第2章 9話 己の欲望の為に支配する支配者
「この...この野郎!」
俺は手に持っていた銃を鈍器代わりにして、殴りかかった。あまりにまっすぐ突っ込んでしまったので、案の定、王に俺の一撃を受け流された。
「あ それ、どっか無くしちゃったのかと思ってたよ。君が持ってたのか、セブンスイーグル」
王はまるでさっき殺したこともすっかり忘れているような表情だ。人を殺しておいて、なんでそんな顔ができるんだこいつはぁっ!俺はもう一度殴りかかった。
「てめぇは人を殺すことを何にも思わないんスか! ぐはぁ!」
俺は吹き飛ばされた。王は何もしていないのに、俺の体が吹き飛んだ。何故だ?考える前に行動だ!ぶっ飛ばすまで気が済まねぇ!
「ねぇ、そこの泣いてた君。君は平和が好きかい?」
王は、なぜか唐突にあの女の子へ質問した。ふざけてんのか?俺は眼中にないってか!
「無視してんじゃねぇ! がはぁ!」
また吹き飛んだ。これは魔法なのか?俺の行動を見て、麗沢が動き出した。サムもグレイシアもシィズもここにいる反逆者達全員、攻撃の体制に入った。
「おぬし、拙者の怪我を治したことには感謝するが、おぬしの気分次第で人を殺すなんて許せぬ。言語道断でござる!」麗沢が突っ込む。
「王よ、私もサクラ君と同じ気持ちだ。何故お前は人を殺すの楽しめるんだ!」
サムが、小刀に風のようなものを纏わせ切りかかる。残りの全員、王に向かっていった。だが、一気に全員吹き飛んだ。どうなっているんだ!?王が歩きあの女の子のもとにたどり着いた。
「僕は平和は好きだよ。で?君は?」
王が女の子に尋ねている。平和が好きだと?何を言ってやがる!
「ぁ...あっ...」
女の子は固まって動けないようだ。当たり前だろ、人殺しが目の前にいるんだぞ。
「そうか。やっぱり君は平和が大好きなんだ。次の質問するよ。君は僕が憎いかい?」
別の質問を女の子にぶつけた。何も言ってないのになんでこいつは、答えを理解したんだ?
「わ...わたくしは...」
女の子は今にも泣き出しそうだ。というかもう泣いている。
「へぇ、今のを見ても、僕に対する憎しみは無いのか。他のみんなはこんなに恐怖して、憎んでくれているのに。君の中には悲しみしかないみたいだね」
王はまた女の子が何も言っていないのに、答えを導き出した。読心術?いや、ただ単に自分に都合のいいように答えを出しているだけだろ。
「君はすごいね。普通、こんな状況なら恐怖してみんな僕から目を逸らすか、動けなくなるかのどちらかだ。だけど君はまだ僕の目をしっかり見ている。悲しみを向ける目、今までこんな視線を感じたことはないよ」
王は笑っている。あの爽やかな薄い笑いを女の子に向けている。
「わ...わたくしは、ただ、分からないだけなんです。何故あなたは、周りから憎まれるようなことをしているのですか?このままだとあなたは、いつか一人ぼっちになってしまいます。自分の仲間も殺して、周りから憎まれて、そんなのって、あまりにもあなたが可哀そうじゃないですか...本当に...何故なんですか」
女の子は涙目のまま、王に力なく訴えた。この子は、あんな事を目撃しておいて、あいつに哀れみを向けるのか?この子、只者じゃないかもしれない。
「それが答えだからだよ」
王は淡々と答えた。どういう意味だ?
「え?」
女の子も理解できていないようだ。当たり前だな。俺もよく分からない。
「僕は、わざと周りに憎しみを植え付けているんだ。それがなぜかと言うとね...楽しいからだよ。僕は楽しいんだ。実の事を言うとね、『反逆者達』の事は、結構前から知っていたんだ。サムさんを筆頭に全世界で秘密裏に動き、世界転覆をもくろむ組織。とは言ってもまだまだ烏合の衆だけどね。ねぇサムさん知ってるかい?僕の行っている処刑の中で、『反逆者達』の重要人物がことごとく殺されていないことを」
王は今度、サムに言葉を向けた。サムは先ほど吹き飛ばされた衝撃でまだ立てない。歯を食いしばって王を睨みつけている。
「何が言いたい、あえて私たちをのさばらせているとでも言いたいのか?」
サムは吐き捨てるように言った。この事は俺も思った。全く、こいつはどこまで知っているんだ?
「正解!僕は待っているんだ。君たちの組織が完成するのを、烏合の衆なんかじゃない。僕の軍と対等に戦える者達と、僕は戦いたい。そのための処刑だよ。生き物は、死の恐怖には逆らえない。ほとんどは僕の恐怖にひれ伏す。でも、サムのような恐怖を乗り越えて、正義の炎を燃やす者は必ず現れる。僕を憎み、僕を乗り越えようとする者達が。楽しみだなぁ。君たちが僕を倒し、世界を救うのか、僕が君たちを倒し、世界を終わらせるのか。僕は楽しくて仕方がないんだ。ふ...ハハハ...ハハハハハハ!」
王は笑った。爽やかな笑顔で笑った。俺は、プッツンした。
「だああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は、全身の痛みも気にせず立ち上がった。許さねぇ!自分の勝手な都合で人を殺すなんて、何が何でも倒す!俺は、銃に向かってありったけ意識を集中させた。そして、王に銃口を向け、引き金を引いた。
『バアアァァァァン!』
巨大な電気の玉が王に向かって発射された。これならいける!
「へぇ、中々。でもこれじゃぁ、僕の足元にも及ばないよ」
王は素手で受け止めた。しかも左手だけだ。くそったれ!もう一度だ、今度はゼロ距離で撃ちこむ!
俺は、もう一度銃に意識を集中させた。だが、俺は目を疑った。王が俺の目の前に立っていた。銃身を掴んで俺の目の前にいる。俺は固まった。
「この武器はね、魔法をため込んで一気に放出できるんだ。君はまだまだ、魔法の扱いが下手みたいだね。でも大丈夫だよ。少し練習すればうまくやれるようになるからね。見本を見せてあげようか」
王は、掴んでいる銃身を王の腹部にあてた。そしてもう片方の手で、俺の手を包み、無理やり引き金を引かされた。
『バァグゥオオオオオォォォォォォォン!!』
巨大な閃光と轟音が俺の目の前で炸裂した。閃光は王の腹を貫いた。王はその衝撃で吹っ飛んでいった。俺は今、何をしたんだ。周りを見てみた。サムもシィズも口をポカンと開けている。王の妻であったはずのグレイシアも目を見開いていた。どうなっているんだ。俺はもう一度王に視線を向けた。王は、何事もなかったかのように平然と着地した。腹部には巨大な穴が空いたままだ。
「うまくそいつを使いこなせれば、ここまで出来るようになるんだよ。僕がガスガンをちょっと改造して作ったんだけど、中々の威力でしょ」
俺は更に目を疑った。傷口がもう無い。俺は、王の話がほとんど聞こえていなかった。俺は、こんな奴を倒せるのか?
「よし!僕の講習はここまで、みんな帰るよ~」
王が、俺に背を向けて歩き始めた。チャンスかもしれないと思っているが、体が動かない。先ほど倒れていた人たちも、すでに立ち上がっているが、俺と同じく動けないみたいだ。あれは、本当に人間なのか?化け物の間違いじゃないのか?
「あっ、そうそう。君たちにはまだ、しっかりと自己紹介してなかったね。僕の本名は、三上 礼。一応この世界では、ミカミ レイ アダムスって名乗っている。ようこそ、アダムス連合へ、僕はこの世界の支配者です。よろしく。日本から来た者達よ、君たちの名前を聞かせてくれないかい?」
王は、自己紹介してきた。俺は少し気圧されて、あいつに自分の名前伝えた。
「坂神 桜蘭...本名は、坂神 レイノルド 桜蘭...」
俺は、とりあえず名乗った。と言うか、名乗ることしか頭が回らなかった。
「拙者は、麗沢 弾でござる。おぬしは...一体...」
麗沢もどうやら、名乗るだけで精一杯の様だ。
「桜蘭君に、弾君ね。君たちの活躍、期待しているよ。そして、君の名前は?」
王は、あの女の子に名前を聞いている。
「か...神和住 零羅...」
女の子は、小さな声で名乗った。
「零羅さんね。よろしく。そうそう、君に一つ忠告しておくことがあったんだ」
王は零羅に、険しい表情を向けた。今までに見たことのない、真剣なまなざしだ。
「人が生きている限り、平和は永遠に来ない。善の心で世界を救おうとしても、人はその分 悪を大きくする。君は、平和を愛している。平和とは何なのか、もう一度、よく考えてみるといい。答えは、その先にある」
王は、そう言い残して、どこかへ消えた。慌てて、他の軍用車両も撤収し始めた。ふと気が付くと、ワンコの死体もない。回収していったのか?だがそれよりも、これからどうしよう。