第2章 3話 恐怖の笑顔で全てを支配する異世界の帝王
俺は今、足が竦んで動かない。目の前にいるこいつは、俺とは何かが違う。俺より年下にしか見えないのに圧倒的な存在感がある。この薄い笑顔がやばい奴を醸し出している。
「ねぇ、君は知ってるかい?ここの付近あった事故なんだけど、警察にも要請は行ってるのにどこにも見当たらないんだ。もしけが人がいたら手当てしようかなと思ってたのになぁ」
俺は声が出ない。後ろから誰かが走ってくる声が聞こえた。救急隊員だ。更に後ろに警官もいる。
「おーい!サクラ君!どこに行ったのかと思ったよ。さっきはごめんね、勝手に話を進めちゃって...」
そこまで言って、救急隊員は固まった。
「ミカミ...国王陛下っ!」二人は声をそろえて、頭を下げた。
「あっ、サムさん、久しぶりですね。仕事は順調ですか?」
王の言葉に、詰まりながら警官は言葉を返した。
「はっ、はい。今日は特にこれと言った事件もなく」警官の言葉に王は、言葉を刺した。
「え?でもさっきここの近くで事故があったって聞いたんですけどね。だからここに救急隊員のシィズさんと一緒に来たと思ったんですけど...ね」
王の言葉に、警官はしまった!と言った顔をしている。救急隊員も汗がにじんできている。
「あっ、あの事故ですか...あ あれは特に異常が見られないと言う事で帰してしまったんです...」警官が言う。
「そうなんですよ。私も見ましたけど全然無事でしたのでつい、そのまま...ハハハ...」救急隊員は笑ってごまかす。
「へ~。そうだったんですか。でもいけないですよ。一見無事でも後々に痛みが出てくることもあるんですから。でも変ですね。あなたたちは一見無事だから帰すなんてマネ、絶対しないと思ってたんですけどね」王は、口元を上げて笑っている。
「もう理解できたよ。僕に何か隠していないかい?君たちは何を隠しているのかな?」
王がにっこり笑った。警官も隊員も汗が噴き出している。
「僕の推測は、おそらく彼は、事故にあった人物だ。君たちが彼を追ってきたことでそれは理解できた。でもね僕は彼を見たことはない。サクラという名前はこの地区にはなかったはずだ。そして彼は逃げていた。彼の目はここをどこか全く理解していないと感じた。つまり急にここに現れた。君たちはそれを隠そうとしていたんじゃないかい?」
王は、まるで俺の心を読んでいるかのようだ。ただぶつかっただけなのに、状況を一瞬で把握して、ほぼ正解の答えを導き出しやがった。
「彼が何者なのかは聞かないよ。でも君たちのこの行動。引っかかるよね、何故彼を隠そうとしたのか、それは彼を利用しようとしていたんじゃない? 僕を倒すためにね...」
王はゆっくり近づいてくる。腰の剣に手をかけた。
「君たちが反逆を企ててるなんて、僕は信じたくなかったな。とても優秀で、みんなから頼りにされるエキスパートなのに、残念だよ。今日はもう反逆者の処刑は終わっちゃったからね。殺す予定はもうないんだけど、仕方ないな」
王は剣を抜いた、真っ白な刀身が俺の目に映る。俺はまだ動けない。現実離れしすぎている。
「くそっ...!」警官たちは構えた。
「構えるってことは、本当に反逆者でいいんだね。でも君たち、本当にいい目をしているよ。僕を憎み殺そうとするその目。まっすぐ僕に突き刺さるよ。だけど僕は、この芽は取り除かなくちゃいけない。『全ては平和の為に』ね」
王が切りかかろうとした。その時だった。王の肩に誰かが手を置いた。俺の目の前が氷で覆われた。一瞬だった。俺が気付くと王は氷漬けになっていた。
「にげて」さっきの女の人だ。俺はまだ動けない。
『バキィッ!』
女の人は顔色変えずに俺の顔面をいきなり殴り飛ばした。俺は吹っ飛んだ。俺は我に返ることができた。
「時間稼ぎにしかならない。みんなすぐに逃げて」
俺は、逃げようとした。だが、
『バキィン!』
子気味のいい音を立てて氷が砕けた。王は氷を打ち砕いた。
「グレイシアッ...!まさか、君が?」王は女の人を睨んでいる。王は剣を構え踏み込もうとした。こいつは実の妻であろうと裏切れば即、殺すみたいだ。
「危ないッス!」
俺は思わず手を突き出した。すると小さな電気の塊のようなものが王に目がけて飛んでいった。王はすぐにそれを切り払った。一瞬隙ができた。
今度は女の人が前に手を突き出し、巨大な氷の壁を作った。
壁の向こうに王がいる。王は壁を壊そうと、剣を振りかぶった。だがそこで王は止まった。
「私はあなたの敵になる」
女の人の言葉で、王は剣を鞘に納めた。
「そうか、そうか。ハハッ。ハハハハハハハ!まさか君がね!今日は気分がいいや。僕は帰るよ。だけど覚悟を決めておくんだね。僕の敵になると言う事は世界を敵に回していると言う事だよ!そこの彼は本当に可哀そうだなぁ。訳も分からずこの世界に来ちゃって、こんな争いに巻き込まれて、いいよ!そこの彼が僕の敵になるとしても、今、僕は手を出さないで上げよう!君たちの無駄な企みに、僕は正面から挑んであげよう!じゃあね!反逆者の方々!」
王は後ろに振り返り歩き出した。
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「はぁ、はぁ」
俺と警官と救急隊員同時に腰が抜けたように倒れた。
「私たちは、助かったの?」
「そうでもないみたいだ。私たちはこれから指名手配されるな」二人は、少し落ち込んでいた。
「ほんと、この世界いったいどうなってんスか?あの人が本当に俺の世界から来た人間?マジでヤバい奴じゃないっスか。あんな心の中をこじ開けてくるような奴みたことないっスよ」
俺は、何とかいつもの調子に戻ってきた気がする。でも、腰が抜けて立てない。
「大丈夫?みんな...」女の人が俺たちに声をかけた。
「あっ、はい。済みません。助かりましたよグレイシア様」警官が起き上がった。
「でも、あなたが本当に夫を裏切るなんて、いいんですか?私達は王を殺そうとしているんですよ?グレイシア様」救急隊員も立ち上がった。
「いい。レイはもういない。私が愛した、彼は...だから、止める。それと、様はいらない。グレイシアで、いい」女の人はすでに覚悟を決めているようだ。
「そうか。じゃああなたも迎え入れよう。『反逆者達』に、グレイシアさん」
警官は手を伸ばした。女の人は握手した。
「よろしく。彼は、いいの?」
女の人は俺を指さしている。俺はさっきから立とうとしているが、本当に腰が抜けているようで、立ち上がれない。女の人は俺に近づいてきた。
「自己紹介してなかった。グレイシア ダスト。よろしく。あと、立てる?」
グレイシアは、俺を見下ろしている。
「いや、さっきからどうにも腰が抜けてるみたいなんス。すいませんけど手伝ってもらっていいスか?」俺の言葉に、しばらくグレイシアは考え込んでいる。
「また、顔殴ればいい?」グレイシアは拳を振り上げた。
「ちょちょちょ、なんでそうなるんスか!?」
俺は、頑張ったが立ち上がれない。グレイシアは拳をつき下ろした。俺は目をつむった。
「冗談」
俺は目を開けると、ちゃんと手を差し伸べていた。
「ハハッ...」
俺は、グレイシアに起こされて、肩を貸してもらった。我ながら情けない姿だ。
「どうも すいませんッス」俺は歩くのもやっとだ。
「グレイシアさん。私が肩を持ちます」警官に交代してもらった。
「私も君に自己紹介していなかったね。私はサム・ヨゥだ。警官をしている。本当にこんなことになって済まないね」サムは俺に謝っている。
「謝る必要なんてないっスよ。もとはと言えば、俺が急に走り出して招いてしまったことなんスから。謝るのは俺のほうっス」俺も謝る。
「それで私は、シィズ・ナナっていうの。救急隊員をしているわ。よろしくね、サクラ君。サム、私も手伝うわよ」俺は二人に抱えられた。
「俺は、坂神 桜蘭ッス。本名は坂神 レイノルド 桜蘭ッスけど。みんな『サクラン』って呼んでます。俺の呼び方これでいいっスよ」俺は自己紹介する。
「じゃあ、一旦戻りましょう。みんなにも一応紹介しなくちゃね」
俺たちはさっきのアジトに戻ることにした。