第1章 29話 異世界の帰還
僕はふと目を覚ました。車は森の中を走っている。
「どれくらい寝ていましたか?」僕はスチュワートに尋ねた。
「ん?まだ三時間ぐらいしかたってないぜ?」
スチュワートは答えた。僕はもう眠くなくなったので、外を見る。隣ではグレイシアとフォックスが寝ている。
「あんさんよぉ。ちと聞いていいか?あんさん、俺と会った時に比べて幼くなってねぇか?十代前半に見えるぜ。あんさん二十だろ?」
スチュワートも、ビーンと同じ質問をしてきた。
「はい。そのことはビーンさんに言われて気が付きました。そしてゼロに会った時も彼は二十年以上ここにいるはずなのに、十八歳ぐらいの顔つきでした。さらにそこのフォックスに至っては、数百年とか言ってましたね。なんでもこの子?と初代アダムス国王は、一緒に旅して国を作ったとか。のんきな子供っぽい性格ですけど、僕達よりはるかに年上みたいですよ。この世界が、僕の世界から来たものを若返らせているんですかねぇ?」
僕は僕なりの予想を、スチュワートに言った。
「へぇ。この世界がねぇ。あんさんは、ここに来て俺たちの知らねぇことも一気に知ったみてぇだな。アダムスの奴には言うつもりか?」
スチュワートは、何故か王の名前を出した。
「まぁ。別に話してもいいんじゃないですか?結構国の発展につながりそうなことも聞けましたしね」
僕は、何とはなしに返した。
「ふぅ~ん。まっ、頑張んな。だがよ、教えすぎんのは逆に危ないかもしれねぇぜ?」
僕はスチュワートの顔を見た。彼の目はどこを見ているのか分からない。前を見ているようで周りを見渡している。見渡すようで一点を見ているように見える。何かを警戒しているかのように。僕は(まさかな)と思ったが、考えるのは止めた。今は、嫌なことは考えないでおこう。
夜になった。僕たちは運転を交代しながら進むことにした。
「夜通し行けば朝には国境につけるぜ。しばらくしたら運転交代してくれ。さすがに常に運転し続けるのはこの体にはきつい。一時間は運転するから、その後頼めるか?」
スチュワートは僕に聞いた。
「問題ないですよ。では一時間後に」僕は、少し眠ることにした。
三十分ぐらいたった時、僕は、急に目を覚ました。バケモノの足音が聞こえる。早い。残ったバケモノか。
「スチュワートさん!バケモノです!止めてください!」
スチュワートは、急ブレーキをかけエンジンを切った。衝撃で今まで寝ていた二人も目を覚ました。
「くそやろぉ、こういう時は素直に帰すもんだろうがよぉ」
スチュワートは小声で話す。
「はぁ。現実は映画みたいには、いかないってことですね。あぁ近づいてくる」
僕はいやそうな顔をした。バケモノの足音はどんどん近づいてくる。仕方ない。やるか。僕は車を降りた。
「行くときは全然遭遇しなかったのにね。帰りでこれかぁ。みんなは隠れてください。この数なら今の僕でも余裕です」
僕は構えた。そして、バケモノは猛スピードで飛び出した。僕は切り裂こうとしたが、どうも変だった。バケモノは通り抜けた。そして、バケモノはどこかに消えた。
「あれ?」僕はキョトンとした。
「どうなってんだぁ?あいつらは人を見かけたら見境なく襲ってきたのによぉ」スチュワートも唖然としていた。
「まっ、まぁ、何事もなかったんならいいんですかねぇ?」
僕はスチュワートに聞いた。彼も「そうだな」しか言えなかった。
「仕方ありません。あとは僕が運転します。念のため、バケモノの足音の聞こえない道を行きます。ちょっと時間がかかると思いますけどね」僕は提案した。
「そうだなぁ。頼めるか?」
僕は運転を変わった。僕は運転席に行きエンジンをかけた。マニュアル車だ。教習所で教わって以降操作したことがなかったが、何とか運転できた。僕は途中休憩をはさみつつ、音のしない方向へ地図を確認し進んだ。僕以外全員寝た。スチュワートとグレイシアは、フォックスをもふもふしながら寝ている。
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夜が明け、朝日が昇り、太陽が上がっていく。時間は午前十時ほどになった。全員すでに起きている。僕の走る車は、見覚えのある草原にたどり着いた。僕が最初にここに来たところだ。遠くに壁と門が見える。
「あっ、色々避けて進んでいたらボーダー地区についちゃったみたいですね」僕はつぶやいた。
「あー、こっち行っちゃったかぁ。まぁいいや。アレックスの奴は西で待ってるはずだからなぁ。ある意味好都合かもなぁ。あいつの事だ。盛大に準備してそうだな。俺ぁそういうのはごめんだ」スチュワートは、ほっと溜息ついた。
「まぁ、僕もそういうのは苦手ですからね。表彰式とかもうガチガチで」
僕は、「ハハハ」と笑った。グレイシアたちは、じゃんけんのようなものをして遊んでいた。
門の前にたどり着いた。僕より先にスチュワートが降りた。
「お~い、スチュワートが帰ったぞ~」とやや大きい声でスチュワートが言うと二秒もしないうちに、窓が開いた。
「ふぇ?!スチュワートたぃ...さん。なんでこっちに?西から出たはずじゃぁ...」門番の人は大変驚いているようだ。
「あそこから帰んのは嫌だかんなぁ。盛大にお出迎え~とかになってんだろ?いいからサッサと開けろよぉ!」スチュアートがちょっと脅し口調でいった。
「はっ、はい~!」門番は全力で窓を閉めた。一秒後に扉が開いた。心なしか前開いた時より早く感じる。
「ふぃ~、やっと帰れたぜ。仕方ねぇ、アレックスに連絡するかぁ。ちとそこの公衆電話のとこで止めてくれ。
僕の乗った車は、電話ボックスの前に止まった。スチュワートが車から降り、電話を掛けた。
「あー。アレックスか?俺だ。今帰った。ボーダーにな」
スチュワートがニヤッと笑って言った直後、受話器から耳を遠ざけていやそうな顔をした。大きい声で何か聞いたのだろう。しばらく話して電話を切った。スチュワートが車に戻ってきた。
「今行くから待っててくれだってよ。慌てたあいつの声は面白かったなぁ。まっ、あとは大丈夫だろ。
俺は帰るかんなぁ。あんさん方はしばらく待っててくれ。あっ、これ昼ご飯代だ。そこらへんで何か食いな。車は警備隊のだから、警察かどっかに持ってきな。回収してくれるぜ。じゃあな」スチュワートは、素早く立ち去った。
「はぁ。じゃあまず車を返しに行くか」僕は警察署に向かった。
警察署は、あの火事が起きた場所のすぐ裏だった。僕の住むはずだったアパートは、立ち入り禁止の立て札があり、建物は焦げていた。が、その建物にしか焦げ跡はなかった。僕は回り込んで、警察署に入った。そして車を止め警察署に入る。グレイシアたちは警察署の前で待たせた。
「あー、すいませーん。あの車どうすればいいですかー」
僕はそう言って建物に入る。すると一人の男が、眠そうに出てきた。
「あ~、あれどうしたの?落ちてた?...っていうか君は?まさか運転してきたとか言わないよね」
警察が、ハッと目を覚ました。(そういえば十代前半にしか見えないって)僕は思い出した。
「あ~、これはスチュワートさんが、置いてったんですよ~」僕は誤魔化した。
「あ~、なんか外に出かけてくるとか言ってたなあの人。もう帰ってきたのか。それはそこに置いておいていいよ。それにしても後始末をこんな子供に任せるなんて、あれ?君、どこかで」警察は感づきそうになっていた。
「何のことです?では僕はこれで」僕は、何とかポーカーフェイスで切り抜けた。僕は警察署を出た。
「ふぅ、じゃあちょうどお昼時だし、何か食べよう」僕たちはたまたま見つけた定食屋に入った。
「はい、いらっしゃい、ってダストじゃねぇか。あんたは、中央に行って...」若そうな店主は、驚いていた。
「ちょっとあって...かえった」彼女は答えた。店主はポカーンとしていた。しばらくして
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」変な叫び声をあげた。
「失礼ですよ。人は成長できるんですから。僕は焼鮭定食で」僕は注文した。
店主は「はっ、はぃ 焼鮭一丁」厨房に向かって指示を出した。
「からあげ?ていしょく?」彼女も注文した。
「へい。からあげ一丁...」店主は魂が抜けかけている。
「ところで、エプロンのあんちゃん!焼肉定食ってあるぅ?」
フォックスが注文した。店主は固まった。三秒ほどたった。
「キェェェェェェアァァァァァァマタシャァベッタァァァァァァァ!!!」また叫んだ。
「狐がしゃべって悪いかよぅ」フォックスは怒っていた。
「いや、さすがにこれは僕も驚いたからね。店員さん。すいませんね。でもお願いできますか?」
僕は、何とか店主を落ち着かせた。
「やっ..やきにく...いっちょぅ」大丈夫かなぁ。
しばらくして、料理は出てきた。普通においしい。二人も食べている。そして食べ終わった。
「お勘定お願いします」僕はお金を出そうとした(あっ、この世界でもお金の単位は円なんだ。形は違うけど)と思った。僕達は出ようとしたとき、入り口のドアが勢いよく開いた。
「ゼロを倒したのは本当かい?レイ君!」王だ。
「キェェェェェェアァァァァァァヘイカァァァァァァァ!!!」店主はとうとう倒れた。
「あれ?人違い?じゃないよね。レイ君でいいよね」王は僕に聞く。
「いろいろありましたけど、僕は、三上 礼ですよ」僕は笑って返した。
「そうか、で、ゼロはどうなったんだい?」王は僕に迫ってきた。
僕は説明した。そして、ビーンが死んだことも。
「そっ、そうか。だけどゼロを倒したということは、この戦争をついに終わらせたという事だよね。予言は本当になったという事か。ハハッ、すごいなぁ。戦争は終わったのかぁ」
王は、少し涙を流して喜んでいる。
「君たちには本当に感謝するよ。レイ君、ダストちゃん」僕はそこで訂正を加えた。
「グレイシアですよ」僕の言葉に、王は?を浮かべた。
「彼女の名前、ダストは本名ではないんですよね。だから本当の名前を付けてあげようと思って。だから考えたんです。グレイシア ダスト。『氷河の世界で輝く奇跡の光』って意味です。どうです?」僕は王に尋ねた。
「グレイシアか。登録申請をやってみるよ」王は答えた。
「後、これは僕としての提案ですが、魔法族や王以外にも苗字をつけたらどうです?僕の世界では、親の意思を伝える為に親が自分の子に名前を付けます。だから、同姓同名ということもあります。この国では国が、名前を決めると聞きました。判別とかいう意味では確かに使えます。ですけど、なんか統制されている感じがしますし、魔法族との差別にも感じます。どうですか?」僕は王に提案した。
「名前を親が決めるか、考えたこともなかった。わが国ではこれが当たり前で疑いもしなかった。確かに、それはいい。自分の名前に誇りが持てるなんて、素晴らしいじゃないか!さっそく、審議の内容に加えよう!君はまさに予言の『始める者』だね」王は僕をほめた。
「君たちは英雄だ。レイ君。グレイシアちゃん」王は僕たちにこう言った。
「いえ、僕の中ではビーンさんこそが英雄です。それに、フォックスにも僕は助けられました」僕は言った。フォックスが僕の頭の上に乗った。ちょっと重い。
「おいらも頑張ったんだよぉ」のんきに言っている。
「喋る...狐?」案の定、王も驚いている。僕はあることを思い出した。
「あっ、陛下。ニヒル アダムスって名前知ってますか?」僕は唐突に王に聞いた。
「ニヒル?いや聞いたこともないな」王はやはり知らないようだ。
「実はですね...」僕の知っている限りの事を話した。
「そうか。初代国王が...」王は真剣になって聞いた。
「そうだ。君たち中央に来てくれるかい?そこでいろんな知識を教えてほしい。住居もいいところがある。来てくれると嬉しいんだが駄目かい?」
王は僕にお願いした。僕達は断る理由もなかったので、同時に承諾した。
「ありがとう。では行こうか」
僕はお金を置いて、外に出た。車がいっぱいあった。そのうちの一台に乗った。
僕たちは、西ボーダーに向かい、高速鉄道に乗り、中央地区に向かった。
高速鉄道に乗り、一時間ほどたった。フォックスは、王となんか遊んでいるようだ。グレイシアが僕の席の前に来た。彼女は僕の顔を見ている。
「ん?どうしたの?僕の顔になんかついてた?」僕は疑問をぶつけても、彼女はじっと僕を見ているだけだった。しばらくして彼女は頷いた。
「レイ...これ...あげる」
彼女は突然いつも来ていたロングコートを脱いで、僕に突き出した。僕は急なことで戸惑った。
「もう...いらない」彼女は僕にぐいぐいコートを押し付ける。
「え?でも、いいの?大切なものとかなんじゃないの?」僕は彼女に返そうとした。
「たいせつ...だから...あげる..お父さんの...かたみ。レイなら...あげていい」
彼女は真剣な目をしている。僕は受け取った。返すのは逆に失礼と思ったからだ。僕は大切にした。
中央に着いた。案の定、盛大に祝われた。僕は何も言わず、王について行った。というのもほとんどが恥ずかしいというのが理由だが。
そして、しばらく僕は有名人になってしまった。
僕達は中央地区で暮らすことになった。僕は、家電の修理を仕事にしながら、時折、技術提供などを頼まれ、この世界の研究所にもちょくちょく顔を出した。家は、高級アパートに住まわせてもらっている。グレイシアはというと、僕が一応親ということになった。彼女は学校に通っている。以外にもすんなり友達ができたようだ。フォックスは、基本家でのんびりしているが、僕と一緒にたまに研究所に行き、魔法や、この世界についての研究を手伝っている。
この世界は平和になった。僕達は幸せに暮らしている。僕の周りのみんなは笑顔でいてくれている。僕は感謝した。ビーンに、そして、ゼロにも。彼らの存在が僕を、この世界を大きく変えた。僕はたまに、ビーンの墓に行っている。
『全ては平和の為に』