第2章 2話 裏切り者と反逆者達
扉が開くと、長いまだ新しそうなロングのコートを着た人がいた。フードを被って顔はよく見えない。その人は店の中に入り、俺の前に立った。
「店長...この人、ちょっと借りる。あとで返す」
声が聞こえた。女の人の声だ。俺はその人にいきなり腕をつかまれて、店の外に引っ張り出された。後ろで、
「ちょっと!」と呼んでいる声がする。俺は連れ出されその人は扉を閉めた。その人は路地裏に俺を連れて行った。俺は逃げようと思った。だが、壁ドンされて逃げられなくされた。
「君なら出来る」
その人は唐突に俺に言った。そしてフードを取った。やはり女の人だった。無表情だがかなりの美人だ。俺は思わず見とれていた。この人、すげぇ美人だ。見つめられて俺は顔が赤くなってきた。だがその人は、俺の顔にいきなり硬いものを押し付けてきた。
「これ使って」ゴリゴリそれを押し付けてくる。痛い。
「あの、なんで俺の顔に押し付けるんッスか?痛いっス」俺は本音を漏らした。
「..........ごめん」その人は、今度はちゃんと手元に渡した。俺は受け取った。
「じゃあ、行く...君なら、倒せる。レイを、レイは変わった。君は、全てを変えれる。お願い、レイを倒して」
その人は、それだけ言って去っていった。俺は、ボーッとしていた。ふと我に返って手元を見た。
「これって...銃!?しかもこれ、映画とかでよく見るマグナムとか言うやつじゃん!頭吹き飛ばせってか!? とっとと取り合えず、店に...」
その銃は、よくわからない装飾の施された長いバレルに、翼のようなものをあしらったかのようなフロントサイト。そして木製のグリップには七羽の鷲の絵が描かれていた。映画でたまに見る銃だがこんなものは見たことがない。そして俺が思った事は一つ。『悪趣味』だ。だが俺はそんなことを気にする余裕はなかった。
俺はその銃を隠して店に戻ろうとした。店の扉に手をかけた。だが開かない。それに冷たい。よく見ると扉が凍っていた。中からガタガタ音が聞こえている。俺は力任せに扉を開けた。
「ぐぬぬぬぬ。おりゃあ!」
何とか空いた。中で店主と救急隊員がズッコケていた。
「はぁ、ありがと。助かったよ。でも今の人なんだったの?」救急隊員は俺に聞いた。
「女の人ッスけど...なんかこれを使えって。これでレイを倒せとか」俺はさっき、もらった銃を取り出した。
「これって...王の、セブンスイーグル!」店主と救急隊員は、そろって声をそろえた。
「この銃って、そんな名前なんスか?なんか違ったような、ってか、王の?」俺は、そこが気になって聞き返した。
「あぁ。拳銃の最先端。ミカミ国王のみが扱う武器の一つ、セブンスイーグル。意味はよく分からんが、そう呼ばれている。王は、この拳銃と流血光刃と呼ばれる剣を携えているんだ。だが何故これがここに?今の人は一体...まさか!兄ちゃん、さっきの人の顔を見たか?」店主は俺に詰め寄った。
「はっはい...きれいな女の人ッス、なんか変わった喋り方だったッスね~」俺は思い出してちょっと赤くなった。
「グレイシア...様?」救急隊員がつぶやいた。
「今の人ッスか?誰なんスか?その人、有名人か何かッスか?」俺は何となく聞いてみる。
「グレイシア ダスト アダムス様。彼女は王の妻だ。だがどういう事だ?兄ちゃん、その人はこの拳銃でレイを倒せと言ったんだよな?」店主は俺に確認を求めた。
「俺は全てを変えられるとか、レイは変わったとかなんとか...」俺は、可能な限り覚えていることを思い出した。
「まさか...裏切り?実の夫を?」
救急隊員は目を見開いている。俺はそろそろついて行けない。
「そうとしか、考えられないな。この流れ、グレイシア様はミカミ国王を裏切った」店主は考え込んだ。
すると、今度は扉が勢いよく開いた。
「シィズ!ここにニホンから来た奴がいると言っていたが本当か!」
店に入ってきたのは、警官の服装を着た、店主と同じくらいの男性だった。
「サム?どうしたの慌てて」救急隊員はビックリしていた。
「ニホンから来た奴がまだいるんだ...あと二人も...彼らは一週間ほど前に現れたらしい、一人は、エイド南地方、もう一人は英雄の墓だ。今こっちに輸送中らしい、明日には二人ともここに到着する予定だ。だが、いったいどうなっているんだ?三人も現れるなんて...」
警察は、頭を抱えている。
「分かったわ、この人を連れて署に連れていく。だけどサム、これは逆に絶好の機会と思わない?」救急隊員が少し興奮気味になっている。
「どういう事だ?」警官は聞き返した。
「異世界の者が三人いる。つまり王と同じ境遇の者が三人。三人もそろえばもしかしたら、王を倒せるんじゃない?」救急隊員は少し笑っている。
「まさか、お前。一般人を『反逆者達』に入れるつもりか?危険だ!いくら異世界から来たとはいえ、相手はあいつだぞ?こいつらの命を危険にさらす気か!?」
警官は怒りながら、制止した、だがこの救急隊員は止まらない。
「王は見境なく人を殺す。私たちも、もしかしたら王の処刑の的になるかもしれない。だったらいっそのこと、私たちでかくまうのよ。王の知らない存在を作り上げる。そうすれば逆に安全というものじゃない?」
救急隊員の提案に考え込んでいる警官を、俺は見ていた。俺はもう何が何だか分からない。俺はなんでここにいるんだ?帰りたい。俺の中にはそれしかなさそうだ。だが、帰る場所はないんだよな。俺は、どうすればいいんだ?どこへ行けばいい?俺の答えは出ないままだ。こいつらの話を聞いていることしかできない。
「分かった。とりあえず署まで連れてきてくれ。本音を言えば連れて行きたくはないんだが、この人には今、家はない。俺は見過ごすことは出来ない」
警官は、俺を睨むように見つめていた。
「じゃあ行きましょうか。えっと、さくら君だったよね。ついてきてくれる?」
俺は、なすがままつれられた。
「店長!あなたも来てください。緊急会合をします。くれぐれも王国軍の目に入らないように。場所はボーダー署の裏。あの部屋です」警官は店長にそう伝え店を出て言った。
後ろで「了解。後でな」と声が聞こえる。
俺は、外の道を歩く。今気づいたが、周りの建物は西洋な町並みをしていることに気付いた。俺はそれまで音だけ聞いてて、あまり違和感を感じていなかった。音だけ聞いてると、信号とかの音が日本と何も変わらないからだ。だが、少し町並みは古臭い気がする。なんというか、昭和後半のような古臭さを感じるような気がする。
俺は、何か聞いてみようと思ったが、二人はすごく緊張した顔をしている。とても話しかけれる雰囲気じゃない。
俺は、警察署のような場所の前に着いた。警官と、救急隊員の二人はあたりを見回している。
「よし、今だ」
二人は入口に向かわず、裏のほうへ回った。そこには廃墟になった建物がある。俺はそこの地下に降りた。そして、暗証番号を入力できるパネルと頑丈そうな扉があった。警官はパネルに何か打ち込んだ。扉が開いた。
「ようこそ、異世界の住人さん。ここが、『反逆者達』の拠点の一つだ」
そこには、だだっ広い空間に人が集まっていた。みんな木刀等を使って稽古をしている。
「みんな!よく聞いてくれ!今日、とんでもない事が起きた。ニホンから飛ばされてきた人が現れたんだ!」
警官の言葉に、周りはどよめいた。
「それが、一人ではないと言う事が分かった。今、私たちが連れてきたこの人。そして、別の場所で発見された二人。つまり三人いるのだよ。異世界の人物が、そこで君たちに聞きたい。私は彼らをここでかくまうつもりでいる。幸運なことに、彼らが現れた事は王国軍には知られていないようだ。王は、このことを知らない。だったらここでかくまい、機会を探る。みんな。協力してくれるか?」
警官の呼びかけに、そこにいた人たちは賛成の声しか上げなかった。
「それにみんな、これはまだ確証はないんだけど、グレイシア様は、王を裏切っている可能性があるのよ。サクラ君、ちょっとさっきの拳銃見せてくれる?」
俺は、唐突に言われ、銃を取り出した。周りはさらに騒めいた。
「これは、王の武器の一つ。これは、グレイシア様が持ってきたらしいのよ。これを彼は受け取った『レイを倒せ』ってね、これは、完全なる王への反逆行為。今、私たちにやっと天がほほ笑んだのよ」
救急隊員は嬉しそうだった。周りは騒いでいる。
「ついに、あいつを倒せるのか?」「やってやる!」
俺は、何もしていないのに話がどんどん進んでいく。俺はなんだかイライラしてきた。俺は俺のいた世界に帰りたいんだ。なのになんでだ?勝手に俺を持ち上げやがって...俺は、ついに怒りが爆発してしまった。
「いい加減してくださいッスよ!なんで俺がこんな目に合ってるんスか!勝手に物事を進めないでほしいっス!俺は、元の世界に帰りたいんだよっ!」
俺は不満をぶちまけて逃げだした。どこへ行く当てもなく。俺はただ現実から逃げた。
ここはどこか分からない、だが俺は走る。適当に疲れ果てるまで...
「ごッ!」
俺は誰かにぶつかった。俺はしりもちをついた。
「あれ?見ない顔だね。君は、引っ越してきたの?」
その人は、俺に手を伸ばしてくれた。その人は大分使い込まれているボロボロのロングコートを着ていた。
「あっどうもッス...」
俺はその人の顔を見てしまった。俺は固まった。少年のような顔立ちで、腰には剣を刺している。そして俺を薄い笑いで見ている。
「三上 礼 ...」
俺は、さっきのテレビ中継が俺の頭の中を駆け巡った。俺は、冷や汗がにじみ出た。ヤバい!俺は動けなくなった。指の先まで、ガチガチに固まっている。
「そんなに固まらなくてもいいじゃない失礼だなぁ。別に君に何かしに来たわけじゃないんだし、僕はなんかここの近くで事故があったって聞いてね。でも救急搬送はされてないから変だな?って思ってね。見に来ただけだよ」
彼はにっこり笑っていた。