ち着いてきているからか、ようやく食欲がわいてきた。腹減ったなぁ。
「おっ、拙者もさすがにおなかが空いたでござる~」
麗沢がルンルンで台所兼食堂のようなところに向かった。俺も向かうことにしよう。
着いた。何故かすごく美味しそうな料理がたくさんあった。朝のアレからは想像もつかない。きれいに盛り付けされた料理がある。何があった?俺はポカンとしていた。
「実は、私ってあまり料理が上手くないのよね。でもね、零羅ちゃん。かなり料理の腕前が上手でね、これは全部零羅ちゃんに作ってもらったの。因みに、盛りつけは、暇だって言ってたグレイシアさんにやってもらったんだ。あぁ、ちょっと悔しい気分かも、私は女性として負けたわ...」
シィズは落ち込んでいた。まぁ朝のあの目玉焼きからすれば、落ち込むのも無理はないな。
「あの...皆さん大変そうでしたので、わたくしにできるのはこれくらいかなと思ったのですが...」
零羅が、台所のほうからひょこっと顔を出した。変わらずおどおどしているが、俺とは違い零羅は、逃げていないみたいだ。自分の善をすでに見出している。俺も負けたな。
「よし。食べましょうか」俺たちは適当に席について、食べ始めた。
「う...」
俺は唸った。周りもそうだ、麗沢、俺、シィズが同時に唸った。
「お...お口に合いませんでしたか?」零羅がおどおどしている。
「美味い...」
俺たちは同時に言った。この言葉しか出てこなかった。いつも、前菜のような扱いのほうれん草のお浸しからして、すさまじく美味しい。程よくゴマが効いてる。こんなもの生まれて以来初めて食べた。俺は食べ続け、豚肉の生姜焼きに手を付けた。生姜ってこんなに美味しかったっけ。つけあわせのキャベツも、タレに絡みご飯が進む。それにしても、豚肉が柔らかい。ここには高級食材なんて無かったよな。どうやったんだ?俺は食べ続けた。気付いたら、グレイシアは既に食べ終わっていた。早いな。と言うか麗沢より早いって...普通に食べ進めてたよな。その後、麗沢が食べ終わり、俺とシィズが同時に食べ終わった。最後に零羅が食べ終えた。
「ご馳走様。零羅殿、拙者猛烈に感動したでござる。ここまでおいしい料理は生まれて初めてでござる」
麗沢が生まれて初めてと言ったのは、今までになかった。つまり、この料理はそこまで美味しいという事だ。
「あの...喜んでくれたなら...うれしいです」
零羅は、照れ臭そうにうつむいて笑った。
俺たちは、片づけはじけた。作ってくれたせめてもの礼に俺と麗沢で食器を洗う事にした。バイトでやったことがあるから、すんなり終わった。せめて乾燥機があればもうちょい楽なんだけどな。そんなことを考えていた。
『ブッ ゥゥゥゥゥゥン』
食堂に置いてあった、テレビが急に点いた。これは、まさか!俺はテレビを見た。だが、写っていたのは玉座に座った、王 一人だけだった。王が話し始めた。
『ねぇ、これからゲームをしようよ。このゲームをやっている間、僕は一切の処刑を止めるからさ』
王がモニター越しに、とんでもないことを言い出した。
『全国民に告ぐ「坂神 レイノルド 桜蘭」「麗沢 弾」「神和住 零羅」この三人を倒したものには、この世界を支配する権利を与えよう。つまり、この三人を倒しさえすれば、僕からこの世界を解放できるんだよ。ね、簡単でしょ?これが国民たちのルール』
こいつ、自分が戦うのが楽しみとかなんとか言ってたのに、言ってることが滅茶苦茶じゃねぇか。
『じゃあ今度は、この三人のルール。気付いてるかい?ボーダー地区にはもう、僕の軍はいないんだ。誰一人としてね。何故かは君たちがここのリーダーを倒しているからさ。ワンコ・ヒィ、こいつがこの地区のリーダーだった。ボーダー地区はもう、君たちの物だよ』
何を言ってるんだ?いったい何がしたいんだこいつは?
『つまりだ。君たちのやることは、拠点の開放。そうだなぁ。旧国境の内側の全十六地区を解放すれば、君たちの勝利だ。RPGみたいで面白そうでしょ?君たちは、他の十五の地区にいるリーダーと呼ばれるものを倒す。リーダーは各地区に一人づつ。僕も含めあと十五人だからね。そしてリーダーさえ倒せばそこの地区は解放されたとみなす。解放された地区では一切の戦闘行為は禁止。つまり、そこで君たちは襲われることはない。どうだい?君たちにとっても少しは好条件でしょ?』
俺は理解が追い付かない。どちらも自分の首を絞めるような条件だぞ?まさか、こいつの目的は、ただの 遊び?ただ、自分が楽しめるゲームがしたい。そんな単純な理由で今、こいつは俺たちの目の前で演説しているのか?
『国民たちが、君たちを倒してこの国を解放するか、君たちが僕を倒して国を解放するか、はたまた、僕がすべてを滅ぼすか。選択肢はそこそこに用意したよ。どうするかは君達次第だ。じゃあ最後に、僕からの条件を一つだけ加える。四月二十八日、午前八時十六分十八秒、この時刻までにクリアされなければ、僕はこの世界のすべての人間を 殺す。今日は四月七日、あと三週間。活躍を期待しているよ。さぁ、この世界の運命を賭けたゲームの、開始だ!』
画面が暗くなり、テレビの電源が落ちた。俺は、いや、俺たちは口をポカンとしか開けれなかった。俺は固まっていた。しばらくして、急にドアが開き、サムが全力疾走で帰ってきた。
「おい!今のを見たか!?」
血相変えてサムは、息を切らして俺たちに、そう聞いた。全部聞いていたさ。だけど、理解できない。何がどうなっているのか。
「俺たちは、これから、どうするんスか?」
俺が必死に頭捻って出てきた言葉は、他人だよりな情けない言葉だけだった。